もうひとりのアリスちゃん | 続・阿蘇の国のアリス
「お母さん、苦しい」

首筋に水滴が落ちてきた。

家のなかなのに雨が降るなんておかしい。


そのときジュジュくんは気づきました。

母は泣いている。


明かりもつけずに、
思い出の写真を見ながら。

ジュジュくんのなかで
不安が一気に高まりました。


「なにがあったの?
お母さん、泣いてるの?」

そうきいたとたんに母は身体を離した。


心のなかには嵐がくるまえの
海上の雲のような灰色の不安が
渦まいていた。


「ジュジュの兄弟のアリスちゃんが、
昨夜亡くなったの...グスン」




「ペットクリニックには
苺凛香さんのケーキを...」


「私とアリスには
aiさんの手作りパウンドケーキを
買ったわよ」


「ママ、だいじょうぶ?
今日はあまりしゃべらないね」


「さあ、水も汲んだし、病院に行こう」






お母さんが消えてから、
ジュジュくんはまだ
泣いていませんでした。


母のまえでは
悲しむところを見せたくなかった。


アリスちゃん、聞こえるかい?

昨夜、兄弟犬のアリスが死んだんだ...。

だから、アリスちゃんは、
死んじゃだめだよ。


なぜ、こんなときに
また涙がでるのかな。

私とジュジュくんの心が、
列車でも連結するように結ばれました。


相手がなにを思い、
なにを感じているか、
考えるまでもなくわかりました。

その短い時間、
ふたりはひとつの心を生きていました。


「さよなら、もうひとりのアリスちゃん」