現在はある | 続・阿蘇の国のアリス
24日(火)。

「鈴を鳴らしたら、
住所と氏名を伝えてから、
お願い事をするのよ。
魔法使いが言ってたでしょう」


「うん...。確か、
ジャージやジーパンなど
ラフな服装はNGだとも言っていた」


「アリス、歩けるようになるかしら?」




「アリスちゃん。
ジュジュかあさんが買ってくれた
ベットが気もちいいからって、
寝てばかりいたら、牛になるよ」


「牛には...なりたくないな」


「おりこうさん、歩けたね」

「バースくんも歩いたから!」


「よかった...」


夕方になって、
ホーちゃんとせいらママが
おうちにやって来ました。

「アリスはいかないの?」


酵素の材料を
ママと一緒に街まで
買いに行くためです。










25日(水)。

私はまた、歩けなくなりました。

会議が終わって、
急遽、ペットクリニックへ...。


「先生に生き返りの注射をうってもらおうね」


私は末期の脳腫瘍なの。

不眠症になったり、
鬱になったりして、
生きているのがほんとうに
嫌になってしまう。

恋だってできないし、
こんな私が生きていて、
これからなにかいいことがあるのかな。

私の残りの人生なんて、
だらだら続く下り坂でしょう。


「アリスちゃんのバイタルは、
落ちていませんね。

身体は生気にあふれています」


先生がまた、私を
生き返らせようとしている。


「アリス、私は何度も
あなたに助けてもらったよ。

それはすごく感謝してる。

私たちには未来なんて、
ないのかもしれない。

でも、現在はある」

「ママ、帰りにケンタッキー買って」

私の目からぼろぼろと涙が落ちていった。

呆然として、
なぜ自分でも泣いているのか
わからないという顔をして、
秋の私は泣いていた。

あのときの涙が
幸せのために流されたことが、
ただ、うれしかった。