雨が、風が、轟々としていた数日で、世界の色はすっかり変わってしまった。


鮮やかな新緑。
洗い立ての世界は鮮やかに、太陽の光は艶やかに。


風のない水面に写る世界の優しさと、柔らかい空気と、過ごしやすい季節。


そこは秘密の駅で、誰もいなくて、緑だけがしんと囁きを湛えていて。
耳をどれだけ澄ましても、風の音さえ空の上。


いつかこのレールに乗って、長い旅をしてみたい。
そんな事をつらつらと、もう何年も考えている。
好きな音楽だけ携えて、ずっと車窓を眺めていたい。


長い長い線路を行けば、いつか海の近くへ辿り着けるらしい。
ここはその傍ら。
山へも海へも行ける、だけど誰もいない静かな駅。


ふと、足元に誰かの忘れ物。
置き去りにされた春は、どこにも行かずにここでゆっくり朽ちてゆく。
やがて風に雨に洗われて、あの水面に辿り着いて、やがて海へ行くのだろう。
それとも雲になるのだろうか。

ここはどこにでも行ける場所。
どこにでも行ける駅。

だれもいない駅。

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