善行が奇跡的に意識を取り戻した。
そこにいたのは愛だけ。
しかし何かを言おうとしても
言葉にならない。

「☆☆☆☆☆?」

愛は善行の心を読んで答えた。

「ここは病院です。
大丈夫です。」

「☆☆☆☆☆?」

「おかあさんも、大丈夫です・・・」

「☆☆☆☆☆・・・」

「お父さん、いまお医者さんを呼んできますね」

というと「☆☆☆☆☆」

善行は愛の腕をつかんでとめた。

「僕にはおとうさんのいってることがわかります。」

「☆☆☆☆☆」

「みんなを連れてきます」

「☆☆☆☆☆・・☆☆☆☆☆」

「いいえ、直接純さんに言ってください

純さん、喜びます・・・」

「☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆」

「僕は何も・・・がんばります。」

「☆☆☆☆☆・・・・」

「約束しますから、お父さん無理しないで下さい。」

「☆☆☆☆☆・・・・・・・・。・・」

「だから、お父さんだめです。」

愛は手元のナースコールを押し大声を出した。

「誰がいませんか?
早く!!」

廊下にいた兄弟がその声に飛んできた。
そして善行のそばに集まった。

「☆☆☆☆☆」
「正 お母ちゃんをたのむ」

「☆☆☆☆☆」

「剛 お母ちゃんを守ってくれ」

「☆☆☆☆☆」

「マリアさんあんた、いい嫁や、感謝している、ありがとう」

「勇気ですよ、おとうさん」

「☆☆☆☆☆・・・・」

「勇気、おかあちゃんと遊んでやってくれ」

「☆☆☆☆☆・・・」
「純・・・」

「・・・・・☆☆☆☆☆・・・・

       。」

意識が止まった。

「お父ちゃん、死んではだめ
生きるの!!」純は叫んだ。

医者、看護師が来た。
純たちは部屋の外へ追い出された。

しかし・・・。

ーーー死亡時刻午前三時十五分

父は58年と何日生きてきたことになるのだろう

私と一緒にいたのはそのうち二十三年と

いや

もっと少ない

失ってみて、初めてわかる。
私たちが親とともに過ごせる時間は
なんて短いんだろうーーーーー

正も、剛も善行のそばに泣き崩れた。
純は倒れてしまった。

朝になって、晴海の部屋に兄弟全員がそろった。

「どうしたの?
みんなそろって」

「実はね、おかあちゃん・・・」と純がいうと

「退院したら
そうだ、ピクニックに行かない?
お父さんが、いこうって言ってたよね
明日はきっと晴れるからって」

「純、おとうさんは?」

純は複雑な顔で正を見た。

「あんた何か隠しているでしょ?」

「あのね・・・」

「わかっているよ
またお父さん家出して雲隠れしているんでしょ」

「そ、そうなんだよ」
と正は、いった

「ね?勇気・・・・」マリアも一緒に言った。

廊下に出た正はしばらくいわないで置こうと
いった。
純は悩んだ。
愛はそれをみていた。

お葬式も終わって
里やに集まった。

純たち兄弟。里や従業員。師匠。謙次と誠。

「みなさん、今日はありがとうございました。」
と正はいった。

里さんは
「ああ・・堅苦しいのは良いから
みんなで飲もうよ
セニョール、準備して」

みんなで、飲み会の準備を始めた

里やの外に出た剛は誠に言った。

「まこっちゃん、お願いがあるんだけど」

「なに?」

「また・・・
ビンタしてくんないかな?

おれ。。。なにもできないんだ
家族の役に立ちたいのに
ほんとどうしようもないよ・・・・・」

マスクをずらして誠はいった

「私はそうは思わへん・・・」

誠は剛の両肩に手を置いていった。

「あんたに出来ることは何ぼでもある。
ううん、あんたにしかできんことが必ずある。
メソメソせんととりあえず笑っとき
あんたのとりえはそのアホみたいな笑顔しか
ないんやし。」

剛は涙をためて
「わかった・・・」

といってスーツの袖で

涙を拭きながら泣いた。

里やの中では里さんが
サンシンをならしながら、歌を歌って
いた。
その歌が遠くに聞こえるみたいに思った純。

しばらくして外に出てまぶしい空を見上げていた。
愛がそばに来た。

「大丈夫ですか?」

「・・なんかまいちゃうね。
まさか自分の親がこんなに早く死ぬとは
思っても見なかったしね。

お父ちゃんと仲直りもできなかったし。」

愛は、善行から伝えてほしいとの伝言を
預かっていた。

「もし自分が生まれ変わったら今の
純みたいな生き方がしたいって。
周りに何を言われてもあきらめないで
まっすぐに自分の目標に向かって進んでいく
そんな純みたいないき方がしたいって。

だから、純は・・おまえはそのままでいいって。

おまえはずっとお前のままでいろって。」

純は、涙が出た・・・・うれしかった・・

「お父さん、謝っていました。
純が太陽みたいにまぶしいから、
まっすぐに見つめることが
できなかったって・・・・

純が女だからと言う理由で純の
希望する生き方を
受け入れてやることができなかったって
それをしてやることが一番純を愛することだった
のにって」

ーわたしはやっと、お父ちゃんに言ってほしいことを
いってもらえた。

「なんだよそれ。
いうなら私に直接言ってよ。」

純は空を見上げていった。
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あっという間に善行は逝ってしまいました。
まさか、そうなるとは・・・思いませんでした。

もういちど宮古にかえって晴海のために
生きようとした善行。
純とも分かりあえようとしていた矢先
だったのに・・・。

純が言うとおり親と一緒にいる時間は
思ったより短いことに気がつく。

わたしも、そうだったから、
一緒にいた時間は・・・・おどろくほど
短かった。

はたして私の子供たちは、一緒にいられる
時間は短いということを感じられる
だろうかと疑問である。
振り返ってみれば、いま10年と言っても
長いようでも短いと思う。

子供がうまれて成人する間は大変な思いをするが
すぎてみれば、短いものである。

なんだかその無常さを感じた。