若年性アルツハイマー認知症と
診断された晴海。

晴海に付き添って病院へ行った
純だった。「ごめんね純
これからいろいろ迷惑をかけると
思うけど」

「まかせてよ」

「頼りにしているよ。純。」

「・・・・」

「なに?」

「わたしはやっぱりおかあちゃんの
笑顔が好きだな。」

「なにいってるのよ
で、どうしたの?それ・・・」

と、純の頬の傷を
指差した。

純は驚いた。
晴海が覚えていないことを。

マンションに帰ると剛が帰っていた。

晴海は剛を見て喜んだ。
「そうだ、バレエをやっているから
お金がいるでしょ。」

そういっておこづかいをくれた。

しかし、どうやらバレエはやめたらしい。

「だったら、お金返しなさいよ」

と純は言った。

「いつまでもふらふらして、おかあちゃんに心配
かけるのやめなさいよ。」
というと
晴海はいいのよ、という。

「おかあちゃんも甘やかすからこいつ
だめになるのよ」

「いいかげんにして
もう・・
あんただってなんで昔から余計なことばかり
いうの?私のことはかまわないで頂戴。」

と怒って、別の部屋へ行った。

ーええ・・・・さっきは頼りにしているって
いったのに・・・・。

マンションには兄弟たちがそろった。

剛は入院して手術をしたほうが
いのではなのかと、いうが。

「認知症の治療方法はなく、進行を遅らせるしかない。
薬を飲んだり、ストレスをなくしたりして。」
と純は説明した。

そんなことでいいのかと、剛は言うが
「落ち着いて、剛」と純はいった。

「まず、これからどうやっておかあちゃんの面倒をみるかって
コトなんだけど」

と純が話し合いの口火を切った。

「どうしたらいい?」

「俺がおかあちゃんの面倒を見るから」と
剛は言う。

「あんたには無理だ」と純は言うが、

剛は自分が一番おかあちゃんにすかれている
から、と自信満々だ。

純は「私は娘だからいつもそばにいられたら良いけど
仕事があるし、」という。

「純ちゃんわたしやるよ、お母さんのお世話。」

とマリアが言う。

「ありがたいけど、おねえちゃんは勇気の世話が
大変だし・・・パートも始めたでしょ」

「あの・・」

と愛が手を上げた。

「基本的に僕はひまですから。」

「愛君は、人の顔がまだ良く見れないから
おかあちゃん、いやがるかもしれないし。」

「そうですね・・・」

「おにいちゃん、だまってないで
なんかいってよ」

「ごめん・・・
正は、自分の親がアルツハイマーになると思って
なかったのでショックだと言う。」

「そんなこといわないでよ、
長男でしょ?」

「だから、俺は長男なんかに生まれたくなかったんだ」

「だから、俺が面倒見るからって、ね?」と剛。

「だから、そんなに簡単にいわないでよ。
これからもしかしたら下の世話もしないと
いけないんだよ。」

「え??シモ??」

全員重たくなった。

純は善行に電話をしたが、でない。

「もしもしお父ちゃん、こんな大変なときに
どこにいっているのよ。
私の怪我のことなんか気にしなくて良いから
戻ってきて」

と留守電に録音して携帯を切ったら
とたんになり始めた

里やからの呼び出しだった。
純はともかく、仕事をしなくてはといって
里やにいった。

里やには24時間コンシェルジュの依頼が来ていた。

「よく来るお客さんだけど、お酒を飲んで
酔っ払っているのよ。あんた呼べって
うるさいのよ」

中年の女性だった。

純は挨拶をすると、ぐっと純をにらんで
「笑わせて、わたしを・・・」

という。

「へ?」

「ここに来ていつもあなたが楽しげに
仕事をしているのを見ていたら
私はもう何年も笑っていなことに
気づいたの。
っていうか、どうやったら笑うのかも
忘れたの。」

「はあ・・・」

「あなたの辞書に無理って言葉はないんでしょ?」

「・・・わかりました
じゃ・・・」

女性はじっと純を見た

純はヘン顔とか
踊ったりするが
女性は笑わない

「お酒頂戴。」

と言うので、純は

「お粗末さまでした・・・」といって
厨房にはいった。

チュルチュルは

「撃沈」

といった。

厨房では里さんが
純に言った。

「適当にあしらっとけばいいのよ。
いろいろあって人が信じられなく
なっているらしいのね。」

という。

また、そこへ携帯がなり純の呼び出しが
かかった。
正からだった。
なんと善行が
元の会社であばれたという。

正はこれから就職の面接で
善行を迎えにいけないと
純に振って来た。

会社へ行くと善行の元の
上司が、いやみったらしく言った。

善行が酒を飲んで暴れたという。

「びっくりしましたよ。
いきなり乗り込んできて
おまえらのせいで首にされてから
俺の人生がめちゃくちゃ
になったと暴れだすので。」

「すみませんでした・・・」

「警察沙汰にしてもいいのですが
酔っ払っているみたいですし
一応、元うちの会社の社員なのでね。

早くつれて帰ってください・・もう。」

「申し訳ありません、
二度とこんなことないようにしますので。」

善行はうなだれていた。

「おとうちゃん、何でお酒なんか飲むのよ
こんなときに」

「きんきんいうなよ。
俺は正を呼んだのに。」

純は善行をつれて返ることになった。

家の前で善行は言った。
「お母ちゃんの病気は治らないのか?」
純は、「家族が協力して進行を遅らせること
しかないの」、といった。

ただいまーと入ると
台所でマリアと晴海がならんで食事の支度を
していた。
どうみても病気とは思えない。

晴海はうれしそうに「正も剛も仕事をさがしているから
おいしいものを作らなくては罰が当たります。
お父さんの好きな出し巻き卵もありますよう」と。

善行はどうみても病気に見えないと純に言うが。

マリアは、晴海が出し巻き卵に塩をたくさんいれて
いるので、「お母さん、そんなにいれたら
しょっぱくて食べれないよ。」という。

晴海は大丈夫だからといって
味を見る。

「おかあちゃん、しょっぱいの?」と純が聞く。

「違うよ、今日は味付けを変えようと思った
だけでしょ。」
むきになった。

ところが次の手順がわからず
「どうするんだったかな?」
といいながら「もう、あんたたちが余計なことを
いうからわからなくなったじゃない。」
といって、なべのふたを開けて
あつかったのか、ふたを投げつけ
大騒ぎとなった。

純は晴海に料理はマリアに任せてというと

晴海はむきになって、自分に料理ができないと言うのか
、なんで病気扱いにするのかと怒った。

「そうじゃなくておかあちゃんが怪我したら大変だから」
と純は取り繕うとするが・・・

そこへ剛が帰ってきた。

とたんに晴海は機嫌が良くなった。
そして剛のおこづかいをあげようと
財布をさがした。

「え?さっきもらったしさ」と剛。

「だってバレエをやっているからお金がいるでしょ」

とかばんをあけた。
ところが財布がない。

純にしらないかというと
「知らない、剛にはさっきあげたでしょ?」
というが、晴海は顔色を変えた。
そして、「財布、あんたがとったんでしょ?}
という。

「なんで私がとるのよ」

「わたし、あんたが私の財布からお金を取って
こそこそとお菓子を買いにいったのを
知っているよ。」

「それは小さいときの話でしょ
それに、私より剛のほうが何倍もやっているし・・」

剛は、「おねえ・・」といった。

晴海は「純、剛はそんなことしないよ。なんで
そんなこというの、返しなさい、ね?返しなさい」

純は持っていないといって争いになった。

「おちついて、おかあちゃん、一緒に探すから」

という。

勇気が泣き出した。

善行はおろおろした。

マリアは勇気の元に駆け出した。

晴海は、ひきだしをつぎからつぎへと狂ったように
あけた。
「落ち着いて、落ち着いて・・・・。
お父ちゃんどうにかしてよ」

善行はたまらず家を出て行こうとした。

「また、おとうちゃんは逃げようとしている。」
と純は追いかけた。

晴海は「お金・・・お金・・・」と泣きながら
探している

純は戻ってきて、玄関に落ちていた財布を
晴海にみせた。

「よかったね」

というと

晴海は剛に抱きついて

「剛・・・純がいじめる、純がいじめる~~」

とわめきだした。

「おかあちゃん、良かったね」と純は
わざと笑顔で言うが

晴海は剛に抱きついてわめいていた。

ーおじい、こんなのへっちゃらだよ
お母ちゃんの笑顔を取り戻すためなら・・・

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認知症の恐ろしさです。
なにをいっても自分本位になります。
自分に都合のわるいことは認めません。
すべて自分が正しいと言う
スタンスでものごとを見て判断します。

だから、純がなにをいっても通じません。
赤ん坊のようなものです。

果たしてみんなに晴海をみていくことが
できるのでしょうか。

っていうか

最初の兄弟そろった会議のとき、
純は「どうしたらいい?」とみんなに聞きます。
マリアも、愛も、協力するといいますが
純はすべて、却下します。剛にいたっては
論外だと言わんばかりです。

「だったらあんたはどう思っているのよ」と
純に聞きたくなります。

「私は何もいいアイディアがないので
みなさん、お知恵を拝借したいので宜しくお願いします」
というべきではないのか?

なのに、みんなの気持ちを汲むことなく
無駄に会議を進めてすべて却下する純。
その責任を正に長男だからとおしつけ
善行に、おとうちゃんなんだからと
おしつけ。

これでは、どうにもならないと
思いますね。

本来なら、純は仕事をやめるべきなんです。
認知症の介護のために仕事をやめるケースは
多いです。

その分、愛が働くことになります。
が、だれもそのことをいいません。
もしかしたら、わかっていても
純にはいえないのかもしれません。

母が純をどう思っているのか・・・・・
これから分かることだと思います。