父の職場を見学して得たことは、働くことはかっこいいということだった。
大学生に憧れた時期もあったし、はたからは何もせずにぶらぶらしているだけに見える、何かを目指している人たちのことを羨ましく思うこともあった。
だけど、やっぱり働くことはかっこいい。働いている人が一番かっこいいと思った。
だけど、やっぱり働くことはかっこいい。働いている人が一番かっこいいと思った。
わたしは、かっこいい人になりたかった。
みっともなく地べたを這いつくばっていっぱいいっぱいに生きている人たちを軽蔑したし、プライドばかりが高くて知らないことの多い田舎者を嫌悪した。
かっこよく生きる秘訣は、わたしにとって重要なことだった。
進路がどうこうと考えるより先に、自分に何ができるのか、どんな人になれるのかを知りたかった。
かっこいい人になるためにすべきことが知りたかった。
かっこよく生きる秘訣は、わたしにとって重要なことだった。
進路がどうこうと考えるより先に、自分に何ができるのか、どんな人になれるのかを知りたかった。
かっこいい人になるためにすべきことが知りたかった。
わたしは、テレビで散々にコマーシャルを流している、新しいアルバイト情報誌を買った。
薄い雑誌の薄い紙にいくつかのコマが区切られ、びっしりと細かい文字の求人情報が印刷されている。写真を載せている大きめのコマもあった。
野暮ったいエプロンと馬鹿みたいな帽子をお揃いでまとった人たちが楽しそうに笑う写真には、マンガの吹き出しのような枠がついていて、中には『いっしょに働こうヨ!』とある。
別のページの同じような写真では『楽しいヨ!』だった。
野暮ったいエプロンと馬鹿みたいな帽子をお揃いでまとった人たちが楽しそうに笑う写真には、マンガの吹き出しのような枠がついていて、中には『いっしょに働こうヨ!』とある。
別のページの同じような写真では『楽しいヨ!』だった。
何ページかめくっていると、世の中のアルバイトとは、どのようなことをして、いくらのお金になるのか、大体のところがわかってくる。
情報から仕事の具体的な内容を想像して、「これはいやだな」と思うような求人は、『未経験者歓迎』だの『寮完備』だの『社員旅行有り』だのと、他の何かでバランスが取れるようになっていた。
情報から仕事の具体的な内容を想像して、「これはいやだな」と思うような求人は、『未経験者歓迎』だの『寮完備』だの『社員旅行有り』だのと、他の何かでバランスが取れるようになっていた。
一つ、わたしの目を釘付けにする情報があった。
『業種:飲食店、勤務地:池袋、週一日からOK、実働:2h~3h、時給:2000円(経験者優遇)(賞与有り)、制服貸与、送迎有り、初心者歓迎』とある。
どんな仕事なのか、想像がつかなかった。
飲食店だから、ホールのお運びか洗い場かキッチンの調理師かだろうとは思ったけれど、同じ業種の他の求人と比べて、条件と待遇が良過ぎる気がした。
飲食店だから、ホールのお運びか洗い場かキッチンの調理師かだろうとは思ったけれど、同じ業種の他の求人と比べて、条件と待遇が良過ぎる気がした。
わたしは池袋に行ったことがない。
渋谷にはないような、特別な飲食店があるのかもしれなかった。
この待遇なら池袋も悪くないと思った。
働く自分を想像すると、まさに、それこそが今すぐすべきことに思えた。
渋谷にはないような、特別な飲食店があるのかもしれなかった。
この待遇なら池袋も悪くないと思った。
働く自分を想像すると、まさに、それこそが今すぐすべきことに思えた。
わたしは、情報欄に載せられている『桃尻娘』の番号に電話をかけた。
「アルバイト情報誌の求人情報を見たのですが」と言えば話がわかりやすいと、電話のかけ方から面接のマナーまで親切に手順を説いた記事が載っていたので、そのページと、『桃尻娘』のページとを、すぐ入れ替えられるよう、指を挟んでしおりにした。
この情報誌さえあれば、世の中のどんな仕事でも自分のものにできそうだ。
「アルバイト情報誌の求人情報を見たのですが」と言えば話がわかりやすいと、電話のかけ方から面接のマナーまで親切に手順を説いた記事が載っていたので、そのページと、『桃尻娘』のページとを、すぐ入れ替えられるよう、指を挟んでしおりにした。
この情報誌さえあれば、世の中のどんな仕事でも自分のものにできそうだ。
「ああ、はいはい」
電話に出た女の声はとても気さくだった。
「まだ、求人の募集はしていらっしゃいますか」
緊張してとろとろ馬鹿丁寧に喋る自分が間抜けに思える。
「一度、お店に来てちょうだい。履歴書持ってきてね」
「ありがとうございます。いつ、何時にお伺いすればいいでしょうか」
思ったよりもずっと簡単にことが運ぶので、わたしは興奮した。
「いつでもどうぞ」
歌うような声を残して、一方的に通話が切られた。
きっと、わたしがとろとろした喋り方をしていたせいだろう…。
きっと、わたしがとろとろした喋り方をしていたせいだろう…。