「顔がないピエロ 第2話」 | 幻想写真作家 七色アリスの幻想劇場

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「顔がないピエロ 第2話」 ~Aliceの幻想劇場2013~


第1話はこちらから「顔がないピエロ 第1話」


お話:七色アリス
アートフォトグラフィ:七色アリス
衣装協力:ペイデフェ



$幻想写真作家 七色アリスの幻想劇場



震える僕の耳元で

あちらのピエロが囁いた言葉はこうだった


「だあれにも内緒だよ。

君にもこれの作り方をおしえてあげる、、」



あちらのピエロは顔をさすりながら

僕の目の前でにんまりとそう笑った


そう言い残すとあちらのピエロはタタンと踊りながら

観客の雑音の中へ消えていった



ショーが終わり

僕は言われるがまま

あちらのピエロの部屋へ招かれた



ひっそりと冷たい深夜

あちらのピエロの真っ青な部屋には

青白いひび割れた顔がたくさん転がっていた




「さあ、君もここへ座って」

青い大きな化粧台の前の椅子に僕は座わる

隣であちらのピエロはベリベリと顔の皮をはいだ




そこにはぽっかりと顔のあるはずの部分に真っ黒な何かがあった

「そら、こうやってやるんだ」


あちらのピエロは床に転がっているひからびた顔を一つとりあげると

どうやら真っ黒な何かの中の歯らしき部分で顔の一部分をむしりとり


くちゃくちゃと噛みだし、やわらかくして

顔に塗りたくりだした




「作り物の仮面だとすぐにばれるだろう?

こうやればすぐにはわからない。」

「そのうえ、直接造形を作っているうちに本物の顔も

同じ形になっていくんだ。すごい発明だと思わないか?」




得意そうにあちらのピエロは話しながら

粘土を塗りたくってゆく。



だが、僕にはあちらのピエロの本物の顔の形がさっぱりわからなかった。




「さあ君もやってみるといい。遠慮なんていらないさ、」

恐る恐る僕も作り物の仮面をはずし

粘土をくちゃくちゃやりだした。


ペタリと顔に塗った瞬間、

僕は大声で叫んだ

僕のもうなくなっていた真っ黒い顔らしき部分に激痛が走った。

痛くはないのかとあちらのピエロに尋ねると



「ああ、最初はそうだったかもしれないなあ、


まあ時期に慣れるよ」



くちゃくちゃと粘土を噛みながらあちらのピエロは

ただただ粘土をペタペタとやっている


「簡単なものだろ?こうやってやればいいのさ」






狂っている






この部屋のヒビ割れた顔の数を数えてみれば

もう痛みなんて感じないくらい

あちらのピエロは顔にくちゃくちゃとしては塗りたくるのを繰り返してきたんだろう




痛みをこらえて

とりあえず僕は


恐らくたった一度しか作ることのないだろう顔を作り出した




くちゃくちゃぺたり
くちゃくちゃぺたり




あちらのピエロが言い出した


「君、目はこう細くした方がいい

心がみえないようににんまりと楕円形に」


君、鼻も小さく

嗅覚で何かを感じとらないように


君、口も小さいものがよい

何もよけいな話をしないように

ただ口角だけは自然にあげて

特別綺麗でもなく
特別醜悪でもなく

人と会って通り過ぎたらすぐに忘れられる

そんな顔がいい」


なれない手つきで作った

特別美しくもない
特別醜いわけでもない

顔を作りあげ



僕は次の日から

こちらのサーカス小屋のショーへでることにした




やはりそうなんだろう

たちまちこちらのサーカスも満員御礼!!



「やればできるじゃないか!」

こちらのサーカス団長も大喜びだった




狂っていたのはもしかしたら僕なのかもしれない




拍手喝采!!
拍手喝采!!
拍手喝采!!




「さあ、フィナーレだ!アンコールだ!」

僕はいつものように空中ブランコにのった



わあああああああ!!


拍手喝采!!
拍手喝采!!
拍手喝采!!



僕自身は笑っていないのに

僕の作った


特別美しくもない
特別醜いわけでもない顔が笑っている




これでいいのかもしれない





拍手喝采!!
拍手喝采!!
拍手喝采!!



観客に手を振りながら

そうぼんやり思っていたその時に



人の人の人の人の人の
人の人の人の人の人の海の中に






あちらのピエロも一緒に拍手をしているのを見つけた










「ね、よかっただろう」



あちらのピエロの口がそう動いた






拍手喝采!!
拍手喝采!!
拍手喝采!!









狂っている







僕が





いいや君らが








空中ブランコから

僕は自ら手を離し






空中へ落下した








歓声は悲鳴へと変わるだろう














作り続けて生きる君とは違う












だから





僕は







死を選ぶ









(C)Aliceの幻想劇場2013