リスの食べた松ぼっくりは、海老フライの形になる。

あの木片を繋ぎ合わせたような木の実の、一体どこが美味しいのか見た目からは推測もつかないが、雪が積もる前に森に行く事ができれば、存外容易くそれは見付かる。


松ぼっくりにも種類があって、よくある丸い形のものはどこにだってある。
森の中にも、博物館の庭にも。

だけど一際大きい、細長い形をしたヒマラヤスギの松ぼっくりは特別だ。
その辺りの森の中では見当たらないし、簡単に公園に植えてあるものでもない。

一際高い松に似たその樹は美術館だったり、少し小洒落た公園なんかに立っていたりする。


ヒマラヤスギの松ぼっくりは、松かさが開くと鱗片がパラパラと落ちて先端だけになると言う。
それがまるで開いた薔薇のようで、なんでもシダーローズと称するそうで。


私の出歩く先々で、普通の松ぼっくりには事欠かない。
なんなら、リスの残した海老フライでさえ見つける事ができるくらい。

だけど噂のシダーローズには、ついぞお目にかかった事が無い。
おそらくそれは名前に似て、田舎の山などでは手の届かない澄ました存在なのだろうと勝手にタカをくくっている。


ドライフラワーなんかを扱う雑貨屋の棚に、ヒマラヤスギの松ぼっくりを見た。

木の実は森で拾うもの、と言う意識が根強くあるので購入には至りはしなかったものの、その特大のサイズに心惹かれたのは確か。

いつかあの森の薔薇を、拾って家に持ち帰りたい。


もうとっくに良い歳になっていると知っているのに、飽きずにこんなものばかり宝物にしてしまう。

木の実、蜂の巣、特別な形をした河原の石。

ダイヤモンドの指輪もネックレスも、ここまで心を動かす事はなくて。


一体いつまでこんな私でいられるのか、それとも一生こうなのか。

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でも他の誰になれるわけでも、ありはしないから。

机の上には、今日も森の宝物。