あの雪に埋もれた世界が嘘みたいに、春が押し寄せてきている。
春って一般的にはやわらかなイメージだけど、一番激しい季節だと思っている。
日本の四季を擬人化するなら、春はピンクの似合う優男だと思っている。
クールな冬のお姉さんを、押しまくって陥落するような。
春一番といい、凍てつく根雪をあっさり溶かしてゆく様といい、夏より春の方がよっぽど激しい。
最近は花粉症まで加わって、うざいくらいのアピールにチャラ男疑惑が湧きそうだ。
でもチャラ男に冬は落とせないと思うから、きっと恋に生きる優男。
冬のイメージは、凛とした強く厳しいひと。
寒気のするような、美貌の女性。
けど、雪で覆われた地面は晒された場所より暖かいと聞く。
-10℃を軽々下回る寒冷地では、雪の布団が大地を護る。
雪をかいたアスファルトの道路が下から凍った水分に持ち上げられ、膨れて割れて穴だらけになっているのを見る。
雪の下で眠る植物たちを、抱いて守る冬のひと。
その人をさらいに来る春一番が、早くこの山にも吹けばいい。
未だ固い木々の蕾は、凍えて握りしめた両手に似ている。
祈るように固く組まれたその指先を、早く春の手が取りますように。