朝、雨の音がした。
晴海がおきてダイニングへ行くと
純がおきていた。
今日の計画を書いていた。
「おはよう、早いね」と純が言った。
「おはよう、今日はどんな日か、きになって。」
「うん、今日はね・・・」、『5月16日木曜日
純と愛、牧場』と日付ボードにかかれていた。
「今日は、牧場へバイトの日なのよ。」
そういうと晴海はバイトってなぜという
顔をした。
「ホテルを開業するためにはまだまだ
お金が必要だから。」
という。
「そうなの・・・。」
「あ、今お茶入れるから。」
純はお茶を入れて晴海にどんなホテルに
したらいいか聞いた。
晴海は、「そんなの決っているさ・・・・」
愛は隣で起きて聞いていた。
「純が作りたいホテルを作るのが一番うれしいさ」
「うん。」
ーとってもうれしいけどさ、ますます悩みは深くなったよ
ホテルの雨漏りを修繕する愛だった。
純は雨漏りがとまったので、「止まったよ愛君」
という。
愛は「一応応急処置なので、オープンまでには
ちゃんと直さないと。」という。
「それにはお金がかかるのに、今日は雨でバイトも中止だしね。」
と純は言った。
内装とか家具とかは愛がデザインした下絵にもとずいて
準備をしていくという。
出来る範囲で内装工事を進めていくと愛は言った。
作れそうな家具も愛が作ると言う。
「デモそうすると愛君が大変なのでは?」
と純がいうと愛は頭に手をやって
「大丈夫です」といった。
「フロアはどうしますか?」
愛はつぎからつぎへと決めていく。
キンの店で打ち合わせをしていて
意見が衝突した。
「デザイン画を無視してないですか?
全然違いますよ。」
「そんなことないわよ・・・」
愛はまた頭を抱えた。
純は、手のひらに黒糖を一個載せてみせた。
それを握って隠した。
「ビビリバリディブーーーー」
といって、握った手のひらを
あけると、「ほおら、二個になった・・・ね?」
という。
「・・・何しているのですか?」
と聞くと、
「けんかしたくないなぁって思って。」
「僕はけんかとかではなくて。
純さんがのんびりしてて全然決めてくれないから
ですよ。」
「ごめんね、のんびりしてて・・」
そういってカタログに目をやった。
キンが来て、お茶飲むかときくが
愛は、忙しいからと言って
先に帰ってしまう。
「もめてんの?だんなと」
「もめてると言うより基本的には
私が悪いんで・・・」
「じゃ」、といってキンはジュークボックスを
聞いてみようという。
純はうれしいひな祭りを聞いた。
「懐かしいな」
「何でひな祭りなの?」
純は昔からいやなことや落ち込むことが
あったときは、頭の中にずっとこの曲が流れる
という。しかし愛と出会ってからそれがなくなった
といった。
「あんた変わってるね。
だからうちの孫と付き合っていたのか?」
「あいつあれからどうなりましたか?」
と聞くと
勝は泊まって行ったけど、
今朝用事があるからとでていってそれっきりだという。
お金を渡したのかと聞くと
たった一人の孫だからどうしても甘やかしてしまう。
もう島に戻る気はないという。東京で成功して
おばあに贅沢をさせてやるって言って・・・
といったらしい。
しかしキンは東京へ行く気はない。
「だから・・・・」
ジュークボックスを買ったのですね、と
いいかけて、純はジュークボックスを見た。
キンも同じ思いだった。
ホテルでは愛が木を削って何かを作っている。
ふとガラスに映る自分を見た。
昔なら、純があらわれたものだが
今はそうでもない。
純が死んで止まったままの時計を見た。
そのころ、待田家では多恵子が家族5人で
とった写真を見ていた。
すると携帯がなった。
愛からだった。
「なに?」と聞くと
「いまいいですか?」
と愛。
「なにもないけどお母さんの声が聞きたくなって
すみません」という。
「別に謝らなくても良いけど
忘れ物しているわよ。うちに」
ねむり姫の絵本を忘れていたらしい。
送るから住所を教えてと多恵子は言うが
愛はそれはお母さんが持っていてください
といった。
多恵子は不思議に思った。
「なにかあったの?」
「別に・・宮古はきれいだし
今は純さんと同じ目標にむかっていて
毎日幸せ・・・・のはずなんですけど
何か不安で。」
「どうして?」
「人の本性を見えなくなってから人が自分をどう
思っているのかやたら気になったり
ほかの人のやることがなんだか許さなかったり
昔のいやな自分に戻っているような気がして
ああ・・・いや違うな・・・
ただ、ただ、怖いんです
でも・・何が怖いのかわからなくて」
「彼女に相談してみれば?」
「なんだかイラついてしまうんです
それが情けなくて
純がいなくなった時から
僕の時間もとまっているような気がして」
多恵子は写真を見た。
「だったら私に電話をすれば?
結論は出ないかもしれないけど
話をすれば楽になるかも・・・」
「あ、純さんが帰ってきたみたい
なのでまたかけます・・・はい・・」
「ただいま~~~」
純は遅くなったおわびというか・・
といって荷物をだした。ホテルの備品にもしたいという。
天井から吊り下げられた
ふたつのブランコ。
「これはなにですか???」
「なづけて・・・なぁーかぁーなぁーおーりのブランコぉぉぉぉ~~~」
とドラえもん風に言った。
「けんかして仲直りしたいときにね
このブランコがあれば顔を見なくてもすむし
ブランコにのるだけでけんかしたことを忘れて
素直に謝ることができるし・・・」
「デモなんでホテルにブランコですか?」
純は「旅行するとカップルは
けんかするでしょ。そんなとき
仲直りできたらなって思って。」
と言った。
純と愛はブランコに乗った。
「まだ怒ってる?」
「怒ってないですよ・・・」
そういって愛は静かにブランコをこいだ。
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愛の不安とはなんでしょうか?
日々襲ってくる頭痛でしょうか?
弟純のことを考えているのはなぜでしょうか?
まだ、解決していない純との死別が待田家を
分断してしまった過去。
多恵子も愛もその過去といまだに決別が出来て
いなかった。
愛はなぜ、純ではなく多恵子に電話をしたのでしょうか?
多恵子に声が聞きたくなったとは・・・はじめてのことでは?
純が悠然としているのをみるのがイラつくというので
しょうか。いつもだったらけんかになるところを
純は上手にかわしていきます。愛にとってそれは
置き去りにされていると感じることなのでしょうか?
キンさんの孫の勝は何を考えているのでしょうか。
キンさんの苦労は続いています。
純のまわりにはまだまだ幸せの笑顔が存在しない。
