18話②~鶴・・天に飛ぶ
ジニは、辛い初恋を乗り越えてやっと手にしたキムジョンハンへの愛情さえも封印しようとしました。それは、師を守るためです。弟子達を娼婦扱いされた怒りに身を挺してまでもピョクケスに逆らった師匠を見て、ジニはそれでもペンムを憎らしく思うことはありませんでした。むしろ、誇りにさえ感じたことでしょう。しかし天才同士そんな言葉はいえるはずもなく、ジニは師にここでも逆らってまでも、ペンムの命乞いをするためキーセンの道さえも投げ出す覚悟でピョクケスの側室になることを申し出に行くのです。ペンムは身の破滅を覚悟で弟子達にほこりを教えたのです。弟子のジニは側室の道を選ぶ事で心の死を選んだのでした。
***************あらすじ****
ジニはキムジョンハンの縦笛をだして彼のことを思いました。
「友となれるくらいならむしろそなたを失うほうを選ぶだろう。私は始めて女性を愛した。そしてもう二度とありえない。だからこの心を持っていくことはできぬ。一人の女人を深く愛した男の心をここにおいていく」
「この恋もあきらめます。あきらめるしかありません。」ジニは悲しみに泣き崩れました。
ケトンは牢のペンムを訪ねました。
「少しでもお召し上がりにならないと。」
「ここに来る事はない。さあ戻りなさい。」
「きっと全てうまくいきます。ミョンウォルがピョクケス様を訪ねていきました。」「どういうことだ?なぜ?」ペンムは、もちろんジニの側室は反対でしたので顔を曇らせました。
母はジニにいいました。
「ほかにはなすすべもないのね。命を絶たれるのを見ているのがいやならこれしか(側室になるしか)道はないのね。タンシムのおなかにお子がいるのにね。神様も仏様もなんて無情なのでしょうか。前世で多くの罪を犯したかもしれないけど、ここまで容赦なく罪を償わせるなんて。かわいそうなジニ。」
母はペンムを訪ねました。ペンムの髪を結いながら昔話をしました。「初恋に敗れた時も泣きましたね。誰にも言ってはいけないといいましたね。翌日はけろっとしていました。」
「若かったのだ。真心を信じる愚か者とお前を叱り飛ばした。光を失うほどに苦しんでいたのに。正しかったのだろうか?ジニの初恋も断ち切ったこともソムソムのことも。きりがないな。ひどいことをした。これほどのひどい仕打ちを重ね何を得たのだろうか。」「なぜそんな話をなさるのですか。身なりを整えたのはなぜですか?ジニが側室になるのを見たくないのですか。処刑場では美しく立ちたいのですか?例え死んでも惨めな姿をさらしたくないと、違いますか?」「下がれ」「強がりはそのような考えはお辞めください。時には引き下がる事も必要です。」「ジニに命乞いをせよというのか?」「誰が教坊を守るのですか?つまらぬことより生きることを考えましょう」
都ではメヒャンがこのことを聞いて、おどろいていました。しかし、プヨンはかかわることをさけるようにいいました。「ここまで来ると打つ手はありません。かばえば、誰でも同じく重罪になります」といいました。
メヒャンはそれでもペンムの元に行こうとしました。助けてくださいと願いにいった先はキムジョンハンでした。
メヒャンは都へ出発しました。キムジョンハンは馬を飛ばしました。
スマン長官はペンムに呼ばれました。
「少しの間だけ出していただきたいのです。今宵がキーセンとして最後の夜。教坊で過ごさせてください。」
ペンムは自分の部屋に戻りました。しばらくの間、誰もいないことから人気のない部屋でもありますが懐かしい部屋です。そこで鶴の舞いの衣装をだしてなにやら思い出しては泣いていました。そこにジニがやってきました。
「涙とはヘンスさまらしくありません。その衣装をまとい舞うことはいくらでも出来ます。」「側室になるのか?」
「施しのつもりです。」「愚かな事を、」「ずいぶんではありませんか、命を救われたら礼を言うもの礼儀では?」「誰が頼んだ?情けをかけたというのか?」
「情けでも哀れみでもないわ。ほとほとキーセンがイヤになったの。こんな暮らしは沢山うんざりだわだから側室になるのよ。これからは楽に暮らしたいの。」
「今度は安っぽい哀れみのために芸の道をあきらめるか?でていけ。お前にそんな行き方はできぬ。」
「もう~~沢山だといっているのよ。」
「自分の身の振り方も解らぬものに何が施しだ。」
「ヘンス様!!」
「さあ出て行け。お前の力などいらぬ。自分の身は自分で助ける。たやすく倒れるペンムではない。だからおせっかいなどせず、自分のことだけ考えておれ!」
「うんざりだわ。こんなひと見たことないわ。なぜそんなに頑固なの?あなたには人の血が通っているの?信じられないあなたを見ているとぞっとするわ。」
ジニは部屋から出て行きました。ペンムの最後の強がりだったのでしょうか?ジニに負担をかけまいとしたのでしょうか?
鶴の舞いの舞い譜をみながらペンムはある決意を固めました。
ペンムはピョクケスに手紙を書きました。「私は死で己の罪を償うゆえに、ミョンウォルを側室にするな」という内容でした。ピョクケスは怒りました。「それほどまでに死にたければ死なせてやるわ!!!」(ぞっとするくらい、気持ちの悪い男ですね)
「あなたが一生をかけた舞い譜はどんなにくだらないものか解った?」「もう一度、最初からやり直したい。鶴の舞いの舞い譜を完成させたい。力を貸してくれぬか?」
ジニはもう一度ペンムの部屋に行きました。そこには誰もいなくて舞い譜がおいていありました。真っ白です。「鶴の舞い・・・ファンジニ」とあります。
自分でつるの舞いを完成させよとのペンムの思いが伝わってきました。
ペンムはどこへ行ったのでしょうか?
夜明け前、一人崖の上に立っていました。
教坊ではペンムを探しに人々が動いていました。
崖の上ではペンムがひとり舞いをまっていました。
舞にかけた人生最後の姿でした。
そして、靴を脱ぎ、がけに立ちました。
ジニは感じました。
まさに鶴が舞いたつ気配を。
メヒャンも感じました。ペンムが空を飛ぶ気配を・・・・
その時ペンムは大きく手を空にのばし、舞い上がり飛び立ったかと思うと崖の下に落ちていきました・・・・。
メヒャンは、死に場所を探しにいったことを話します。
ペンムの気持ちをわかっているのですぐそれが理解できたのです。刑の執行など屈辱を味わう姿を弟子達に見せえるペンムではないというのです。しかも刑の執行はかつて愛した男です。そのユス様を苦しませたくないと考えたのです。「情けない男、生涯心を寄せた女の一人も守ることが出来ないなんて。さぁはやくソンド中をくまなく探すのです。」
メヒャンは去っていきました。刑場では一人の兵士が走り寄ってきました。そしてペンムの死体を運んだのです。
メヒャンは驚きました。
そして悲しみました。
それは教坊にも知らされました。
悲しみに泣き崩れるキーセンたち。
ジニも、ヒョングムも。驚きました。
ジニは永遠の眠りについたペンムに向っていいました。
「起きて、なにをしているの?恥ずかしくないの?こんなのずるいわ。一人で逃げるなんて卑怯よ。私は認めない。だから起きて、早く起きて」ジニは信じられないのです。ペンムを揺さぶりました。「話しがあるの。」キムジョンハンは「やめないか」と止めます。「はなしてほっておいてよ」「亡くなった人に失礼であろう」「認めない。認めないわ。認めることなど出来ないわ、話があるのよ、まだ残っているのよ~~」「落ち着け心を静めるのだ。最後の別れだ・・静かに見送るのだ。」
涙に暮れるジニでした。
クムチュンは、ペンムの部屋の鶴の絵の鶴をさすりながら、机を触りながら亡きペンムを思っていました。メヒャンがやってきました。
クムチュンは「なんて薄情なのでしょう。三十年の間苦楽をともにしてきたのに。なぜ一緒に行こうといってくれなかったのでしょうか。」といいました。
「泣くばかりでなくほかのものを気遣ってやれ。」
メヒャンもペンムを思いました
「みち連れなど私がなってやる。無二の親友がいなくなって一人生きながらえて何の意味があるというのだ。」
メヒャンが・・涙を流して泣きました。
ピョクケスは怒っていました。
なんと強情なおんなどもだと。
キムジョンハンは、ピョクケスと都に一緒に帰ろうというが、「ミョンウォルを呼べ、側室にしてつれて帰る、それが約束だ。」といって自分を失っていました。
「私は引き下がれない。ミョンウォルをつれて来い」
「いい加減にしろ!!」「そなたの女なのか?」
違うといえばいいのに・・・キムジョンハン・・
「誰の物でもない。」「また説教か・・・えらそうに。」「もっと素直になれ。」
教坊ではキーセンたちが弔いの衣装を着ていました。
そっとそのなかのジニを見守るキムジョンハンでしたが。
心を告げることも出来ず悲しみを慰めることも出来ず去っていきました。
船に乗ってペンムの遺骨を川に流すヒョングム。
「いつも口癖のようにいってましたね・・・死んだらこの川に来たいって・・・あなたは生涯舞いに捧げ舞い続けたキーセン。最後の道もゆらゆらと舞いながら逝きたいといっていましたね。」
川岸ではキーセンたちが泣き叫んでいました。
しかし・・・・・
ジニは舞いの衣装を来て現れました。
先輩キーセンは日頃からジニを良く思ってなかったので、ジニに石をぶつけて自分も死のうといいました。
オムスはよく見よといいました。
「舞だ、宮廷舞だ。お前達が舞いきれなかった、ヘンス様が最後まで舞えといったあの宮廷舞だ。」
「舞いを始めたら最後まで舞わなければならぬ」
その言葉にみんなはっとして、思い思いにペンムの記憶をたどりました。
ジニもそうでした。ペンムに始めてあった日のこと。
私の手をとるのだといってくれたこと。
ウノの母に煮え湯をかけられたときかばってくれた事。
そして、懐かしい教え。
『熱い思いを内に秘め悲しみを笑えるその日まで舞い続けるのだ。キーセンの一番の友は、なんだかわかるか・・それは苦痛だ・・・』
ジニは師匠を思い舞いつづけました。
18話・・・おわり
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良くても悪くても、ヘンスペンムはジニのもう一人の育ての母であり、また厳しい父であり、偉大な師であったのでした。
そのペンムをなくしたジニは、これからどうなるのでしょうか?ペンムに勝つことだけを目的に日々を送ってきたジニにとって、ペンムをひざまつかせたことは一種爽快感があったはずですが・・・
その後むなしい気持ちになったのではないでしょうか。
あんなにやっつけてやりたいと願った事なのに、こんなにもあっさりと・・・。
ジニの感じた鶴の舞いは生きることへのしたたかさをこめたパワー溢れる舞いだとすれば、ペンムの鶴の舞いは人があこがれる鶴の美しさを讃えた舞いともいえるのではと思いました。甲乙がつくものではないのではないでしょうか。
新しい時代を開く若いパワーにペンムは学ぶ事を覚え力を貸してくれぬかとひれ伏しました。それは負けを認めるものではなく、真摯に舞いを極めるために一度はプライドを捨てる覚悟を必要と感じたのではないかと、思います。
それに答えなかったジニの心もまた頑なな強さを持っています。この師弟には、お互い天才ゆえ誰人も相容れない哀しさを感じます。
師を失ったジニはこれからどんな舞いを舞うのでしょうか?
