誠が宮古に来ている。

「え?」と驚く純と愛。
そのとき、ホテルのドアが開き
誠が入ってきた。

「うちもここで働かせてくれヘンかな。

いつまでもぷーやっているわけにはいかへんし。
私も純さんみたいにホテルで働きたいし。」

「いいけど、お父さんとお母さんに言ったの?」

「それは私の人生やし。あの人達には関係ないし」
愛も両親に言うべきだと言うが
誠は「二人とも勝手に離婚したし
愛ちゃんが高校のとき家出してから家族みんな勝手に生きること
になったし。な、愛ちゃん。」

という。戸惑う愛。

それを言われると反論できないか・・・・愛君。

翌朝、ロビーのソファで寝ている誠。

そんなにのんびりしているわけではない純たち。
どうするか・・・・と二人でなやみ
愛が謙次に電話をした。
愛は誠が宮古に来ているが純のホテルで働き
たいというが、本当にそうしたいと
思っているのか、信じられないと言った。

「悪いけど、誠の相談に乗ってくれ」と謙次が言った
「自分がどうのということではないし
言っても聞かないし、事務所の開設で
東京にいるから今はなにもできない」という。

愛は誠がどうなってもいいのかとか
謙次は自分たちを避けているように思えるとか
いうが、謙次は無言になってしまった。

誠はじっと聞いていたわけで。

多恵子は、「ほっときなさい子供じゃないんだから」という、
「いままでこっちが言ってきたことに散々逆らって
きたし、自分で決めたことに責任を取る覚悟が
あるんだろうし。」
「じゃ、おかあさんは誠が宮古にいてもいいのですか」
と聞く。

「ちょうど良いんじゃないの。あなたがそこにいることだし。」

「いや、おかあさんは大丈夫なんですか?」

「どういう意味?」

「このままだと独りぼっちになるから
お父さんも東京に引っ越したと言うし
本当は誠に弁護士になって事務所を継いで
もらいたいのでは?
それが無理でもせめてそばにいて欲しいのでは
ないのですか?」

「あなたもずいぶん吹っ切れたみたいね。
この間は、宮古にきてからは何か不安だ。
その正体がわからないと悩んできたけど。」

「もう余計なことを考えるのはやめて
ホテルのオープンに向けて頑張ることに
決めました。
純さんがこのホテルを僕への愛がつまった
ホテルにしたいといってくれたから。」

多恵子は返す言葉がない。
テーブルの上にあった家族の写真を見た。

一方誠は起き上がった。「純さんおはよう」。
純は朝食を作ったから食べたらと
いうが、朝食は食べない主義だと
いった。

そして着替えてくると言って部屋に行った。

剛に依頼した絵のテーマは
「愛君への愛」。
漠然としているので、剛は純に質問した。
テーマについては愛君には内緒と純は言った。

「それはいいんだけどさ、それだけだと何かいて
いいのかわからないんだよね」

「ん・・・じゃ愛君の好きなものを書いてみるとか。」

「何すきなの?」

「バナナとりんご。」

「バナナとりんご・・・・なにそれ
猿じゃん(笑)」

「私も同じこと言ったの(笑)」

「猿じゃん~~(笑)」

「それからね、ナイチンゲール。」

「ああ、ナースのナイチンゲール?」

「違うよ鳥のほう、鳥」

「ああ・・鳥、鳥のナイチンゲール・・・」

兄弟漫才のような会話をそっとソファで
誠が聞いていたが
そこへ、愛が通りかかる。

「あ、愛君。
愛君の・・・・好きなものって何?」

「純さんです。」

よどみなく、しれっと答える愛と
照れる純に、剛は笑いをかみ殺している。

「・・・も、なんだけどほかには?」

「純さん以外ですかぁ?
え・・・・っと

りんごとバナナ。」

「りんごと(笑)」・・剛はついに笑い出した。

「なにか?」

「いいえ、何か作業の途中だったのね?
いっていいよ。」

「はい。」

剛は「しかたないし、おねえの顔をかいて
猿と鳥もかいて・・・あれ?
犬を書いたら桃太郎だね~~~
桃太郎のかっこうしたおねえとかさ」とまたまた

脱線。

「やめてよぉ~」

と騒ぐ能天気な兄弟。

やっと誠に気がついた純は
誠に愛の好きなものを聞くと
「純さん」という。

純は「そうだけどさぁ~~~」とテレテレになる。

「のろけるなよ」と剛はつっこむが
「ほかには?」と純が聞く。

「本読むこととか
走ることとか
泳ぐこととか
本を読んで覚えることとか」

「あ、歴代総理大臣の名前を
覚えていたよね(笑)」

「ほかには?」

「オムライスがすきやわ。
子供の頃からレストランで食事をすると
オムライスを注文していた」

「じゃ、オムライスも書いて」と純。

「桃太郎とオムライスってことで」(なんやそれ)

「もう一回考えるから・・・」

と純は頭をかかえて
さっていった。

誠は、剛に聞いた。

「いったい何なん?」

剛は「純から愛君への愛について
絵を描いてって言われたけど
何を書いたらいいのかわからないんだよね・・」
と、スケッチブックを見ながらいった。

「ツヨキチ変わったな。」

「そう?」

「久しぶりに会ったのに私のこと
見ようともしいへんし。」

そういって、誠は去っていった。

そこへ羽純が来て
パックのジュースを剛に差し出した。

「そうだ、羽純ちゃん、何をかいたらいいか
考えて」
と剛はいった。

二人が仲良く笑っているのを
裏庭の窓から見ている誠。

「なにやってんやろ、私・・・。」

そこへ愛が来た。
愛からわらず忙しそうにしている。

「お前いつまでサボってんだよ」
という。

「うるさいな。。。ちょっと休憩している
だけやん。」

そういって、そばの椅子に座って
テーブルに頬杖をついた。

「おまえ、本気でホテルで働く気なら
マスクはずせば?」

誠は携帯メールをチェックして
着信がないのを確認した。

「なによ、自分は本性がみえなくなって
えらそうに・・・。」

愛はむきになって、誠と一緒のテーブルをまえに
座っていった。
「俺はここで働きたいと心から思っていない人間に
いて欲しくないだけだよ。」

「だからそうやないっていうてるやろ。
私は、宮古に骨埋める覚悟やし。」

「だったら、お父さんとお母さんに連絡しろよ」

「は?なんでそんなことしなければいけないの?」

「宮古に骨を埋める覚悟なんだろ?
だったら親に伝えるのは当然だろ?」

「なによ、自分は勝手に家出して八年も音沙汰なしで
それに、パパとママだってどうせ「ほっとけ」というたんやろ?」

「・・・そんなことないよ」

「だったら何で私の携帯に連絡せえへんの?」

「・・・・・・・・」

「愛ちゃんも愛ちゃんや。
純ちゃんが死んで家族がばらばらになって
私が心細くて一番そばにいて欲しいときに
居てくれへんかったくせに・・・。」

「・・・・・」

「いまさら兄貴面せんといてくれる?」

誠は立ち上がって去っていった。

愛は、呆然とした。

純は愛が仕事の合間に
そっと腕時計を見るのをみた。

その夜、ジュークボックスからはあの
古いアメリカのゆったりした音楽が流れていた。

愛は聞きながら
窓ガラスに映る自分の姿を見ていた。

純が声をかけると
もし、弟純がいまの待田家をみたらどう思うかなと
思っていたという。

「デモいくら考えてもわからなくて。」

そういってまた腕時計を見た。

純は愛に、提案した。
ホテルのプレオープンに
ご両親を招待しようと。

「いや、でも・・・」

「家族で話さなきゃナって思っているのでしょ?
誠ちゃんのためにも
純君のためにも・・・」

「・・・・」

「このままだと、家族ばらばらになってしまうよ」

「いまさら僕が・・」

「そんなことない、今一番心配しているのは
愛君でしょ」

純は黙っている愛の手を取った。

「愛君が諦めたら終わってしまうよ。
あなたの大切な家族が・・・」

二人は見つめあった。

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アサイチでは有働がキス、キスと騒いでいたらしいが
この場面は違うでしょ・・・と思いました。

さて、待田家の再生はどうなることやらという
お話になっています。

誠は大学を辞めたのかな?
ぷーと自分で言ってるから無職ということは
大学を辞めたということなんや。

いまは、離婚した多恵子について家に
いる・・・と言う設定で、弁護士にもなる気は
ない・・・。

いまどきの若者にありそうな状況。
それに良く似ていた剛だけど、彼は
さまざまな家族の困難に遭遇して
乗り越えてきたたくましさがにじみでつつ
あるわけで、誠にとったら「ツヨキチ、変わったな」
になる。

人生ホテル業をと決めてまっすぐ貫く純と対照的
である。

しかし、誠の本音はどこにあるのかというと
愛に向かって言った怒りのひとことが名せりふ。

「純ちゃんが死んで家族がばらばらになった時
私が心細くて一番そばにいて欲しいときに
いなかったくせに、いまさら兄貴面せんといて」

おもいっきり自分の気持をいったのは
はじめてじゃないですか?

しかし、純、剛の漫才は楽しいです。