雨がザカザカ降っていて、風もゴウゴウうなっている。
数メートル先のお店に入るだけで、私のピンヒールを履いた足はくるぶしまで水に浸かってしまった。
せっかく今日のために慣れない高い靴で来たというのに。
隣の男は気づいてもくれない。
会うのは今日で何度目か忘れたけど(最初の頃は今日は・・・回目!なんて覚えてたのにね)。
かなりの確立で天気が悪い。
日ごろの行いに比例してるのか反比例してるのか。
もうどうでもよくなってきた。
でも天気が良くても悪くても、インドア派な私たちには関係ない。
だって、夜の銀座は歩けませんよ。
誰が見ているかわからないですから。
背の高い彼は目立つじゃないですか。
専業主婦な奥様が、どこかにいるかもしれないじゃないですか。
彼には子供がいない。だから、あまり早く帰らなくても奥さんは別に困らない。
20代前半で結婚した彼は今年で10年目に突入するつれあいとのなれそめ話などを普通にする。
昨日、巨人負けたよね、みたいな口調で。
私はそれを、そうですね、負けましたよね、みたいな感じで聞いている。
別に野球ファンじゃないけどね。
それは不倫というのだろうか。そう思ってるから、誰にも彼のことを言えないでいるのだろうか。
ただ、飲んで、話して、笑って、それだけの関係。
別に歳の離れた友達みたいなものでしょう。
あ、上司と言うのかな。
でも上司っぽくないし。でもでも、他の後輩と同じところに行ってたらやだし。
どうでもいいと言いながら結構うるさい自分に気づく。
そろそろ、帰りますね。明日も仕事だし。
そうだね。
奢られるのがなんとなく嫌なのに、会計はいつの間にか彼が済ませてしまっている。
私は愛人じゃないぞ。
そんなスマートなところに惹かれてるわけじゃないぞ。
かたくなにガードしてる私。
何を、なにから?
外は相変わらずヒドイ事になっていた。雨も風も止む気配は全く無い。
明日のニュースは「都心で川が発生!ピンヒールのOL、流される」で決まりだ。あ~、くだらん。
靴は脱いで道路に出てタクシー拾おうかな、なんて考えていたら、彼が後ろから大きな黒い傘をさした。
すごい雨だね~。
ですね~。
足、濡れちゃうね。
いや、もはや足だけの問題ではないですよ。
抱っこしてあげようか。
!!
一瞬ひるんでしまったけど(多分顔も赤くなったと思うけど)
いや、靴脱いで車拾いますから。
と言ってのけ(暗いから顔色はわからないはず)、靴を脱ごうとした。
あ、せっかく身長差がなくなってるのに、もったいないよ。
と傘をさしてない方の手で、私を抱き寄せて、
気づいてないと思ってた?
と言いながら
やはりこの人には負けるかも、と思いながら目を閉じた。
雨音も風も全く無音になった、嵐の夜の出来事。