少し前までは、人も犬も、アレルギーはそれほど高い割合で見られる病気ではありませんでしたが、現代では、3人に1人は花粉症などの何らかのアレルギーを抱えており、犬も同様に、3頭に1頭は、アレルギーやアトピーの発症に関係する遺伝的なアレルギー因子を持っていると言われています。

アレルギー疾患の増加の背景には、幼少期の清潔すぎる生活環境や体を清潔にしすぎる事によって、ホコリや花粉などのアレルギー物質がほとんど無く、雑菌に触れる機会も少ない状態に体が慣れてしまい、雑菌やアレルギー物質に対して過敏な反応が起こりやすくなっている、またはそのような体質が遺伝していると考えられています。

また、様々な薬や洗浄剤を使用した食品の摂取や、衣服の着用、体の洗浄などから、微量の経口毒や経皮毒を長期的に体内に取り込んでいる事で、ホルモンバランスや自律神経の乱れが生じやすくなり、免疫機能の暴走を引き起こしているとも言われています。

一般的な花粉症などのアレルギー(I型アレルギー)は、非自己である異物を排除するために、ヒスタミンなどの炎症物質が大量に放出されるために、血管拡張、組織の充血や腫れ、痒みなどの炎症反応が起こりますが、脱毛疾患やリウマチなどの自己免疫疾患(II型アレルギーやIII型アレルギー)はアレルギー反応のメカニズムが異なり、自己の細胞に対して免疫反応が起こるもので、本来は非自己を排除する働きを持つ免疫機能が自らを攻撃してしまう事で、組織の炎症や損傷が起こる違いがあります。
アレルギーには、体がアレルギー物質と接した際に、数十分後など、すぐに免疫反応が起こる即時型(即時性)アレルギーと、数時間から数日経ってからなど、少し遅れて症状が現われる遅発型(遅延性)アレルギーがあります。

即時型のアレルギーには、アナフィラキシーショックと呼ばれる全身性の強いアレルギー反応が起こるケースもあり、血圧低下、呼吸困難、意識消失といった命の危険を伴う状態に陥る事もあります。

遅発型のアレルギーは、このような命の危険を伴う重篤な状態に陥る事は稀ですが、症状が現われるまでにかなり時間がかかるため、原因を引き起こしているアレルギー物質を特定する事が難しくなります。

遅発型のアレルギーは、比較的食事性アレルギーにおいて見られる場合が多く、犬が以前から好んで食べ続けている食事が原因となっているケースも多いと言われています。

そのため、犬の好物の食べ物であっても、それが犬の健康にとっては悪影響を及ぼしている事もあります。

また、今までは特に異常が見られない場合であっても、加齢とともに胃腸の働きが低下したり、免疫力が弱くなるなど、体質が変化する事によって、もともと持っていたアレルギーやアトピーの因子によってアレルギーの症状が出てくるケースもあります。
近年、大半の犬が室内で飼い主とともに生活するようになり、屋外での飼育は年々少なくなってきていると言われています。

そのような犬の生活環境の変化とともに、犬のアレルギー疾患の発症数は増加傾向にあると言われています。

アレルギーの原因は、空気中の花粉やホコリの吸引、アレルギー食品の摂取、金属や化学繊維への接触など、様々な事が影響して起こりますが、近年の機密性の高い室内は、ホコリや粉塵、繊維クズなどのアレルギー物質が溜まりやすく、人に比べて体高の低い犬は、それらの空気中に舞ったアレルギー物質を吸引しやすいために、アレルギーを起こしやすくなっています。

空気清浄機などを使用しても、カーペットやソファーに付いた微細な粉塵は取り除く事ができず、また1mmにも満たない微細なダニの死骸や糞に対してアレルギーを示す場合もあるため、頻繁に室内を掃除していても、カーペットやソファーなどがダニや粉塵の温床になっている場合には、犬のアレルギーの原因が排除できずに、症状がなかなか治まらない事もあります。

また、アレルギーの原因が室内のアレルギー物質だけに限らず、毎日食べているドッグフードやおやつにある場合には、それが犬の好物であっても病変を引き起こしている事があります。

他にも、シャンプーのやりすぎによって皮膚が乾燥していたり、慢性皮膚炎が起こる事で、皮膚の常在細菌の作り出す毒素に対して過敏になっていたり、アレルギー反応が生じている事もあります。

多頭飼いの場合には、ニキビダニやヒゼンダニなどの微細な寄生虫が連鎖的に感染する事があり、それによって皮膚のバリア機能が低下して、アレルギーによる皮膚炎が同時期に起こる事があります。
犬にアレルギーが生じると、皮膚の赤みや湿疹などの皮膚症状が起こる事が多く、他にも下痢や嘔吐などの消化器症状や、くしゃみや鼻水といった呼吸器症状などが起こる場合もあります。

また、時には目ヤニが多くなったり、涙やけの痕が大きく残るなど、目元にも異常が見られる場合があります。

食事性アレルギーの場合には、食べ物が触れやすい口や顎の周囲が赤く腫れたり、消化不良を起こしやすいために、水分量の多い軟便を出す事が多くなる場合があります。

吸引性アレルギーの場合には、アレルギー物質が付きやすい目の周りが赤く腫れたり、吸引したアレルギー物質によって鼻腔や副鼻腔に炎症が起こり、くしゃみや鼻水が多くなる事があります。

接触性アレルギーの場合には、草花が触れた腹部や足元にだけ湿疹や赤みが生じたり、首輪の金属が触れる首周りにだけが赤く腫れたり、食器に触れる顎だけに脱毛が生じるなど、そのアレルギー物質が触れた箇所だけに局所的な症状が見られるようになります。

ノミアレルギーの場合には、ノミに刺された箇所が赤く腫れ、小さな湿疹(蕁麻疹)が生じる事もありますが、アレルギー反応によって皮膚が大きく腫れ上がったり、脱毛が生じる事もあります。

いずれの場合も、その大半は皮膚に強い痒みが生じるため、何度も痒い箇所を咬んだり引っ掻いたりして、痒がる仕草を見せるようになります。
アレルギーの治療には、ステロイド剤や抗ヒスタミン剤、インターフェロン製剤などを使用した薬物治療が行われる事が多く、治療が長引く程に、薬への依存性や副作用の心配が出てくるようになります。

症状があまりにもひどい場合には、そのような薬剤を使用して、一時的に症状を抑える事も必要ですが、アレルギーを引き起こしている原因物質を生活環境から排除しない限りは、症状が自然に治まる見込みはありませんので、結果的には長期的な薬物治療が必要になってしまいます。

そして、皮膚がますます弱くなったり、内臓機能が低下するなどして、他の細菌や真菌による感染症にもかかりやすくなったり、慢性疾患を誘発しやすくなり、皮膚病の症状が複雑化して治りにくくなる事もあります。

アレルギーの根本的な原因を排除するには、体の外側と内側からの対処が必要と言われています。

体の外側のケアでは、室内の生活環境を清潔に保ち、アレルギー物質を吸引させないように注意したり、犬の皮膚や被毛を清潔に保ち、細菌や真菌が過剰に繁殖しすぎないようにする事が大切です。

散歩の際には、草花に触れる事よるかぶれや寄生虫感染を防ぐため、草むらや茂みの中に入る事は極力避けるようにして、散歩の後はノミやダニが体に付いていないか、ブラッシングをしながらよく確認する必要があります。

体の内側のケアでは、飲み水や食べ物は毎日新鮮なものを与えるようにして、細菌やカビなどの雑菌が繁殖しないように、真空保存する事も必要です。

そして、アレルギー対策用の療法食に切り替えたり、主原料の異なる新しい種類のフードに変更して様子を見る事も重要です。

また、飲み水やご飯の器が金属やプラスチックの場合には、陶器のものに変更したり、犬用のタオルやマットは頻繁に洗い、ダニや雑菌の繁殖を防ぐ事も大切です。