髪を切る。
うなじに、風が吹く。

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伸ばそうか、切ろうか。
肩に当たり始めた髪を、摘んでは迷っていた。
決定をしないままバスに乗って、美容院の鏡の前に向かう。

そこで出た言葉は、思いがけず「切ってください」だった。


敢えてアシメにもせず、分け目も変えず、『なんでもないショートボブ』。
少し物足りない気さえする、『なんでもない』髪型。

だけど、うなじに風が吹く。

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久しぶりに見上げる、新宿の街並み。
伊勢丹のビル。
追分の交番。

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ちょうど花園神社のお祭りの日で、雑踏には法被姿の人たちが混ざっていた。
そう言えば、去年も同じ日にここにいた。
追分だんごのカフェの格子越しに、お神輿の行くのを眺めていた。

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あの日も確か、髪を切った。
長かった髪を、切り落とした。

あの日もこんなふうに、風は吹いていたのだろうか。
首筋を、風が撫でてゆく。


空は青くて、湿度の高い空気が肌に絡む。
ここはすっかり、季節が夏と同じ顔をしていた。
それでもこれはまだ梅雨の前で、春の後で、夏はまだ先にある。

夏を嘯く風が吹く。
前髪をさらってゆく。


信号が青にかわり、歩き出す人達に合わせて私も進む。
混ざり合う季節とか、人の波だとか。
新しい街に聳える、古い建物。
それより古いお囃子が、風に乗って響いてくる。

湿気を払って、また風が吹いた。
アスファルトを踏む足にも、スカートを揺らして。

人の、音の、季節の、歴史の。
雑踏の中、風は吹いて。

置いてきた後ろ髪は、もう引かれる事はなく。
うなじに、風が吹く。

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