さて初出勤の朝
「やっぱり愛君のご飯は元気がでるね」

「純さんはきりってますね」

「去年の暮から仕事がなくて散々迷惑を
かけたから。
今年はバリバリ働かないとね」

うふふふと二人で
笑っている


・・場合ではなくて

「いいんですか?急がないと
20分の船におくれますよ。」

いつものように純は携帯を忘れ
お財布を忘れ
弁当も忘れ・・・

「愛君がいないと何にも出来ないんだな」
と思い知らされる

「僕はただ純さんが魔法の国を作る気
になってくれたのがうれしいです。」

純は、チューのかわりに
愛にどんとぶつかって

元気よくでかけた。

つまり、じゃれてんですな。

船に乗って対岸につくと
沖縄の雰囲気の街並みを

ぬけて

里やがある。

「おはようございます」

と元気よく挨拶したものの

返してくれる人は

・・・・

皆無。

みんな黙っている。

里さんは相変わらずドラマを見ている
し、

「おはようございます」というと
里は「おはよう、今日からよろしくね」
と返してくれた。

「なにをしたらいいですか?」

というと

「あんた適当にしてよ。
一流ホテルにいたんだし。」

「じゃ、今日の予約とかチェックアウトとか」

というと

ノートにアバウトに書いてあるからといって
ノートを見せた

「あ、そうだ、大事なことを忘れていた。」

純は、ほっとして
「なんですか、なんですか」と聞く

「あんたのことなんて呼ぼうか?」

「は?なんでもいいです。」

純はがっかりした。

「うちはね、ニックネームで呼んでいるのよ。

蘭はみためどおりセクシーだから
セクシー。

羽純はいつもジュースを
のんでいるからチュルチュル。

忍は日本人じゃないみたいだから
セニョールね。

私は石原裕次郎と天海祐希のファン
だからボスがいいけど。
だれもそう呼んでくれないのよ

で、あんたどうする?

前のホテルではなかったの?」

「社長って・・・」

「あ、それできまり」

「や、やめてくださいよ。」

「社長~~~あんたらしいし」

ここでもそれかよ

純は廊下を掃除するが、お客様に声をかけても
だれも応答しれくれない

コインランドリーに行くと宿泊客がいたが
よかったら私がやりましょうかと声をかけても
結構ですと言われた

厨房では
藍田忍がイワシの煮付け定食を作っていた。

それを純が運ぶが

客はありがとうも何も反応しなくて
定食にがっついている。

「何かできることがあれば言って下さいね」
というが

だれも何も言わない

どこからともなく、客の

「おいしないわ」という声が・・・・

食事の終わったお皿をかたずけるが
しっかりと食べられているわけではない。

セニョールは仏頂面して残飯を処理していた。

「あのセニョールさんはちょっとだけ顔が怖いから笑顔で
やったらきっとよくなると思います。」

というと

睨みつけるような顔をして純を見たので

純は息をのんだ。

セニョールは

「す・・・すみません」

といった。

おなじく純も言った

お客様が来た

チュルチュルはジュースをのみながら
漫画を読んでいる。

それを注意すると羽純は答えないで横を向いた。

純は玄関先のドアのふき掃除をしていると

蘭が後ろから入ってきた。

ドアをあけながら純は言った。

「セクシーさんはきれいなんだから
もっと明るい恰好をして顔もお客様にみえるように
したらどうですか?」

というと

セクシーは
息子のシロウを呼んで上に上がって行った。
彼女は子供と一緒にこのホテルに住んでいるらしい。

あなたも無視ですか・・・

疲れ果てて帰った純は愛にそんな話をする。

「みんなやる気ないし・・
おかみさんはドラマばっかりだし」

「初日ですから無理もないですよ」

「今日帳簿を見たのよ
するとね
宿泊費を納めていないお客さんが多いの
料金も安すぎるのだけどね・・・

こうなったら改革案を出そう。」

と純はパソコンを出して作業を始めた。

愛は「あせらないほうがいいですよ
郷に入らば郷に従えと言いますし」というが

純は聞こうともせずに「きっとよくなるから」と
いって豚まんを食べながら作った。

翌日廊下の掃除をしていると
なにやら部屋の中から奇声がきこえる

驚いた純は

「どうされましたか?お客様」と声をかけるが
応答がない。

「あけますよ」

とあけると

その部屋のにおいの臭いこと

するとドアがしまって、「あっちへイケー」と
言われた。

里さんに言うと
「あの開かずの間ね

確か一か月ぐらいでてきてないのではないかな」

「二か月です」とセクシーが言う。

「あ、そう。
いったい中で何やってんだろうね。」

「のんきなこと言ってないで掃除させてもらっ
たらどうですかくさくてくさくて大変です。」

「いまんとこ苦情もないしね
うちは基本的に客の自由を尊重するのよ。」

純はそこで里やの改革案を出した。

里はぱらぱらとめくってすごいね~~~という

純は「おじいのホテルがなくなって生きる希望を
なくしてここに来たときすごく心が安らいで
生きる元気を取り戻すことができたんです

だから私みたいにお客様を元気にすることができると
思います。」というが

里はドラマが気になってちょっと今いいところだから
といって改革案を純に返した。

純はオオサキのプレートももっていきたけど
里は見てくれない。

純はプレートの説明をするが従業員たちは無視していた。

セクシーに話しかけると

「いいかげんにしてよ、ここはあんたが思っている
場所ではないの。毎日やることもなく人生をあきらめ
てカップめんばかりを食べているような連中が来る
ところなの。あんたみたいな暑苦しい女にみんなで
頑張れば夢がかなうなんて言われるのが
一番迷惑なの。」

「そうじゃなくて私はおじいの魔法の・・」

「向いてないからさ、やめたほうがいい
じゃないの、あんた」

そういってセクシーは立ち上がって息子
と一緒に去って行った。

純は羽純にも声をかけた
改革案みせると

「笑止」と言ってさっていった。

セニョールはおかみさんにいわれたことしかしないという。

里さんに言うと

「買いかぶりすぎよ。そんな大したホテルではないからさ」

という。

純は改革案をかばんにしまうと
そこへ
シロウがきた。

丸めた紙を差し出す。

「くれるの?」

と聞くと
シロウは嬉しそうに笑った。

「私って子供には好かれるんだな~」

とうれしくなって

丸めた髪をひらくと

『バカ』

と書いてあった。
シロウは階段を上って行った。

おじい、ここにきてまだ2日なのに
もうひとりぼっちだよ、わたしは・・

純はがっかりした。
***************

純のようなやる気のある若者はめずらしい。
それゆえ行くところ行くところ無視されるし、仲間外れに
されるわけであって・・・。

純の四面楚歌を見ていると思います。

「どうよ、こんなものよ、大人だってたいしたものではないのよ。

挨拶をしても返してもくれないのよ。
こんな世の中でどうやって夢とか笑顔とか
連帯感のある世界が作れるわけ?。」

と、私は思います。

純は働き者で、みんなの役に立ちたいと思っているし

みんなが笑顔になってほしいと思っているし

思っているだけではなくて、そうなってほしいとできること
は何でもしようとするし

いい子ですよね~~ちょっと変だけど。

以前多恵子はあんたは社長の器ではないといったけど。
器ですよ。
世の中のために仕事をしようとがんばっている純は
十分、社長の器です。

で、このホテルの流れに任せる生き方はどこまで
つづくのでしょうか。