ピアスを開けた理由なんて、今はもう覚えていない。

社会人一年目の冬だった。
フォーレのレクイエムを聴いていた事だけは、何故か鮮明に覚えている。


学生時代の私は模範的な学生で、制服を着崩す事さえ無かった。
長い髪は後ろでひとつに括り、勿論化粧っ気なんて全くなくて。

イマドキの女子高生の中で、逆に浮いていたのではないかとさえ思う。


高校を卒業して進学しても、相変わらずお洒落に興味は持たなかった。
「お前もピアスのひとつも開けてみればいいのに」なんて、親に言われるほどに。

それでも頑なに地味で野暮ったい学生のまま、社会に出てメイクを覚えた。


だけど、好きなものはあった。
ゴシック、パンク、レースに安全ピン。
退廃的、耽美的世界に憧れはあって、思えば卵はずっと温めていたのかも知れない。


最初のピアスはこわごわと、病院で麻酔までして貰って開けた。
念入りに消毒して、抗生物質を飲んで。

それが今では、貫通しないピアッサーを自力でねじ込んでいるのだから年月も経ったと言うものだ。

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好きなものは夜の帳。
黄昏に降りる薄紫の緞帳。

時計仕掛けの月と星。
夜天航路を行く流れ星。

螺旋のリボンに、繊細なレース。
鮮やかに弧を描く、サイレーンの歌声。


オトナになるにつれ、零して来てしまった砂を集めた砂時計。
ひっくり返して、開け直したピアス穴。

聞き分けの良い子供のような大人になって、歯車を回すのは誰だったのか。


錆び付いて溢れた穴に、差し込んで留めるピアス。
切り揃えた髪の揺れる際で。

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雨の降る夜だって、その上には天の川。
星の砂も雨粒も、キラキラと溢れてく。

集めて入れた、砂時計。
くるり、くるりと廻る、廻る。

夜の船は雲の上。
せめて夢の、明けるまで。


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