2017渓流解禁 | 続・阿蘇の国のアリス
「アリスちゃんは今、
おうちでゆっくり
過ごしているんでしょう?」

先日、熊本のペットクリニックで
診てもらったとき、
先生がパパにきいてきました。


「いいえ。アリスは今でも
三日に一度は旅に出ています」

パパは笑っていいました。

「トイレがんばったよ、ママ」
「おりこうさん♪」


先生は驚き、パパは静かに続けました。

「思い出の場所をつぎつぎと
訪ねてゆく旅です」

「それは、いい旅ですね...」


「いってくるね、ヤキトリ」
「コッ、コッ。無事に帰って来てね」


渓流解禁を心待ちにする
私たちにとって、
3月1日は特別な日です。

冬枯れの渓で半年ぶりに
竿をだす喜びほど
感動的なものを
他に知らないのです。


だからこそ、
私に脳腫瘍があっても、
ママに肺がんがあっても...

私たち三人は、
この日渓を目指すのです。


「アリスはこの旅で、
死ぬかもしれないね...」


「でも、それが、
アリスの生き方だと思う...」


「決して悪い死に方じゃないと思うんだ」

「そんなこといって、
一番悲しむのはパパのくせに...」


「アリス...生きてるのかな?...」


「ずいぶん静かになって」


「アリスー!死ぬのは、
お梅とフー子に会ってからにしろー!」


「酔って私の方こそ死にそう...ベーッ」


三人が到着したのは、
宮崎県椎葉村耳川源流でした。


お梅とフー子が先に来て
釣りをしていました。




「あっ、アリスファミリーが来た!」


「ここは?...耳川源流だー!
私、生きてまた来れたんだね!」


「パパ、ここは、
死に場所なんかじゃないよ。
回生の場所なんだ!」