「それじゃ・・・
行ってきます。」
愛は手術室へ消えた。
微笑みながら・・
純も微笑みながら見送った
元気になって
帰ってくることを信じて。
手術室のドアが閉まった後
純はふらっとして椅子に座った。
多恵子はいったん帰るように
純に言った。
謙次もここは自分たちが
いるからといった。
ところが、外は嵐だった。
ホテルを守るためにみんなで
防災の作業をした。
そこへ電話がかかってきた。
手術が終わったとの多恵子からだった。
あわてて病院へ行った、純。
「落ち着いて今は集中治療室に
いるわ。」
「成功したのですか?」
「それが私たちにもよくわからないの。
純さんが来てから
先生が話すとか・・」
医者が来た。
やることは全部やったという。
腫瘍が想定外の脳幹の奥にあったので
全部とりきることができなかったと言う。
「残った部分がどれほど脳を冒しているのか
わからないので、残念ですが
今の段階では愛さんの意識が
戻るかどうか、わからないのですが・・。」
謙次は天井を見上げた。
絶望が走った。
多恵子は医者に近づいた。
医者は言葉を増やして説明した。
「もちろんこちらとしては意識が戻ると
信じています。。。
ただそれは10日ごか。。
1年か2年・・・」
「もしかしたら意識が戻らないと・・」と多恵子。
「その可能性もあります。」
愛が集中治療室から出てきた。
「愛君、愛君・・・」
純は叫んだが、答えはない。
「体が硬くならないように手足を
さすってあげてください。
脳に刺激を与える意味もありますので。」
と医者は言った。
病室に入って、純と両親は
手足をそれぞれさすった。
「早く目を覚ましてね、愛君を
みんなが待っているのだから。」
と純。
「愛、起きろよ」
「愛、愛・・・」
「愛・・おきるんだぞ・・・」
誠が来て、剛から連絡で
ホテルが大変だと言う。
純がホテルに帰ると
ガラスはわれ、雨風で壁は汚れ
椅子も汚れ
剛が書いた絵も汚れてしまっている。
あのジュークボックスも
壊れてしまっていた。
あまりの惨状に息を呑む純だった。
正と羽純が降りてきた。
「純・・」
「二階は?」
「ここと同じだ。」
「どうしよう純ちゃん・・・」
ーおじい、おとうちゃん、
こういうときなんていえばいいの?
「みんな、疲れたでしょ。帰って休んで。
私は予約してくださったお客様に
オープン延期の連絡をするから。」
剛は、「おねえは寝てないんだろう?大丈夫か?」
と聞くが
いまはそんなこと言っていられない。
「純ちゃんこそ休んだら?
寝てないでしょ?」とあゆみ
そこへ、マリアと一緒に晴海が来た。
「純、大丈夫?」
「うん、大丈夫、どうしたの?」
「あのね、愛さんから私に手紙が来ていた。」
中を見た純。
「おかあさん、この前は僕みたいな男に
もったいない言葉をたくさん下さって
ありがとうございます。
あんなラブレターをいただけるなんて
僕は本当に幸せ者です。
僕は純さんと結婚して
お母さんたちと家族になることができて
本当に幸せです
ぼくへの愛がいっぱい詰まったホテルを
作ってもらえて、本当に本当にしあわせです。
おかあさん、純さんを生んでくれて
ありがとうございます。」
意識がなくなる前に晴海へ感謝を伝えようと
したのだろう。
愛の意識が戻らないうえに、ホテルがめちゃくちゃに
なった。純にとって最大の危機である。
しかし、最大の危機は今まで何度もあったが。
純は愛の病院へ行った。
「愛君、こんなのへっちゃらだよ。
愛君を絶対元気にして見せるからね。」
そういって、純は愛の手をマッサージした。
すると愛の手のひらが純の手をにぎった。
驚いた純は、先生を呼ぼうとした。
「先生、先生。」
「どうしたの?」と多恵子
「愛君が手を握り替えたんです。
先生を呼んできます。」
「やめなさい。」
「え?」
「さっきも同じようなことがあったので
先生に聞いたらよくあることで
寝ている人をつつくと
動くような物だって。それだけでは
意識は戻らないっていってたわ。」
純はもう一度手を握ってみたが
もう、反応はなかった。
「ねぇ、愛君・・・・起きて」
泣きじゃくる純を多恵子は言った
「これはあなたのせいじゃないわ。
わかったって言うまで何度でも言うわよ。
こうなったのはあなたのせいじゃない。
愛は、あなたと結婚しなかったほうが
良かったなんて決してない。
これはあなたのせいじゃないのよ。
わかってるの??」
これは・・・・」
「わかりました・・・・・」涙で声が震えた。
「ありがとうございます。」
多恵子は純の肩を抱いた。
「目覚めるって信じましょ
私とあなたが組めば、世界最強なんでしょ
私たちが諦めたら
愛はおわってしまうわ。」
純はうなずいた。まだしゃくりあげるように
泣いていたが
純のかたを抱く多恵子の手が震えていた。
ー初めて触ってくれたお母さんの手が私よりずっと
震えているのがわかった・・・。
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愛が晴海に感謝したのは、愛の誕生日に晴海が
思いを文章にしてお誕生日おめでとうと
お祝いをしてくれたことだった。
「愛さん、いつも純のことありがとうね。
純はあなたがいなかったらこんな素敵な
ホテルを作ることは出来ませんでした。
これからも末永く、純のことを
宜しくお願いします。
お誕生日・・・ほんとうに・・おめでとう。」
そんなこともありました。
しかし、愛は運命のいたずらか・・
いまやねむり姫のように・・・・・あれ?
愛がねむり姫???
だったら、その眠りを覚ます王子様は純??
ま、男とか女とかにこだわる必要はないと
作者さんが言うのだから。
ねむり姫は、愛なんでしょうね・・・。
純、人生最大の危機というがいつも
最大の危機なんですよね、純は。
里やがやけたときも、
おじいのホテルがなくなった時も
オオサキがのっとられた後やめたときも
それなりに最大の危機でしたが、
どこまで努力をしても最大の危機は
どこまでも純を追ってきます。
王子様とお姫様は、こうして
末永く幸せに暮らしましたとさ
と言うエンディングは・・・・・・・
期待できませんな。
