熊本市開花宣言 | 続・阿蘇の国のアリス
トイレが終わると
全身から力が抜けていきました。

思わずその場に
しゃがみこんでしまいそうに
なりました。

でも、私は立ち続けました。

ここで座りこんだら、
二度と立ちあがれそうも
なかったからです。

私はほんとうに
いい娘だったのだろうか...。

誰もが希望に満ちて迎える
陽光の春に、
私は胸の底を冷えびえと
凍らせていました。

「誕生日が終わっても、
私、生きていてもいいの?
みんなの負担にならないの?」

一滴だけ私の左目から涙が落ちました。

「アリス、おかしなこと言わないで!」

首を横に振りながらママはいいました。

「あなたは、いい娘だわ。
クリスマスも、大晦日も、新年も。
そして、7歳の誕生日までも
ママとパパのために
がんばって生きてくれた。
ほんとうにありがとう」

部屋に戻ると、
お昼のニュースが流れていました。

今日、熊本市でサクラが開花したそうです。

なぜ昔の日本人は歌や俳句で、
あれほど季節ばかり詠んでいたのでしょう。
そう考えていた私が、
今回のサクラの開花宣言には
しびれました。

目を閉じると、
満開の染井吉野が浮かんできました。

ひとつひとつの花が
命そのもののようで、
春の命がたくさん集まって、
おたがい喜びあっている...。

不意にママの声が聞こえました。

「アリスちゃん。
もう少し、もう少し生きてくれるかな。
私の誕生日まで...」

明日もただ生きなければならない。

4月も
「続・阿蘇の国のアリス」を
よろしくお願いいたします。