さてフランスの地方を巡る旅の始まりです。
パリにはターミナル駅が幾つかあり、向かう地方によって利用する駅が異なります
。
ブルターニュ方面への駅はモンパルナス駅。
初めての駅ですから用心して少し早めに出て地下鉄に乗車。
パリの地下鉄は独特の雰囲気があってとても好きなのですが、スリも多いので用心に用心が必要です。
地下鉄のモンパルナス駅から国鉄のターミナルまでは若干離れています。
移動の多い旅であることを念頭に身軽にして行ったのでさほどの苦労はありませんでしたが、やっぱり大きな荷物はバリアフリーが進んでいないパリの地下鉄ではきついと思います。ターミナル自体は分かりやすい構造でした
。
切符は事前にインターネットで手配しておいたのでプリントアウトして持参。
あとは出発を待つばかりです。
行先はレンヌ、ブルターニュ地方の中心都市です。
目的地まではTGVで二時間半ほど。
憧れの地、ブルターニュ地方に近づくにつれ、景色が変化してくるのが分かります。
初めてづくしの土地、いくつかの駅に停車する度、「ここ何だかよさげだなぁ」とガイドには決して載っていない土地の名前をメモしたり、
SNSをチェックしたりしていたらあっという間のTGV時間。
無事、レンヌに到着しました。
ホテルは渡航直前に急にキャンセルされてしまったので、別のホテルを新たに予約しておいたのですが、これが大正解。
駅前も駅前、改装が終わったばかりで室内も清潔でフロントの対応もとても良かったです
。
午後のカンペール行きの往復チケットを入手して、出発までの間を市内観光にてくてく歩きの開始です。
到着時、曇り空だったレンヌも少しずつ晴れ間がのぞいてきてくれました。
駅から市内中心地までは徒歩で15分ほど。
石畳の戦火をしのいだ中世の建物が僅かですが残っています。
ブルターニュ地方に来たかった理由の最たるは、ゴーギャンのルーツを訪ねたい!でした。
フランスにありながら、ケルト文化の影響を強く独特の文化を持つこの地方。
彼らは自らを「ブルトン」と呼ぶ誇り高い民族です。
フランスにいるというよりは、先に訪ねたスコットランドの空気感を思い出すような土地でした。
街の中心地から四方に広がる小路を思うままの方向に歩いていくと、美しい教会がありました。
中からは何かのリハーサル中なのか、讃美歌が聞こえてきます。
教会内に入ってこの偶然の時間をシェアさせてもらうことに
。
こういう時間は本当に換え難いもの。
ステンドグラスの向こうに注ぐ光を受けて教会内に赤に青に緑に豊かな色合いを届けてくれます
。
こういう瞬間にいつも思い出すのが、祖母の面影です。
五山の送り火の日に生まれた祖母は、91回目の五山の送り火を見てその数週間後に旅立ちました。
祖母にとって最後の五山の送り火の日、お誕生日を祝い、点火を見届けた私は帰路につくことに。
京都では五山の送り火は8時と決まっており、その前に各家の前でご先祖様をお送りするのが習わしです。
8時の点火までに済ませないと「帰りの電車に乗り遅れてしまわはる」と言って
。
もう相当に弱って小さく小さくなっていた祖母は臥せたままでした。
「じゃあ、またね」
声をかける私に、祖母は何とか起き上がろうとしますが叶いません。
細々とした声で「おおきにね。次はもっと元気になってるしね。」
もう元気になることはないことは、自分が一番分かっていたでしょうに。
すっかり大人になっていた私は、その言葉にストーンと何か突かれたようになりました。
いつも私を導いてくれていた手はすっかり力を失って細々として横たわっていました。
どうしてあのとき、その手を最後に祖母がいつも握りしめてくれたように、握ってあげられなかったのか。
お別れのときはもう間もなくなのだと分かりながら、それを受け入れたくなかったのでしょう。
そして弱る祖母の前で涙を流したくなかったのでしょう
。
不思議なことに、歳を重ねるごとに憶えてもいないようないろいろなことが、自分の中にしっかり根ざしていることに気づかされることがたくさんあります。
そのたび、祖母のことを思い出します。
そしてそういう日常では思いの至らすことの出来ない「自分とは何者か」ということを、旅先のふとした瞬間に鮮明に思いを至らすことがあります。
‘’死は全てを奪う。
でも、死はただ奪うだけではなく、生きるものに何が大切なのかを教えてくれる。
お返しをしなければならないこと。
手放してはいけないものを取り戻すこと。
そして自分の原点は何かを見出すこと。’’
祖母はこの世にはもういませんが、いつも一緒に旅をしている気持ちは強くなる一方です。
きっと私の後ろで、訪れる場所、目にする全てを興味深々に見回しているでしょう。
教会の隣の美しい庭園のベンチで真っ青な空を眺めていると、正午を報せる鐘楼の音が盛大に鳴り響きました。
さぁ、列車の時間が近づいてきたようです。
次なる土地へ出発しましょうか。
おばあちゃん、行きますよ
。
