朝、愛は夢を見ていた。
あの海岸でみた弟純の姿だった。

「愛ちゃん、幸せ?」

と聞く。

うなされていると純が起こしに来た。

あわてて、ご飯をすぐ作りますと言うと
今日はマリアさんが作ったらしい。
純も手伝ったという。
エプロン姿だった。純の手料理と言うと
最悪と言うのがいままでの話。
どうやら、マリアに教えてもらっているらしい。

純は愛に「どう?」と聞くと「おいしいです」と
愛が答えた。

「純、今日は何曜日かね?」
と晴海が聞く。

「今日は火曜日でおとうちゃんとおかあちゃんの結婚
記念日だよ」

と純が答えた。

部屋には今日の月、日、曜日が書かれていて
やることとか、記念日だとその名前が
書かれている。

晴海はそうなんだ、と笑顔になった。
正が「そういえばどんな結婚式だったの?」
と聞いた。

写真を見ながら、晴海は「お父さんは緊張していて
式が始まる前からお酒を飲んでいてね、顔が
真っ赤になってて・・」

と晴海は楽しそうに話す。

ーお父ちゃん、人間辛いことは忘れても楽しい思い出は
なかなか忘れないって聞いたことがある
けど
お母ちゃんがそうなれば良いなって、私は思う。

ホテルの掃除をして次第にきれいになっていく。
ごみもたくさん出した。
愛が電気関係の修理をしている。

マリアが昼になってお弁当を持ってきた。

「愛君もお昼にしよう」というと
「先に食べてください。もう少しでできますから」

という。

マリアが、「剛君からメールが来たよ」と
いって動画を見せてくれる。

相変わらずアートに夢中で
元気そうに大阪で頑張っているらしい。
そう晴海に言うとうれしそうだった。

夜になって、明かりがついた。

「わぁ~ついた。明るくなった。すごいわぁ愛君。
水道も通ったし、
よかったぁ~」
と純は喜んだ。

ところが、愛は疲れて様子で椅子に座り込んだ。

「どうしたの?」
「次はなにが必要かって考えていると
頭が痛くなって・・・・・・」

「え?」

「ああ、客室の壁紙は張り替えないとだめです。

ロビーにおく椅子やテーブル。客室のベッドは全部
取り替えないと・・・厨房の冷蔵庫も使えるかと
思ったら使えないし・・・」

純は周りを見回して、いった。
「聞くの怖いけど、いくらぐらいいるの?」

「貯金をはたいて、それでもあと・・・」

「20万?」
「200万です。」

翌日、金融機関を訪れた純。融資のお願いである。
「経営計画を作って読んでください、よろしく
お願いします」と言うと
「前にもありましたね
あなたのような若い女性がホテルを経営すると言って
すぐやめました。」
「決して興味本位では。読んで頂けばわかりますから」
と愛はいった。

別の金融機関では
「あそこの建物ですが、幽霊が出るといううわさがあります」

という。

帰り道のことだった。

「なんだか、がっかりですね。
こっちの人はもっとやさしいと思って
いたのに」と愛は言った。

「諦めないで何度も頼みに行こう。
こっちが真剣だってわかれば、きっと向こうも
わかってくれると思うんだよね。」
「そうだといいんですけど。」

「それまではバイトでもしながら頑張って
少しづつ必要なものをそろえていこう。」

愛はなんだか疲れている様子だった。

二人は、昨日行ったお店に来た。

「今日は何が必要かね?」

と女主人は聞いた。

「ステンレスとかありますか?」

「あるよ、」

「そういって、ステンレスの台所グッズをだして
来た。」

「あの、じゃ、ペンキなんてないですよね」

「あるよ、」

そういって、白と青を持ってきた。

「白で、、、」と愛は言った。

「あはははは・・・」みんなで笑った。

「相変わらず何でもあるんですね、ここ。」と純。

「お茶飲むか?」

「あの、このお店いつから始めたのですか?」

「わすれた、うちのおとうが始めたから」

「おばあ1人でやっているのですか?」

「キン・・」
「はい?」
「うちの名前はおばあではなくて、キン。」

「キンさんですね。キンさん1人でお店をしているのですね?」

「まあね・・」

そのご、愛と一緒に、ロビーの配置を考えた。

ここに何をおくか、空白ができた。

ジュークボックスが良いなと愛が言う。
あれは高いよ、と純は言うが
いちどジュークボックスと思うと
それしかないように思うと愛は
譲らない。
デモどこに売っているのかわからない。
ふたりはウーーンと考えた

が・・・

ふと

純は、愛の目を見て気持ちが通じたようだった。
そして純は

キンを見た。

「あるよ」

信じられない言葉だった。

それが店の奥にあった。

ジュークボックスは懐かしい姿で
そこにあった。

おじいのジュークボックス・・・・

純は気がついた。

「これどうやって手に入れたんですか?」
愛が聞くと

「きぎょうひみつ(企業秘密)」

という。

「お願いします、このジュークボックス譲って
もらえないでしょうか?
もちろん、お金はお支払いします。ローンですが」

愛が言った。

「それは無理」

「どうしてですか?」

「俺のじゃないよ、孫のために買ったから」

「じゃ、そのお孫さんに合わせてください。」

「それも無理」

「どうしてですか?」

「孫は何年も帰ってないから」

と答えた。

ホテルに帰った純は荷物を置いた。

愛は、純があそこで粘らなかったのが
気に入らない。
「あれはおじいのジュークボックスです。」

という。

「もともとの持ち主だと言うと譲ってもらえた
かもしれないのに。」

「そうかもしれないけど
キンさんの気持ちを考えたら
なんかさ・・・。

東京にいるお孫さんに帰ってきて欲しいから
あのジュークブックスを買ったんだよ。
あれを取り上げたら、もう会えないって言っている
みたいじゃない?」

「すごく素敵だと思います。でも僕らにはそんな余裕は。」

愛は椅子に座っていった。

「このホテルには、純さんに魔法の国にはあの
おじいのジュークボックスが必要なんです。
ていうか、純さんは
このホテルをどんなホテルにしたいのですか?
なんだかわからないのですよね。具体的なイメージが。」

と愛が聞いた。

純は「お客さんが笑顔になるようなホテルだよ。
そうだ、キンさんのお茶もチェックインした
お客さんにだしたいな」というが

「それは」

と愛は叫んだ

「ホテルが出来てお客さんがきてからの話です。
純さんはどんな魔法の国にしたいのですか?

それを早く決めてください。」

そういって愛は材料を肩にかついで二階へ
あがっていった。

*****************************

愛はなにか急いでいる様子ですね・・・。
悩んでいる様子ですね。

なんでしょうか?弟純の幻のせいでしょうか?

純はまるくなりつつあるのに、愛はとげとげしています。
なんだか、背中も暗いし・・・。

愛の悩みとはなんでしょうか?

愛は純をいぜんのように支える必要もなくなった感が
あります。狩野家は再生して元気になりつつあります。
家族が力を合わせています。

愛の存在はどこに置くとぴったりになるのでしょうか。