真夜中、すべてが寝静まったかのような頃。



遠く、微かに鉄道の音を聞くことがあります。

私の家から線路までは遠く、一番近い場所でも3km近く。

それでも特に、冬の夜。

しんと、静まった空気の凍える夜。


冬に透明になった空気は、星の光だけじゃなく遠くの音までも運んでくるのでしょうか。


微かに響く線路の音は、きっと夜を走る貨物列車。

夜の淵の山沿いの線路を、走り抜ける幾両もの貨物。


普通列車や特急列車と違って、先頭車両にだけ明りの点ったその長い長い軌跡は、街灯もない田園の中を音だけの尾を引いて。


一度、線路に並走する道から、その貨物が行くさまを見たことがあります。

灯りの点らぬ貨物の車両は、ただ漆黒の中を音だけが行く。


不思議と、夏にこの音を聞くことはないのです。

聴こえるのはいつだって、息さえ凍えるような寒い夜。


姿の見えない貨物列車は、何を載せて走って行くのでしょうか。

彼方からのこの微かな残響は、一体何の軌跡なのでしょうか。



今日も深い闇の中、どこかへ走る列車の音が。



姿のない、きっとあれは夜を運ぶ音。