士郎が里やを懐かしがって
ひとりで里や跡にきていた。
その士郎を探して
元従業員があつまった。
士郎はここがいい、というが
羽純も沖縄に帰りたくないという。
セニョールも、生まれて初めてこの
仕事をしててよかったと思ったという。
もういちど、純や愛と一緒に働きたいと
いう。セクシーもおなじく
やっと自分の生きがいを見つけたと思ったのに
という。
何とか成らないかなと純にいう羽純。
里やは無理でも別のホテルでも
一緒に働けないかなという。
きっとできますよ、純さんならと
セニョールも。
「答えてください純さん・・」と愛。
純は「みんなが思っているような
たいした人間ではないの。
ごめんなさい。
士郎君、ごめんね・・・」
そういって純は去っていった。
純を追いかけてアパート前に来た愛、
愛はアパートの前で純にかつての
里や再建計画と書いたノートをだした。
そのノートを探していたらしい。
それをみれば、里やでやりたかったサービス
などが書かれていて、やる気もでるかなと
思ったというが。
「これほどまでにホテルが好きだった人が
なぜほかの仕事をやろうとしているのかと
聞く。士郎君や羽純チャンたちのためにも
ほかのホテルに行ったらそのホテルが
だめになるなんてグダグダいうのやめま・・」
「私だってそうしたいわよ。」純は叫んだ。
「愛君が言ってることがすべて正しいのも
わかってるし、そうするべきだってコトも
わかっている。
でも何でホテルなのかがわからない。
自分がなぜホテルが好きでなぜホテルで
働きたいのか・・・」
「それは純さんがお客さんを笑顔にしたいから・・」
「それって嘘っぽい気がしたの。
里やに勤め始めたころ
人のためと書いて偽りというって言われて
私がやっていることって全部そんな気がして
だから、やることなすこと全部うまくいかないし
みんなにも迷惑かけるんだって。
だから、ホテル業界の人のためにもさ
私ホテルクラッシャーだから
やめたほうがいいの。」
「わかりましたもう二度と
ホテルで働いてくれなんていいません・・・」
海を見ながら純は思った。
ー私はいったい何をやっているんだろう
お父ちゃん・・・
なんか、宮古に帰りたい。
三線の音と宮古の歌が
聞こえた。
師匠がいた。
「ふるさとが懐かしくなったら時々ここで
踊るのよ
ほら、私みたいな人間はさ、二度と
沖縄に帰れないし。
よく都会の人は卯ふるさとがなくてつらいというけど
ふるさとがあってもかえれないのは
余計辛いわよね。
晴海の調子はどうなの?」
「あまり良くなくて」
「そう・・・
昔好きだった人が幸せでないって言うのは
辛いわよね・・・。」
その晴海は
多恵子にある相談をしていた。
「頭がはっきりしているうちに
遺言を書きたいけど
手伝ってもらえないかなと思って。
子供たちに伝えたいことを
残しておきたいのです。」
多恵子は話を聞くことにした。
「純には同じ女だから
ライバル心はあったと思います。
純はまっすぐで思ったことを
そのまま言葉にするので
耳をふさいでいたように思います。
子供の中で純だけが私をはっきり
攻めるから、本当はそれがあの子の
嘘のない愛情や優しさなのに
昔から本当に不器用で誰に対しても
正直に生きようとするからついよけいな
ことをいって相手を傷つけたり
情けがあるから困った人を見ると
本人以上に悩んだり
おせっかいしたりして
昔から損ばかりしているのです。
母親としたら
もっと普通の子だったらと思うのです。
自分のことだけを考えて
適当に周りに合わせて・・・人付き合いも
うまくやって、どんなことも真剣に成りすぎ
ないで、全力で立ち向かうのもやめて
もっと楽に生きられるような人間だったら
って・・・」
多恵子は
「だったら直接言ってあげたらどうですか?
娘さんに・・・」
ドアにもたれて愛は立ち聞きをしていた。
そのとき
純が話があるといって待田家にやってきた。
愛の部屋に通された純。
「なんですか、話って」
と愛が聞いた。
「うん、わたしね、宮古に帰ろうと思うの
お母ちゃんと一緒に。
いままで親孝行もしてなかったから
できるだけ、そばにいてあげたいから
たった一人の娘なんだし。
お母ちゃんのためにもそうしたらいいなって
思って・・。」
「それいわれたら、もう何もいえないですよ。」
「じゃ、一緒にきてくれる?」
「結局純さんは
こっちの気持ちなんてどうでもいい
から。僕に支えて欲しいだけなんじゃ
ないですか?」
「ジャ聞くけどさ
愛君にとって支えるってなんなの?
相手が自分の思うように動いているときは
いい顔をして
そうじゃなくなったら、知らん振りするのが
本当に支えるっていうことなの?」
「僕は出会った頃のような純さんのままで
いて欲しくて。」
「そのままの私ってなんなのよ。
自分でもわかんなくなった。
おじいもおとうも愛君もそういってくれたけど
そのままの私ってなんなの???」
「それは・・・・」
愛は言葉に詰まった。
「もしかしたら
僕たちは『と』で結ばれる人間では
なかったのかもしれません。」
「・・・かもね・・・」
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純の気持ちのなかに離婚が浮かんだと思います。
もうだめだと・・・。愛は純を支えると言っておきながら
純が変わっていくと支えないらしい。
そのままの純と言うのは何?と純は言うが。
それこそ、晴海が言った人のために
やりすぎるほど、人助けをして
自分が損をして、それでも人のために
わき目もふらずに一目散にゴールに向かって
突き進むことで、それでどれほど自分が損をしても
どれほど回りが迷惑をこうむっても
自分は正しいと言い切って傷つくことなのでは???
そういう損な生き方をするのが純だと愛は思っている。
おかしい・・・。おかしい。純が社会でもまれて
人間が変わっていったとしても、原点のような
ところは変わらないはずだから、それを認めて
行くのがパートナーのあり方ではないかと。
純は里やがなくなってダメージを受けているのに
なぜ支えられないのかと・・・・
純がこれほど自分の存在とは?と言う
根本的な問題に悩んでいると言うのに
なぜ、支えて欲しいのかといちいち聞くのかと
がっかりですね。
古今東西の哲学者が自分とは何か
ザインの問題で思考を重ね
「われ思う、ゆえにわれあり」と
答えを出したパスカル。
結婚こそいままで見えてなかった
人間性にふれるわけで、恋人では
わからない相手のいろんな部分を
みせつけられるわけで
であったときのままの純のままでいて
欲しいなんて・・・普通ありえないです。
愛はえらそうに言うわりには、愛こそ
なにもできないわけです。
やっぱり男なんだ。純の味方のような
顔をして純を攻撃している。
妻は主人が苦しんでいるときは
そっと見守りますけどね。
ひどいですね・・・。
・・・がっかりです。
