「私はこうしてストーカーに殺されずにすんだ」遥洋子 筑摩書房
7 組織の限界、個人の可能性
「そのスジ、は絶対あかん」
私はふたたび弁護士に相談した。
「おそらくですが、その筋の人から解決の提案がありました。○△□万円です」
弁護士は瞬時に言った。
「絶対あかん。絶対あきまへん。絶対ですよ」
その言いようにただならぬものを感じ、理由を聞いた。
「僕は代々弁護士の家族です。父も弁護士だった。一度、その筋の人に助けてもらったら、それ以降その人の人生はずーっと金を要求され続ける。それが彼らのやり口です。一度でも世話になったらもう二度と縁は切れません。二度とですよ。そこから抜け出して助けてくれと来る人たちが、父の代から自分の代までいるわれわれ弁護士の顧客です。そういう人たちを自分も見てきた。父の代から見てきた。今現在も自分の顧客にいる。だから、絶対、その筋の人の差し出した手をつかんではなりません。絶対に!」
語気の荒さに、自分がよほど新たな危険領域の水際に立たされていると感じた。