動物愛護 ケイさんのブログより
「食肉卸の業者を取材した時に、安く出せるにはわけがあると教えられました。
あるハム屋さんに聞くと、5トンの材料から11トンのハムが出来るという。
その人から、『自分はそんなものは食べない』と言われたのは衝撃でした。
それ以来、私は肉に関しては、信用している店でしか食べないことにしています」
そう話すのは、食肉加工業界を題材にしたミステリー小説『震える牛』(小学館)の著者、相場英雄氏だ。
元通信社記者の相場氏は、執筆にあたり、「成型肉」を卸す業者を取材したという。
成型肉とは何か。
その説明をする前に、つい最近、韓国で話題になった事件について触れておく。
焼肉大国の韓国では、今年4月、クズ肉を集めて人工的に作られた「整形カルビ」が大量に出回っていることが報道され、国民にショックを与えた。
米国やドイツなど、産地が異なる牛肉にクズ肉を結着した“多国籍カルビ”や、骨のない外国産牛肉に食用接着剤で骨をつけた「骨付きカルビ」が、韓国産牛肉に偽装されていたのだ。
日本人観光客が多く訪れる有名焼肉店でも出されていたという。
どんな肉でも美味しく化ける
「韓国は肉まで整形してしまう」と騒がれたが、実はこのような加工肉は我が国でも珍しくない。
約40年前、牛肉の流通量不足を補うために日本で開発された「成型肉」がそれだ。
当時、牛肉は高級食材だったが、捨てるようなクズ肉や牛脂を使って、庶民にも手が届くように加工したのである。
例えば、スーパーなどで売られているサイコロステーキは代表的な成型肉だ。
赤身肉と脂身が不自然に混じりあい、一目で人工的に作られた肉だと気がつく。
最近では技術の発達もあり、素人目には天然の肉と見分けがつかない「霜ふり加工」を施した成型肉が、安価な焼肉店やステーキ店、しゃぶしゃぶ・すき焼き店、ファミリーレストランなどに出回っている。
成型肉を製造する食肉加工業者はこう打ち明ける。
「食べ放題や、1皿二百円~六百円台でカルビ肉を出している激安焼肉店、千円以下で提供しているステーキ店では成型肉を大量に使っているところもあります。
米国やオーストラリアなどの外国産牛肉に、国産牛の脂身を打ち込んで霜ふり加工肉を作るケースが多い。
脂はどうしても国産の方が上ですから。
牛脂の質がいいと、どんな肉でも美味しく化けてしまう。
でも、牛脂が固まらないように注入するには乳化剤を添加する必要があるし、乳化剤の味をごまかすために化学調味料を加えたりもします」
食肉の問題に詳しい、元生活クラブ生協の理事で「食の安全を考える会」の代表である野本健司氏は、さらにこう説明する。
「成型肉は大きく分けると『結着肉』と『霜ふり加工肉(インジェクション加工肉)』、『やわらか加工肉』があります。
こうした成型肉の製造や販売は合法ではありますが、品質をごまかしやすく、消費者は知らずに食品添加物を摂取してしまう可能性があるのです」
「結着肉」とは、サイコロステーキのように、ハラミなどの内臓や腹横筋や脂身、すね肉や肩肉などの端肉をかき集め、食品結着剤を使って固めた上で、食べやすいサイズにカットしたものだ。
食肉加工業界では「ミルフィーユ」と呼ばれる、牛横隔膜などを数枚重ね合わせた肉も結着肉である。
「肉を固める過程で使う結着剤の中には、リン酸塩が含まれているものがあります。
リン酸塩は摂取しすぎると骨を弱くする性質があるのですが、退色防止にもなるし、弱アルカリ性なので、肉を日持ちさせる効果もあるのです」(同前)
そして、近年目覚ましい進化を遂げているのが、「霜ふり加工肉」だ。
剣山のような注射器針の機械で圧力をかけながら練乳や牛脂を肉に注入して作りあげるのだが、見た目には和牛霜ふり肉との差がわからないレベルにまで達している。
その市場規模は年間六千トンにもなり、牛肉以外に馬肉や豚肉などにも用いられているという。
そして、「やわらか加工肉」は肉の筋や繊維を細かく切断し、酵素添加剤を加えて肉をやわらかくしたもので、ハラミなどによく用いられている。
いわば、柔軟剤だ。
また、その過程で化学調味料を染み込ませて肉に味付けする場合も多い。
レアで食べられないステーキ
「肉をやわらかくするために主流となっているのがパパイン酵素などの酵素添加剤。
これと結着剤などの添加物を小さなブロックにカットした硬い肉にまぶし、型に入れて押し固めたものが『カットビーフ』と呼ばれる結着肉です。
これはハムのようにどこを切っても同じ形になり、厚みを指定するだけでロスなくグラム計算して出せるんです」(同前)
こうした成型肉はすぐさま人体に危険性があるというわけではない。
しかし、「食べ方に注意しなくては食中毒の心配が伴う」と、消費者問題研究所の垣田達哉氏は指摘する。
「成型肉はしっかり焼かなくては安心して食べられない肉なのです。
行政もそれを認めているから、スーパーなどで販売する場合は、『加工肉』であることや『中まで火を通してください』などといった表示が義務付けられています。
しかし、ステーキ以外の外食産業はいまだに法的に義務化されておらず、ほとんどの消費者は成型肉だと知らずに口にしているのです」
2009年、ステーキチェーン店「ペッパーランチ」で、成型肉の角切りステーキを食べた43名に腸管出血性大腸菌O-157の食中毒が発生した。
角切りステーキの生焼けが原因とされている。
なぜ、成型肉は十分に加熱しなくては安全に食べられないのか。
「肉は大きなブロックにカットされて運ばれてきますが、肉の外側面は大気や人の手、機械、刃物などに触れる可能性があるため菌が付着しやすい。
でも、肉の内側は雑菌がないので、普通の肉は表面さえ焼けばレアでも食べられます。
しかし、成型肉の場合は、加工の際に針や刃などで切り込みを入れることで、外側の菌が内部まで侵入してしまうことがある。
だから、成型肉は中までしっかり火を通す必要があるんです。
ペッパーランチでは客が自ら肉を焼いていたため、レアやミディアムで食べた人が食中毒になってしまったのでしょう」(前出・野本氏)
前出の垣田氏は、ペッパーランチのような食中毒がいつ起きてもおかしくないと注意を促す。
それは激安焼肉店に成型肉が大量に流通しているからだ。
「焼肉店では客が自ら肉を焼きます。
店側の表示が不十分な場合は、客が生焼けの肉を食べてしまう可能性が高い。
そもそもカルビ肉は、半生で肉のやわらかさが残っている状態で食するのが美味しいものです。
よく焼いてしか食べることが出来ない成型カルビ肉を焼肉店で提供すること自体、無理があるのです」
行政側も手をこまねいているわけではない。
東京都福祉保健局健康安全部食品監視課の福田博保氏が言う。
「成型肉は菌による汚染が肉の中まで及ぶ恐れがあるため、飲食店には『中心部を75度で1分間の加熱』の徹底を指導しています。
また、『肉を焼くときにはトングを使ってください』などと、メニューや貼紙に表示するよう指導しています」
今回、取材班は激安焼肉チェーン店に成型肉を使っているかどうか、アンケート調査を行った。
だが、ほとんどのチェーン店は回答すらしてこなかった。
きちんと回答したのは、「安楽亭」と「七輪焼肉 安安」だけで、その他の店は、「成型肉を使用しているか」という質問に、過剰なまでに拒絶反応を示した。
カルビ、ハラミ、タンには注意
「今回はご辞退させてください」(「牛角」)
「うちはやましいところも隠すところも何もありませんが、特に回答はいたしません」(「風風亭」)
そのため、実際に店舗に足を運び、成型肉を使用しているかどうか実地調査を行った。
メニューや店舗内に成型肉の表示があるかどうか、実際の肉を確認するというリサーチも行った。
その結果、「あみやき亭」、「一番かるび」、「牛角」、「焼肉きんぐ」、「焼肉屋さかい」、「焼肉どんどん」は、成型肉を使っていることをメニューに表示していた。
「牛角」では「牛タン」「豚タン」「ハラミ」類に、成型肉が使われていた。
メニューを見ると、ハラミ類は「お肉をやわらかくする加工をしております」、タン類は「形を整える加工をしております」と、商品写真の下に小さな文字で表示されている。
他の焼肉チェーンでも「やわらか加工」という言葉で成型肉を使っていることを小さく表示しているケースが目立った。
そのうちの一つ、「あみやき亭」で、店員に「やわらか加工」の意味を聞くと、こう答えた。
「どうしても固い部分の肉を使うと食感がよくないので、筋に切れ目を入れてそこに牛脂を注入しています。
そうすることで、お肉がやわらかく美味しくなるんです」
「牛繁」は、成型肉を使っているとの記述はないが、メニューの商品説明文には、「やわらか」や「漬け込む」などのコピーが再三使われており、店員が一部の肉に成型肉があることを認めた。
焼肉店を調査した結果、成型肉が多いベストスリーは、「カルビ」、「ハラミ」、「タン」だった。
タンの成型肉は、肉を普通にカットすると形にバラつきが出るので、同じ形にカットするために、折り曲げて結着しているケースが多い。
「牛角」の店員はこう説明した。
「牛タンの喉のあたりは筋肉ですから丸くなっていないんです。
それで、いろんな部位を集めて、丸く形を整えています」
カルビの場合は、霜ふり加工以外に、赤身と脂身を二層に結着している場合もあるという。
前出の垣田氏が言う。
「店側は良い肉を使っているようにアピールしたいので、成型肉を使っていることをあまり知られたくない。
だから、『やわらか加工を施して食べやすくしています』などと書いて、消費者が逆に『いい肉だ』と勘違いするような表示が目につきます。
『よく焼いて食べましょう』というのは、要は『自己責任で食べてください』ということなのです」
実際にこれらの店で、成型カルビ肉などを注文してみたが、やはり見た目だけでは天然の肉と見分けがつかないものが多かった。
だが、七輪で焼いてみると、肉厚の成型カルビなどは、トングで挟むだけで結着した筋に沿って肉がバラバラに崩れたり、肉の脂にすぐに火がつき、中まで火が通っていないにもかかわらず表面がすぐに焦げてしまった。
その肉をトングで押してみると、中からどんどん脂が溢れてきて、残った肉を見ると縮れた筋肉のようになっていた。
また、薄い成型カルビ肉も焼くと火が出やすく焦げやすい傾向が見られ、焼き加減が非常に難しいというのが正直な感想だ。
実は、この焦げやすいというのも大きな問題なのである。
「焦げた肉は発がんリスクがあるので、なるべく食べないほうがいい。
一方で、成型肉は焦げるほどしっかり焼かないと食中毒の心配もある。
だから、こうした成型肉は避けたほうが安心なのです」(同前)
肉の焦げは昔から体に悪いとされてきたが、近年、様々な調査報告が発表されている。
2009年の米ミネソタ大学の報告によると、高温で焦げるほどに調理された肉を食べ続けると、すい臓がんになる恐れが60%高くなるという。
また、南カリフォルニア大学公衆衛生学教室のアミット・ジョシー博士らの研究チームは、豚肉や牛肉などの赤身肉を週に1,5回以上、フライパンで焼いて食べている人は、進行性前立腺がんの危険率が30%も上昇することを確認した。
また、直火焼きなどで高温調理した赤身肉を週に2,5回以上食べると危険率はさらに40%まで上昇するという。
順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座の白澤卓二教授は、これらの研究報告からこう警告する。
規制緩和で米国産を大量に輸入
「高温調理をすると、タンパク質から発生する『HCAs』という物質や脂質の焦げ部分に含まれる『PAHs』という物質などが、前立腺細胞の代謝により発がん物質に変化するため、発がん性が上昇する可能性が高くなります。
ですから、焦げた人口霜ふり肉なんてとんでもない。
そもそも、脂だらけの肉は動脈硬化を引き起こす飽和脂肪酸が多分に含まれていますから」
成型肉以外に激安焼肉店を支えているのが、安価な外国産牛肉だ。
今年2月に米国産牛肉の輸入月齢が30ヶ月以下まで緩和されたため、米国産牛肉が大量に日本に入ってきている。
米国産牛肉の中でも、激安焼肉店で一番重宝されているんのが「タン」だ。
米国では牛タンを食べる食習慣がないことから、国産牛に比べて3分の1ほどの価格で仕入れられる。
だが、米国産のタンは、BSE問題がクローズアップされた時期に、扁桃などのプリオンが溜まりやすいとされる危険部位がタンについたまま輸入されるケースが再三あった。
例えば、「トロタン」などとして出されている脂肪部分が付いたタンは、扁桃が近い舌の付け根の部分だ。
北海道のある食肉加工関係者はこう話す。
「BSEの問題にしても、月齢30ヶ月以下の牛肉の安全性が確実に証明されたわけでもないのです。
でも、日本人は喉元過ぎれば熱さ忘れるじゃないけれど、米国産を怖いと思っている人はもう少ない。
以前、うちでは国産牛肉を加工して骨付きカルビ肉を作り1キロ1,700円ぐらいで売ってました。
しかし、いまは1キロ1,000円ぐらいで米国産の骨付き肉が入ってきていますから、その加工する機械はもう稼働していません」
激安焼肉店の中には、国産牛しか使っていないところもある。
だが、ある焼肉店に表示してあった個体識別番号を調べてみると、「H23 11 06 去勢(雄)ホルスタイン種」とあり、この牛は一昨年11月に福島県二本松市で出生後、1ヶ月で栃木県に売られていることが判明した。
福島県の酪農関係者に聞くと、この年に誕生した福島県の牛は、原発事故の影響で全く売れなかったという。
「最近では、ホルスタイン種の去勢されたオスの仔牛の売値は、4万円から5万円。
原発事故の後は、売れても仔牛で1万円から1万5千円くらいだった。
それでも売れない牛なんてたくさんいた。
この店で出している牛は、出生が2011年11月ですから、種付けは震災が起きる直前の1月から2月。
餌にもよりますが、仔牛が体内にいる間に母牛が被ばくした可能性もある。
この年の7月に牛肉から放射性物質が検出されましたが、これは飼料由来のものだった。
餌が汚染されていた福島県、栃木県、宮城県、岩手県は一時期出荷制限を行っていた。
この仔牛は出荷制限解除のすぐ後に生まれたことになります」
焼肉チェーンを巡っては、一昨年に5人の死者を出した「焼肉酒家えびす」の食中毒事件が記憶に新しい。
夏休みを控え、家族で焼肉店に行く機会も増えるだろうが、激安焼肉を食べる際には、細心の注意が必要である。
安いものには理由があるのだ。
「食肉卸の業者を取材した時に、安く出せるにはわけがあると教えられました。
あるハム屋さんに聞くと、5トンの材料から11トンのハムが出来るという。
その人から、『自分はそんなものは食べない』と言われたのは衝撃でした。
それ以来、私は肉に関しては、信用している店でしか食べないことにしています」
そう話すのは、食肉加工業界を題材にしたミステリー小説『震える牛』(小学館)の著者、相場英雄氏だ。
元通信社記者の相場氏は、執筆にあたり、「成型肉」を卸す業者を取材したという。
成型肉とは何か。
その説明をする前に、つい最近、韓国で話題になった事件について触れておく。
焼肉大国の韓国では、今年4月、クズ肉を集めて人工的に作られた「整形カルビ」が大量に出回っていることが報道され、国民にショックを与えた。
米国やドイツなど、産地が異なる牛肉にクズ肉を結着した“多国籍カルビ”や、骨のない外国産牛肉に食用接着剤で骨をつけた「骨付きカルビ」が、韓国産牛肉に偽装されていたのだ。
日本人観光客が多く訪れる有名焼肉店でも出されていたという。
どんな肉でも美味しく化ける
「韓国は肉まで整形してしまう」と騒がれたが、実はこのような加工肉は我が国でも珍しくない。
約40年前、牛肉の流通量不足を補うために日本で開発された「成型肉」がそれだ。
当時、牛肉は高級食材だったが、捨てるようなクズ肉や牛脂を使って、庶民にも手が届くように加工したのである。
例えば、スーパーなどで売られているサイコロステーキは代表的な成型肉だ。
赤身肉と脂身が不自然に混じりあい、一目で人工的に作られた肉だと気がつく。
最近では技術の発達もあり、素人目には天然の肉と見分けがつかない「霜ふり加工」を施した成型肉が、安価な焼肉店やステーキ店、しゃぶしゃぶ・すき焼き店、ファミリーレストランなどに出回っている。
成型肉を製造する食肉加工業者はこう打ち明ける。
「食べ放題や、1皿二百円~六百円台でカルビ肉を出している激安焼肉店、千円以下で提供しているステーキ店では成型肉を大量に使っているところもあります。
米国やオーストラリアなどの外国産牛肉に、国産牛の脂身を打ち込んで霜ふり加工肉を作るケースが多い。
脂はどうしても国産の方が上ですから。
牛脂の質がいいと、どんな肉でも美味しく化けてしまう。
でも、牛脂が固まらないように注入するには乳化剤を添加する必要があるし、乳化剤の味をごまかすために化学調味料を加えたりもします」
食肉の問題に詳しい、元生活クラブ生協の理事で「食の安全を考える会」の代表である野本健司氏は、さらにこう説明する。
「成型肉は大きく分けると『結着肉』と『霜ふり加工肉(インジェクション加工肉)』、『やわらか加工肉』があります。
こうした成型肉の製造や販売は合法ではありますが、品質をごまかしやすく、消費者は知らずに食品添加物を摂取してしまう可能性があるのです」
「結着肉」とは、サイコロステーキのように、ハラミなどの内臓や腹横筋や脂身、すね肉や肩肉などの端肉をかき集め、食品結着剤を使って固めた上で、食べやすいサイズにカットしたものだ。
食肉加工業界では「ミルフィーユ」と呼ばれる、牛横隔膜などを数枚重ね合わせた肉も結着肉である。
「肉を固める過程で使う結着剤の中には、リン酸塩が含まれているものがあります。
リン酸塩は摂取しすぎると骨を弱くする性質があるのですが、退色防止にもなるし、弱アルカリ性なので、肉を日持ちさせる効果もあるのです」(同前)
そして、近年目覚ましい進化を遂げているのが、「霜ふり加工肉」だ。
剣山のような注射器針の機械で圧力をかけながら練乳や牛脂を肉に注入して作りあげるのだが、見た目には和牛霜ふり肉との差がわからないレベルにまで達している。
その市場規模は年間六千トンにもなり、牛肉以外に馬肉や豚肉などにも用いられているという。
そして、「やわらか加工肉」は肉の筋や繊維を細かく切断し、酵素添加剤を加えて肉をやわらかくしたもので、ハラミなどによく用いられている。
いわば、柔軟剤だ。
また、その過程で化学調味料を染み込ませて肉に味付けする場合も多い。
レアで食べられないステーキ
「肉をやわらかくするために主流となっているのがパパイン酵素などの酵素添加剤。
これと結着剤などの添加物を小さなブロックにカットした硬い肉にまぶし、型に入れて押し固めたものが『カットビーフ』と呼ばれる結着肉です。
これはハムのようにどこを切っても同じ形になり、厚みを指定するだけでロスなくグラム計算して出せるんです」(同前)
こうした成型肉はすぐさま人体に危険性があるというわけではない。
しかし、「食べ方に注意しなくては食中毒の心配が伴う」と、消費者問題研究所の垣田達哉氏は指摘する。
「成型肉はしっかり焼かなくては安心して食べられない肉なのです。
行政もそれを認めているから、スーパーなどで販売する場合は、『加工肉』であることや『中まで火を通してください』などといった表示が義務付けられています。
しかし、ステーキ以外の外食産業はいまだに法的に義務化されておらず、ほとんどの消費者は成型肉だと知らずに口にしているのです」
2009年、ステーキチェーン店「ペッパーランチ」で、成型肉の角切りステーキを食べた43名に腸管出血性大腸菌O-157の食中毒が発生した。
角切りステーキの生焼けが原因とされている。
なぜ、成型肉は十分に加熱しなくては安全に食べられないのか。
「肉は大きなブロックにカットされて運ばれてきますが、肉の外側面は大気や人の手、機械、刃物などに触れる可能性があるため菌が付着しやすい。
でも、肉の内側は雑菌がないので、普通の肉は表面さえ焼けばレアでも食べられます。
しかし、成型肉の場合は、加工の際に針や刃などで切り込みを入れることで、外側の菌が内部まで侵入してしまうことがある。
だから、成型肉は中までしっかり火を通す必要があるんです。
ペッパーランチでは客が自ら肉を焼いていたため、レアやミディアムで食べた人が食中毒になってしまったのでしょう」(前出・野本氏)
前出の垣田氏は、ペッパーランチのような食中毒がいつ起きてもおかしくないと注意を促す。
それは激安焼肉店に成型肉が大量に流通しているからだ。
「焼肉店では客が自ら肉を焼きます。
店側の表示が不十分な場合は、客が生焼けの肉を食べてしまう可能性が高い。
そもそもカルビ肉は、半生で肉のやわらかさが残っている状態で食するのが美味しいものです。
よく焼いてしか食べることが出来ない成型カルビ肉を焼肉店で提供すること自体、無理があるのです」
行政側も手をこまねいているわけではない。
東京都福祉保健局健康安全部食品監視課の福田博保氏が言う。
「成型肉は菌による汚染が肉の中まで及ぶ恐れがあるため、飲食店には『中心部を75度で1分間の加熱』の徹底を指導しています。
また、『肉を焼くときにはトングを使ってください』などと、メニューや貼紙に表示するよう指導しています」
今回、取材班は激安焼肉チェーン店に成型肉を使っているかどうか、アンケート調査を行った。
だが、ほとんどのチェーン店は回答すらしてこなかった。
きちんと回答したのは、「安楽亭」と「七輪焼肉 安安」だけで、その他の店は、「成型肉を使用しているか」という質問に、過剰なまでに拒絶反応を示した。
カルビ、ハラミ、タンには注意
「今回はご辞退させてください」(「牛角」)
「うちはやましいところも隠すところも何もありませんが、特に回答はいたしません」(「風風亭」)
そのため、実際に店舗に足を運び、成型肉を使用しているかどうか実地調査を行った。
メニューや店舗内に成型肉の表示があるかどうか、実際の肉を確認するというリサーチも行った。
その結果、「あみやき亭」、「一番かるび」、「牛角」、「焼肉きんぐ」、「焼肉屋さかい」、「焼肉どんどん」は、成型肉を使っていることをメニューに表示していた。
「牛角」では「牛タン」「豚タン」「ハラミ」類に、成型肉が使われていた。
メニューを見ると、ハラミ類は「お肉をやわらかくする加工をしております」、タン類は「形を整える加工をしております」と、商品写真の下に小さな文字で表示されている。
他の焼肉チェーンでも「やわらか加工」という言葉で成型肉を使っていることを小さく表示しているケースが目立った。
そのうちの一つ、「あみやき亭」で、店員に「やわらか加工」の意味を聞くと、こう答えた。
「どうしても固い部分の肉を使うと食感がよくないので、筋に切れ目を入れてそこに牛脂を注入しています。
そうすることで、お肉がやわらかく美味しくなるんです」
「牛繁」は、成型肉を使っているとの記述はないが、メニューの商品説明文には、「やわらか」や「漬け込む」などのコピーが再三使われており、店員が一部の肉に成型肉があることを認めた。
焼肉店を調査した結果、成型肉が多いベストスリーは、「カルビ」、「ハラミ」、「タン」だった。
タンの成型肉は、肉を普通にカットすると形にバラつきが出るので、同じ形にカットするために、折り曲げて結着しているケースが多い。
「牛角」の店員はこう説明した。
「牛タンの喉のあたりは筋肉ですから丸くなっていないんです。
それで、いろんな部位を集めて、丸く形を整えています」
カルビの場合は、霜ふり加工以外に、赤身と脂身を二層に結着している場合もあるという。
前出の垣田氏が言う。
「店側は良い肉を使っているようにアピールしたいので、成型肉を使っていることをあまり知られたくない。
だから、『やわらか加工を施して食べやすくしています』などと書いて、消費者が逆に『いい肉だ』と勘違いするような表示が目につきます。
『よく焼いて食べましょう』というのは、要は『自己責任で食べてください』ということなのです」
実際にこれらの店で、成型カルビ肉などを注文してみたが、やはり見た目だけでは天然の肉と見分けがつかないものが多かった。
だが、七輪で焼いてみると、肉厚の成型カルビなどは、トングで挟むだけで結着した筋に沿って肉がバラバラに崩れたり、肉の脂にすぐに火がつき、中まで火が通っていないにもかかわらず表面がすぐに焦げてしまった。
その肉をトングで押してみると、中からどんどん脂が溢れてきて、残った肉を見ると縮れた筋肉のようになっていた。
また、薄い成型カルビ肉も焼くと火が出やすく焦げやすい傾向が見られ、焼き加減が非常に難しいというのが正直な感想だ。
実は、この焦げやすいというのも大きな問題なのである。
「焦げた肉は発がんリスクがあるので、なるべく食べないほうがいい。
一方で、成型肉は焦げるほどしっかり焼かないと食中毒の心配もある。
だから、こうした成型肉は避けたほうが安心なのです」(同前)
肉の焦げは昔から体に悪いとされてきたが、近年、様々な調査報告が発表されている。
2009年の米ミネソタ大学の報告によると、高温で焦げるほどに調理された肉を食べ続けると、すい臓がんになる恐れが60%高くなるという。
また、南カリフォルニア大学公衆衛生学教室のアミット・ジョシー博士らの研究チームは、豚肉や牛肉などの赤身肉を週に1,5回以上、フライパンで焼いて食べている人は、進行性前立腺がんの危険率が30%も上昇することを確認した。
また、直火焼きなどで高温調理した赤身肉を週に2,5回以上食べると危険率はさらに40%まで上昇するという。
順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座の白澤卓二教授は、これらの研究報告からこう警告する。
規制緩和で米国産を大量に輸入
「高温調理をすると、タンパク質から発生する『HCAs』という物質や脂質の焦げ部分に含まれる『PAHs』という物質などが、前立腺細胞の代謝により発がん物質に変化するため、発がん性が上昇する可能性が高くなります。
ですから、焦げた人口霜ふり肉なんてとんでもない。
そもそも、脂だらけの肉は動脈硬化を引き起こす飽和脂肪酸が多分に含まれていますから」
成型肉以外に激安焼肉店を支えているのが、安価な外国産牛肉だ。
今年2月に米国産牛肉の輸入月齢が30ヶ月以下まで緩和されたため、米国産牛肉が大量に日本に入ってきている。
米国産牛肉の中でも、激安焼肉店で一番重宝されているんのが「タン」だ。
米国では牛タンを食べる食習慣がないことから、国産牛に比べて3分の1ほどの価格で仕入れられる。
だが、米国産のタンは、BSE問題がクローズアップされた時期に、扁桃などのプリオンが溜まりやすいとされる危険部位がタンについたまま輸入されるケースが再三あった。
例えば、「トロタン」などとして出されている脂肪部分が付いたタンは、扁桃が近い舌の付け根の部分だ。
北海道のある食肉加工関係者はこう話す。
「BSEの問題にしても、月齢30ヶ月以下の牛肉の安全性が確実に証明されたわけでもないのです。
でも、日本人は喉元過ぎれば熱さ忘れるじゃないけれど、米国産を怖いと思っている人はもう少ない。
以前、うちでは国産牛肉を加工して骨付きカルビ肉を作り1キロ1,700円ぐらいで売ってました。
しかし、いまは1キロ1,000円ぐらいで米国産の骨付き肉が入ってきていますから、その加工する機械はもう稼働していません」
激安焼肉店の中には、国産牛しか使っていないところもある。
だが、ある焼肉店に表示してあった個体識別番号を調べてみると、「H23 11 06 去勢(雄)ホルスタイン種」とあり、この牛は一昨年11月に福島県二本松市で出生後、1ヶ月で栃木県に売られていることが判明した。
福島県の酪農関係者に聞くと、この年に誕生した福島県の牛は、原発事故の影響で全く売れなかったという。
「最近では、ホルスタイン種の去勢されたオスの仔牛の売値は、4万円から5万円。
原発事故の後は、売れても仔牛で1万円から1万5千円くらいだった。
それでも売れない牛なんてたくさんいた。
この店で出している牛は、出生が2011年11月ですから、種付けは震災が起きる直前の1月から2月。
餌にもよりますが、仔牛が体内にいる間に母牛が被ばくした可能性もある。
この年の7月に牛肉から放射性物質が検出されましたが、これは飼料由来のものだった。
餌が汚染されていた福島県、栃木県、宮城県、岩手県は一時期出荷制限を行っていた。
この仔牛は出荷制限解除のすぐ後に生まれたことになります」
焼肉チェーンを巡っては、一昨年に5人の死者を出した「焼肉酒家えびす」の食中毒事件が記憶に新しい。
夏休みを控え、家族で焼肉店に行く機会も増えるだろうが、激安焼肉を食べる際には、細心の注意が必要である。
安いものには理由があるのだ。