風の強い日。
地面が乳白色に染まっていて、同じ色の雨が風に乗って降り注いでいた。
キハダ、と言う木は森の中で見た事がある。
文字通り、木の皮を剥ぐと中が鮮やかな黄色をしていて噛むと苦い。
胃の薬になるのだと、その時は聞いた。
花が咲くとは、初めて知った。
そもそも、山の中で知った木がこんな風に街中にあるなんて結びつかなかった。
藤の花に似た、乳白色の花は風が吹くと花ごと落ちてパラパラと音を立てて地面を埋めて行く。
暑い日が続くあまり、とうとう体力が根負けしてしまった。
しばらく入院して、夏から避難を勧められたが病院の方も中々手一杯のようで。
とりあえず点滴を打ってもらい、なるべく涼しい場所に避難して過ごすようにと申し渡された帰り道。
あのまま入院していたら、見逃していた花の雨。
雨は川へ、川は海へ、海は雲へ、そして雨へ。
繰り返す旅路に、花の雨は一夏を染める。
マルハナバチが飛び交う合間を縫って、落ちる、降り注ぐ、花の雨は尽きる事がないようにさえ思えた。
夏は、好きだ。
たとえ体が耐えられなくても、保たなくても。
夏は好きだ。
生と死が交錯して、今日もまた、鐘の音が鳴る。