風がまるい。
私が譲ってもらったもの。
レジの横。

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午前中の雨は、午後になるとさらさらと雲が途切れた。
春の雨を含んだ風は、驚くほどぬるい。
蔵を改装した室内には、ビートルズが響いている。
やわらかな木造りのテーブル。
それから点滴堂で買ってきた、しろい、しろい、本が一冊。
先月買った本もまだ開いていないのに、どうしても今日はこちらの気分だった。
前に買った彩月さんの二冊は、病院の白いシーツの中で開いた。
シーツより白いこの本は、珈琲の香りを纏って。
たっぷりのクリーム。
あの日は偶然空いていたのに、時間の方が空いていなくて。
でも、蚤の市を覗けたのは大収穫だった。
去年は行けなかった、点滴堂さんの蚤の市。
目眩がするほど、素敵なものがたくさんで。
細かいパズルのピースみたいに、空間にはまり込んだたくさんの夢のハギレ。
思えば、ここのすべては点滴堂さんで夢の欠片を宿した人たちが、それぞれ持ち寄った夢の一部だったもの。
ここに馴染まぬものなどなくて、それは全てが宝物ということ。
どちらももちろん、ひとめぼれ。
点滴堂さんに来れば、いつだって醒めない夢の中。
それを少しだけ持ち帰る、そんなしあわせ。
棚の上に、私の好きなアマールカを見つけた。
彼女にも、そう言えば一目惚れしたんだっけ。
今はもうない、地元の本屋さんで。
レジの横。
点滴堂さんの、トートバッグを見つけた。
そうだね。
きっとここには、こんな少女が棲んでいる。
窓辺の席や、本棚の傍に。
飲み干したカフェ・オ・レの、グラスの向こうに。
そしていつしか、私の心の中に。
夢が醒めるのはまだ名残惜しくて、砂糖を入れる。
宝石みたいなブラウンシュガーは、くるくる融けてカフェインを少しだけまるくする。
雨上がりの空は、まだその名残の中にいた。
私の醒めない夢みたいに、微睡む西陽が溶け落ちて行く。
明日はきっと、晴れるから。
雨の匂い。
珈琲の匂い。
あともう少しだけ、夜の中。
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