「私をここで働かせてください

おねがいします。」

「僕からもお願いします。」

「やめたほうがいいんじゃないの?

実情を知ればわかるわよ。」

女性は館内を案内してくれた。

なかに上半身裸の男性があるいていた。

「寒くないの?」男性は黙ったままだった。

「ここは客室ね。
せまいし汚いでしょ」

年取った男性が二人いた。

「お客は外国人とか
勘違いしてくる親子連れとかいるけど
ほとんどは年金生活者や生活保護者ばっかり」

風呂はちかくの銭湯を利用してもらい
洗濯は隣のコインランドリーをつかう。

ホテルというより簡易宿泊所である。

女性の御主人の父親が沖縄出身で
大阪に来る沖縄県人のためにつくったというが
建物は古いし、もうからないから
やめたいが、ご主人がホテルを作るとき
女性の名前を屋号につけたという。

かんばんには「里や」とあった。

「だからやめにくくてもう・・・」

「里さんとおっしゃるのですか?」

「この街自体も電車が止まらないから活気がないし
あんたが目指している夢とは正反対の
現実だらけの場所だよ。
笑顔もなければ、希望もない・・」という。

「・・・そうなんですか。」
純は気持ちが落ち込んだ。

里さんはちょっと待っててといって

奥に引っ込んだ。

「なにやってんだろ・・・」

すると里さんはすっとでてきて

メモを純に渡した。

「このホテルに行ってみたら?
面接してくれるように頼んどくからさ。」

「あ、ありがとうございます。」

と純がやっとの思いで言うと

里さんはテレビの前に座ってドラマを見始めた。

ところが

そのホテルの面接であるが

「なぜ、ホテルに勤めたいのですか?」
「社長になりたいからです。」

おじい、驚いたけど
里さんが紹介してくれたのは
グレードの高いホテルばっかりで・・・・

「しかもさ、どこもすぐ来てくれって感じで
里さんの紹介だったらっていうの」

と愛に言うと

「里さんってなにものなんでしょうね。」

「うん・・」

「で、どこにするのですか?」

「っていうかさ、どこもしっくりくるところがないっていうか
迷っているんだよね」

「そうですか」

そこに電話がなって正からだった。

正は晴海のことを心配していた。
毎朝電話をくれて
勇気の声を聞かせてほしいというが
そのたびに赤ちゃんの名前は決めたのと聞くという。

「ぼけているのかな?」

「まさか~~~」

というが、正は確かめてくれという。

愛に相談した。
「すると一度でんわしてみたらどうですかという
それにお父さんのことも気になるし」

ん・・・愛君・・・お父さんの何か見たのかもしれない。
晴海は愛に離婚を考えてほしいといったけど
言った覚えはないといったし・・・
ということは愛は伏せていました。

その善行は会社で受付業務をやっていた。
善行にとってうれしい仕事ではないので
元気がない。

年下の上司に会社の顔になるんだからもっと
にこやかにしてよと言われてしまう。

晴海はだれもいないマンションで宮古にいたころの
古いアルバムを出してみていた。

そこへ純から電話があった。

「どうしたの?」
と聞くと

純は「さっきお兄ちゃんから電話があって
子どもが夜泣きをして大変なんだって
いってたけど、あれ?マリアさんとお兄ちゃんの
子どもって名前なんだっけ?」といった。

「なにいっているの、勇気でしょ」

安心した純だった。

「そうだ、お父ちゃん、仕事うまくいってるの?」
と聞く。

「・・と、思うけど
純こそ新しい仕事決まったの。」

「ま、あてはあるんだけどね。」

翌日、純と愛は大正区の里やを尋ねた。

まわりの雰囲気はなんだか

千と千尋の神隠しみたいな・・・・・

純と愛はなかにはいって里に話しかけた。

「どうだった?仕事決まった?」
ときかれて

「それなんですけど」と話を切り出そうとするが
そこへ来客があった。

汚れた服装の男性二人だった。
里は二人を招き入れ
テーブルに座らせて
「なにがいい?てんぷらと沖縄そばだったら
あるけど」という。

そしてキッチンに向かって
てんぷら二つ沖縄そば二つという

「はい」

とカウンター越しに男性が返事をした。
なんだか緊張している。

純は「板さんいたんだ」という。

「お正月やすみだったからね
で、何話って・・」

「はい、あのやっぱり・・・」

すると別の女性がすっとあらわれて

302号室のお客さんが倒れているという
大変だと里は客室へ行った。

すると、こっちのテーブルから
すみません、ビールをおねがいしますと

声が上がる

カウンターでジュースを飲んでいた女性が
たって、それに対応した。

「…従業員かな・・・」
と純は思った。

するとさっきの客室係の女性がおりてきて

電話をしている。

「大正区の里やですが
救急車をおねがいします。

お客さんが息していないので。」

そういって切った。

純と愛はびっくりした

息していない?

その女性はさっきのジュースを飲んでいた女性に
かすみちゃん、手伝ってといった

かすみちゃんといわれたジュースの女性は

御意といった

「御意???」

「うんってことでしょ」

板さんが「そば、あがったよ」という。

純は手伝うことにした。

すると別の外国人がスミマセンという

はい、はい…と愛が対応すると。

「純さん、純さん・・」

愛は困って純にいった。
「彼はお金を持っていないそうです」

「は?」
「え??」「どうしよう???」

するとそこへ救急車がきた。

なんだかんだで

里さんは救急隊を302へ案内するのだが

「里さん、こちら無銭飲食とのことですが」

というと

「いいのよ」、といった。

「え??」

サンキューといって
外国人はさっていった。

「いいのかな??」
と二人は不安になった

「いいのよ・・・」

と声がした。

沖縄出身者らしい男性はちょっと
おカマっぽい人だった。

「何もかも失った人にやさしくするのが
沖縄の人のやりかたなのよ。

ここは沖縄なのよ。

おねえちゃん・・・」

そういってお酒を飲んだ。

小指を立てて・・・。

夜も更けてお客様もおちついたころ

里さんは「わるかったね、手伝ってもらって

こんな時に限って忙しいんだから」という。

純は302号室の救急で運ばれた女性はどうなったかと
聞くと里はだめだったといった。

純は、ドキッとして息をのんだが

かすみちゃんは相変わらずジュースを飲んでいるし
板さんはそばをすすっている
客室係の女性はかたづけものをしている。

純は「みなさんなんでそんなに平気なんですか」と聞く。

「日常茶飯事だから」と里はいう。

「でもおばあのために一曲やろうかね・・・・」

そういって里は三線をだして
歌を歌った。

それを聞きながら純は不思議に思っていた。

ふと里さんは歌をやめて

「そういえば仕事どうなった?」と聞いた。

「そのことですが、
やっぱりここで働かせてくれませんか?」

という

「え??」
里は信じられないと思ったみたいだった。

「ここに来たとき、心地よい夢を見ているというか
懐かしくて、あったたかくて、ゆっくりと静かに
力が湧いてくるというか。

そんな不思議な気持ちになったのです。」

「でもここに来るやつは何もかも失ったやつらばかりだよ」

「そういう人たちを笑顔にしたいのです

赤ちゃんの笑顔のような。」

赤ちゃんの笑顔はみんなを笑顔にさせることを
勇気の件で確認したと話をした。

愛は「僕からもお願いします」と言って
頭を下げた。
純もおなじくした。

里は「スタッフ~~」と言って従業員を呼んだ。

「そこまで言われたら断れない」という。
「しのぶからだよ」
というと
しのぶとは・・・
板前の会田忍さんだった
そばは里さんのほうがうまいらしい
ご主人の時代から働いているらしい。
「はい、つぎ」

「客室係の天草蘭です。」

「宝塚みたいななまえでしょ
たぶん偽名だと思うけど
人生いろいろだからね
きにしないで。

それからあれが雑用係の宮里かすみ。」
里の遠い親戚だけど
働きたいときは働くけど
気分が乗らないと働かないそうだ。

「あの、これからお世話になります。
待田純です
よろしくお願いします」

といって元気よく頭を下げたが

みんな素知らぬ顔・・・。
なんだか

白けた雰囲気だった

里さんはドラマを見ながら

「じゃ明日から適当に来て。」

といった。

純は独特な雰囲気に力がぬけそうになった。

おじい、やっぱりまちがいだったってことに
ならないよね・・・

ここで働くの・・・・

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純は平凡なホテルよりどうみても吹き溜まりのような
簡易宿泊所を選んだ。

いいのか???

自分の決定事項に関しては、さんざん善行から
非難されて最悪最低まで落ち込んだから
多少ビビったりする。

これからの事件の発生がワクワクドキドキしそうです。

画面上三階建てなんですけどね。「里や」って。

大正区にはこんな街並みがあるのでしょうか?
働くって、税金とか、保険とか月給とかあるのは当然だけど
本当にやっていけれるのかしらね・・・・