「あなたたちの愛も永遠ではないのよ。」
と純と愛に言って多恵子は去っていった。
その夜、純は多恵子に離婚をしないようにと
メールを送っていた。
愛は、ありがとうをいった。
腕時計を気にしているので純は「誰かと
約束でもしているの?」ときいた。
腕時計は愛が高校に入るとき母からもらった
ものだという。家出をするとき無意識にもって
きた。
ただ・・・その時計は家出をしたときから
止まっている。捨てれなくて今も持っている。
「この時計が動いていたときはまだ、うちの家族は
幸せだったんだなと思って・・。」
「ね?私たちの愛も永遠ではないのかな?」
「はい。」
「なんで?」
「普通に言えば、どちらかが先になくなりますから。」
純はそういうことを聞いているのではないと
怒った。
愛はすみませんと言った。
海に近い公園で、晴海は勇気をベビーカーにいれて
ベンチに座っていた。
子供たちの歓声が聞こえて、ボールが転がってきた。
それを返すとありがとうございますと元気な返事が
きた。
温かな風と海のかおりに晴海はふらふらっと歩き出した。
そのよるマリアさんから純に電話があった。
スーパーのパートに出ているマリア。
勇気を晴海に預けていたが、その日、晴海は
勇気を忘れて一人で帰ってきたらしい。
勇気はご近所の方が見つけてくれたと言う。
それで善行と晴海はけんかになって、
晴海はもう二度と勇気に近づかないといったという。
純は心配になってきた。
翌日晴海は病院へ行った。
待合中に純から電話があったが出なかった。
ふと見ると病院のポスターに『認知症ひとりでなやまずに』
とあった。
受付で、呼ばれて保険証が切れていることをいわれた。
善行が仕事をやめていることをしらない晴海は驚いた。
診察代は実費になりますといわれて、断って出て行った。
やっと、晴海と電話が通じだ純は
里やの近くのコインランドリーから電話をしていた。
「おかあちゃん、いまどこ?」
と聞くと
「外よ」
という。
「大事な話があるのだけど会えないかな?」
というと
「わかった」
と言って携帯が切れた。
純は、時間とか場所とかなんでいわないのかと
あせって外に出ると
里やの前に愛と一緒に晴海がいた。
「お母さん、道に迷ったらしくて・・・」
との愛の言葉に純は驚く。
里やに入った純は里さんに事情を話して
場所をかりることにした。
「どうぞどうぞうちは暇ですから。
おかあさん、いらっしゃい。」
そういって椅子を勧めた。
純も座って愛にも座るように言うと
愛は一本電話をしますので、といった。
「純、大変なの」
「そのことなんだけど、おかあちゃんあまり
落ち込まないで良いからね。」
「え?純は知っているの?お父さんのこと」
「え??
お父ちゃんがどうしたの?」
「あのさ、あの・・・なんだっけ??
だから・・・・・・・・・?????」
愛は、「お母さんが病院へ言ったら
保険証が切れていたのです。それはきっと
お父さんが仕事をやめたということが
推測されます。
で、いま、職場に電話をしたらお父さん
結構前にやめていたらしくて・・・
すみません。」
「いまでもいつもどおりに会社へ行くと言って
でかけているのよ」と晴海は純に言った。
「めんどうくさいけど、はっきりいうしかないよね
もう嘘つくのやめろって。」
「じゃ、おねがいね、純。」
「え?なんで私よ」
「もう呼んでいるから、お父さん。」
ーこういうことだけはフットワークが軽いのよね
おかあちゃん。
そこへ善行が来た。
「なんでやねん、こんなとこに呼び出して」
「おとうさん、こっちよ」と晴海が言った。
「ああ、こちらがお父さん。
まぁ~社長そっくり」
「やめてよ、女将さん。
あ、おとうちゃんこちらはうちの女将さん。」
「私こういうものです。」
と名刺を出しながら
善行はきげんよく里さんに挨拶をした。
「うちの娘がお世話になっています
もし迷惑をかけたらいつでも追いだして
ください。」
「いーえ、おかげでお客様が増えてよろこんで
います。
ああ、お茶も出さなくてすみません・・・」
と里さんが厨房に行ったとき
「ちゃらちゃらした経営者やナ」と善行が言う
「それにこれがホテルか?
ただの大衆食堂やがな」
「おとうさん、従業員がいるのに」
というと
チュルチュルが立ち上がった。
「ははっははは・・・なかなか味わいのある
建物でございますね~~」
と善行が言う。
「偽善」といってチュルチュルは去っていった。
「ところで、用てなんや?
はよ、言え」
「うん、実は・・」
というと、そこへ師匠が
「もしかしたらあんた晴海ちゃん?」
と声をかけた。
師匠も宮古出身であることから知り合いと言うことも
考えられる。
それが、知り合いだった。
「金城先輩??」
高校の先輩後輩だった。
「あら~~~晴海ちゃんは宮古いちの
美人だったのよぉ~~
私の初恋。。。うふふふ」
善行は何だと思った。
「でもね、そのあと男に目覚めたもんだから
晴海ちゃんがあたしにとって
たったひとりの女なの・・・うふふふ」
善行はいらついて、「用がないなら忙しいから
帰るぞ」
という。
「あ、まって、おとうちゃん、まだ話が
終わってないのよ。」
里さんは師匠をつれてあっちへ行こうと
いって去っていった。
「けったいな人ばっかりやな、ここは。
「はよ、言えなんや?」
「あのさ、気にしなくて良いからね」
「なんやねん、はよ言えや」
「だから会社辞めたこと、気にしなくて良いから。」
善行はギクッとした。
そしてへたへたと座り込んだ。
「おかあちゃんももうしっているの
だからもう嘘をつくのはやめてくれる?」
「俺がわるいんやない
俺がわるいんやない
俺の能力を引き出すことが出来ない会社が悪い
んや。
おまえら、俺のことを頼りに成らないと思ってい
るんやろ。
こいつがいうとったな、晴海は俺と一緒にいる
のがうっとうしいんやろ?
そんなにいやなら
離婚してもええで・・・。」
そういって善行は肩を落として
里やを出た。
純は晴海に聞いた
「まさか本気で離婚しようと思ってないよね。」
「すみません、僕が要らないことをいって。」
「あなたが悪いわけではないけど。
じゃ、かえるね・・・」
「おかあちゃん、なんで病院へいったの?」
「え?」
「保険が利かなかったからおとうちゃんが
会社を辞めたことがわかったのでしょ?
お姉ちゃんも心配していたよ
お母ちゃんが最近物忘れが激しくて落ち込んでいる
って」
「マリアさんも何か勘違いしているさ。」
「正直に言って」
「純までへんなこと言うのやめなさい」
里やを出ようとしたとき、そとから里さんと
ぼけたお客さんが帰ってきた。
「ただいま~~~
うちのお客さんだけど迷子になってて」
「ただいまぁ~~」
と客はわらいながらいった。
晴海は複雑な気持ちで見ていた。
「あのおかあさん、ネットにある簡単な
認知症のテストを受けたらどうでしょうか?
それで不安がなくなればそれが一番です
けど。」と愛は言った。
「そうしよう、おかあちゃん・・・」
*********************
本当に晴海は認知症なんでしょうか。
それにしても善行が出てきたとたん
にぎやかな喜劇になりました・・・。
善行は一家の長を主張していたので
家族を養うことに全力をかたむけているのだけど
ままならぬ世の中です。
きれてやめなければ良かったのにね。
しかし、ちょっとホテルを売るのと交換条件で
就職を勝ち取ったというのですが、詐欺みたいですね。
善行の言う商社マンとは違う会社で違う職種で。
そんなにいい話は世の中にないと思うとよけいに
いい話が疑うことなく飛びつくのが凡人と言うか・・
善行は失敗したのです。おじいのホテルも商社に
とられたのも同然と思いますが。
