私が楠本まき先生に出会ったのは、まだ小学生の時分でした。
友達から借りた、『KISSxxxx』。
衝撃でした。
邂逅でした。
それまで私の中で漠然と形を持っていなかった、雲霞のような『好き』が。
確かに心の深くにあるのに有耶無耶としていたそれが、そこにあったのです。
ゴシック、ロック、パンク。
荘厳で華美な装飾や、装丁。
繊細なレース、細いリボン。
破けたガーゼ、夜に浮かぶ赤い月。
登場するどこか外れた彼等の送る、ごくごく当たり前の何でもない日々。
田舎の山で生まれ育っていた子供の私は、初めて触れた其れ等にあっと言う間に魅了されておりました。
そんな『KISSxxxx』から17年。
発表されたのが、この『赤白つるばみ』でした。
『KISSxxxx』の世界観を継承する、待望の長編単行本。
そんな煽り文句に、否応無く高まる期待。
そして、不安。
期待値が高すぎる余り、外れていたらどうしようとか。
17年も経って、もう私の方がズレてしまっているかも知れないとか。
杞憂の余り、手に取るのが今頃になってしまいました。
散々ブログで書いてきた『ときめかない断捨離』により、過去を清算してしまった私。
この時、集めていた楠本先生の作品コレクションを手放してしまいました。
もう手に入らない、何冊もの美しい装丁の本の数々を!
後悔の最たるものです。
買い戻そうにも時既に遅く、願わくばどこかで大切にされていますように…
特に大切にしていた『いかさま海亀のスープ』は、ピンク色をしたベルベットの表紙に金の箔押しの美しい本。
…古本で買うにも、状態が確認出来ないネット通販では恐ろしくて手が出ません。
本当に大切に仕舞ってしたのに、手放してしまうだなんて。
本当にあの頃の私の精神状態は、追い詰められていました…
そんな経緯もあり、前を向いた私が最初にしたことは、現時点で最新刊であるこの本を手に入れる事でした。
本棚に、楠本まきの無い生活なんて!
そうして手にしたこの本ときたら…
そう、謳われている通り、ここにいる登場人物は『普通=多数』からはみ出しているもの達。
だけどそんな彼らが、当たり前に、ふつうに、ありふれた日常を送っていく。
綿菓子のような手触りで。
蟻の触覚のような繊細さで。
当たり前に泣いて笑って悩んで生きてる。
時に優しく、時に意地悪に。
小さな『歪』を抱えながら、過ぎて行くごく平凡なそれでいてかけがえのない日々。
17年経って、いろんな事がありました。
私も、世界も。
だけど私は探さなくてもここにいて、ありふれた日常を重ねていく事は美しくて、何もかも変わったとしても何も変わらないものもある。
そんな、当たり前に気付いた読後感でした。
独特の世界観と絵は、人を選ぶ作家さんかも知れません。
だけどそれもまるで、この作品の一部みたい。
『特別なこと』は、何ら『異常』では無い。
『異常』なことは、なんら『特別なこと』では無い。
全てが世界の一部で、当たり前の日常の中にある。
そんな事に、気付いたり。
はたまた、思い出したり。
何気ない日常の階段を、ふと踏み外した時にお勧めします。
買い控えていた杞憂が本当に馬鹿らしい、買って良かった本でした。
子供の頃『KISSxxxx』を読んだ私は、こんな風に生きたいと思った。
大人になって『赤白つるばみ』を読んだ私は、こんな風に生きたいと思った。
私の本棚には、やっぱりこれが必要なようです。
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