「アリス、
お部屋がお花の香りで
いっぱいだね...」
(うん、なんだか
天国にいるみたい♪)
(しあわせだよ)
「天国にいるんじゃないの?」
(いないよ。
パパの胸のなかにある、
夢の国にいるの)
「知ってたけど」
「お友達、今日もたくさんきたよ」
(誰かな♪)
「昨日不在連絡票が入ってた
ルナママさんと、
めいちゃんママさん」
(ルナママさんは、
愛があふれる人)
(めいちゃんママさんは、
涙があふれる人...)
「そらママさんもきたわよ」
(もうすぐサクラの季節だね)
「いちみ裕子ママさん」
(今でも、絵を大事にしています)
「飛河ママさんもきてくれたよ」
(ひゅうがくんは
15歳を目指しているんだったね、
大丈夫、私が保障する)
「つぎは、だ~れだ?」
「リリィお姉ちゃんの匂いだ!
しょうこママだね」
「そして、これは?」
(シホさんのアイドルグループ、
不死身4。
シホさんと、
ルナママさんと、
めめーるねねさんと、
ゆいあんさんでしょう?)
ママ、パパ...
私は今、
おひなさまみたいに、
おおぜいのお友だちに
かこまれて楽しくすごしています。
だから、悲しまないでね。
南阿蘇は暮れかかっていた...
ぼくはポツリと、
「黄昏」とつぶやいてみる。
「アリスの黄昏」...
そこには、
日の出の強さも、
日盛の豊かさもなかった...
しかし、
脳腫瘍だった犬は、
ぼくに生きる勇気を
あたえてくれた。
乾いた心を潤すように、
アリスを知る人は涙を流した。
アリスの黄昏もまた、
美しいものだったのではないか、
とぼくは思う。
「アリス」、
ぼくはもう一度つぶやいた。
「さあ、いっしょに帰ろう」