純のはげましで善行は
晴海と向き合うことになった。
善行の手のひらには
「あ」「い」・・・・の文字が。
晴海に声をかけた。
純は部屋の外で様子を見ていた。
ーおじい、やっとおとうちゃんが
おかあちゃんの病気と向き合ってくれる
ことになりました。
「帰ったで」
「お帰りなさい」
晴海は布団の上に向こうむいて
座っていたが上体を善行の方向に少し向けた。
そして、晴海はにっこりとわらって
答えたのだった。
「なにしてたんや?」
晴海は豆を並べて宮古と
書いていた。
「遊んでいました・・・」
善行は宮古に対してあまり気乗りが
しないのでぐっと息を呑んだ。
そして両手の「あ」「い」をみた。
ーがんばれ、おとうちゃん・・
「結婚してからお前の話を聞いたことも
なかった。
すまんかったのお。」
「だったら折角だから、聞きますけど
正は大丈夫でしょうか?
あの子は頼りないから。」
「大丈夫だ、父親らしくなった。
マリアさんも付いている。」
「剛は大丈夫でしょうか。
いつまでも子供で
困りますけど。」
「大丈夫だ、あの子はどこへ行っても
誰とでも仲良くなれる。
人よりたくましい。」
「じゃ、純は?あの子はあんな性格で
本当に幸せに慣れるでしょうか」
「純が一番大丈夫や。
それが一番わかっているのはお前やないか。」
「そうですね・・・」
晴海は笑顔になっていった。
「私は、いい母親でしょうか?」
「あたりまえや。
いい母親や。」
「いい、妻でしょうか?」
「あたりまえや、いい女房や
この世で二人といいへん
いい女房や」
「眉目秀麗、見目麗しく情けありや。
すまんかったな
すまんかったな。。。晴海。
でもな、今からは違う。
今からはずっとそばにおって
お前の面倒を見させてもらいます。
お前の作った宮古の料理も
おいしいおいしいと食べさせてもらいます。
散々迷惑かけてどこまで
返せるからわからないけど・・でも命かけて
がんばるから。
せやから明日は晴れると信じてくれ。」
晴海は布団の上から降りて
善行にむかって、三つ指をついて
「ありがとうございます」
と頭を下げた。
「なにをゆうてんのや、お礼なんかいるかい。」
「もうひとつ聞いていいですか?」
「うん?なんや??」
「あなたは・・・・・・」
「ん?」
「誰ですか・・????」
晴海の表情が硬くなった。
恐怖が見て取れた。
「どうしてここにいるんですか?」
「なにをいうてんねん、俺や
俺やんか」
「きゃーーーーーーー
いやぁーーーー」
「お前の亭主の善行や」
「うちのおとうさんは、そんな
やさしくありません」
「俺や、俺やぁ~」
「純、助けて、知らない人が。
助けて。お父さんとか言ってるよ。
いやぁ、助けて、助けて。」
「そんなこといわないで、おとうさんでしょ」
「いやぁ、こんな優しい人じゃない」
善行は呆然とした。
「純、怖いよぉ」晴海は騒ぎ続ける。
「おとうちゃん、諦めないで」
「純、無理やで。もう俺のことは
かまわんといてくれ」
そういって善行は出て行った、
純は追いかけようとしたが、
晴海が純にしがみついていたので
動けない。
晴海はパニックになった。
やっと静かになって晴海は寝てしまった。
正と剛は純にいった。
「いい加減にしろ。おまえが余計なことをすると
騒ぎが起きる」といった。
「マリアに聞いたけど、今度はおとうちゃんまで
巻き込んだんだってな。」
「どうしてそう、おかあちゃんが苦しむような
ことばかりをするんだよ。」と剛。
純は、本来ならここで言い返すんだけど
両手には大人とかいてある。
それを意識して黙ってしまった。
「なんだよ、言いたいことがあるんならさっさと
言えよ。」と正に言われた。
「私たち兄弟がいま、けんかをしている場合かな?
小さいときからおかあちゃんに助けてもらって
いたんだよ、おかあちゃんの笑顔に救われて
家族みんな、お母ちゃんに救われたんだよ
せめて、今はおかあちゃんのために
みんなで力を合わせてがんばろうよ。
ほら、一本の矢だとおれちゃうけど
三本だったら折れないって昔の武将が
いったじゃない。」
「織田信長(あほ)」
「毛利元就だよ(正)」
「これからはさ、おかあちゃんのために
世界最強のきょうだいになろうよ。」
兄弟は、そのとおりだと思ったようだ。
その夜。
「本当に良く頑張りましたね。」
「愛君のおかげだよ。」
大人と言う手のひらを愛に見せた。
「もうこれなくても大丈夫ですね」
石鹸で手を洗いながら、
純は言った。
「本当は怖いんだ。
おにいちゃんたちにあんなこといったけど
自分が本当に正しいことをやっているのか
全然わからない・・
大人って文字が消えたらもう大人に
なれないからもしれない。
また私のせいで何か起きるんじゃないかと
思ったら不安でさ。」
手のひらの大人はきれいに消えた。
「大丈夫です。純さんが頑張ったのはぜったいむだにはなら
ないから。
純さんがまいた種は今は芽が出なくても
絶対大きな花を咲かせます
だからこれくらいのハードル簡単に飛び越えましょうよ。
女が諦めたら世界は終わるのでしょ?」
「でも、でも
涙が止まらない。今日は泣くよーーー」
純は愛にだきついて大声で泣いた。
翌日里やでのこと。
あの、笑わない客が降りてきた。
「おはようございます。」
といって、「私は笑わせるのを諦めないことに
しました。」といった。
「え?」
「私は魔法の国を作るのが夢なんです。
来た人がみんな笑顔になれるホテルを
作りたいと思います。」
「じゃ、どうするの??」
「とりあえずですが今日は卑怯な手で
勘弁してくれますか?」
マリアさんが勇気をつれてきた。
「私のめいです・・・
勇気~~~~~~ぃ」
従業員たちが勇気の回りにあつまって
笑ってくれた。
お客さんも、勇気の笑顔につられて
笑った。
「確かに、卑怯な手ね・・・」
「でもいつか必ず・・・
この子の笑顔に負けないようなホテルを
作って見せます。」
純も笑顔になった。
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大人になったかもしれない純。
兄弟のことは、否定形よりも肯定形を
使って話すことになったようである。
「おにいちゃんは長男でしょ」
と言う攻め言葉。
「あんたは昔から何をしてもだめな弟」
という否定言葉。
善行にも上から目線でものをいうこと
なく、下からものを言おうとして
受け入れてもらえた。
しかし、晴海の認知症のために
純の孤軍奮闘は兄弟たちにとって
迷惑を極めるものだったわけで。
それでも正たちの考えはすばらしいのか
といえば、介護センターに母をたのむ
ものだったり、マリアに一任するもの
だったり、と純にとって、それは
納得の出来ないものだった。
それを分かってもらうために大人に
なって、下からものを言う説得に
でた。いままでは、演説型ってとこだった
と思うけど。ヒトラーのように
演説をして、相手のことも考えずに
自分の考えを訴えていくのが純だった。
だから、前半のお話よりもシリアスになって
これからの狩野家がどうなるのかが
注目となった。
そのうえ、愛は超能力をはっきする
ことにならず、(消えつつある能力となったが)
その点が物語展開が地味になったかな?と思う。
だが・・・・・
愛の浮気疑惑は消えない。
隣の山田さんは何者???
と、今日は山田さんの出演は
なかったけど、どうも気になる存在である。
