いったい、健康とはどのようなことなのでしょうか。病気とは何かと考えた方が良いのかもしれません。まず、放射線による影響について考えてみると、「これが放射線でしか起こらない病気です」と言えるものは一つもないのです。放射線が病気を引き起こすかどうか考えるときには、その量、放射線の種類、被ばくのしかた等々が正確に把握されていないと判断することはできません。

体に赤痢菌が入り込んでしまうと、赤痢という症状が出てきます。赤痢の発病と原因との間に明確な因果関係があります。放射線の場合は、原因と結果との因果関係の仕組みが少し違うのです。一度に大量のガンマ線を全身に浴びると、人は死にます。人が死ぬということは、原因が、薬であれ、細菌であれ、放射線であれ、結果は同じです。原因と病気の発現との間には複雑な過程があるのですが、いずれの場合も、個々の細胞の内部状態の変化が、その根源であることに変わりはありません。それぞれの細胞には絶対不変というわけではありませんが、一種の規律があります。細胞は個人主義者であるくせに、細胞同士が共同して、より高度な生命形態を作り上げているわけで、これらの足並みは、どの段階でも厳重な管理の下におかれています。しかし、たくさんの細胞が壊れたり、変化したりして、これらの仕組みに大きな狂いが出てくると、体は異常をきたすことになるのです。

細胞の中で、はじめに生じる小さな分子レベルの変化が、そのまま増幅されて生化学的な変化に誘導されることがありますが、「体力」という名で表現される力、すなわち防衛能力や修復能力が正常活発であれば、この生化学的変化は、次の段階に進行悪化する前に食い止められてしまいます。

人間の回復力はあたかも、大雪でしなった竹のようなものだということです。あまりたくさん雪が一度に積もれば竹は折れてしまいますし、折れるほどの雪でなくても、長い間、姿勢を直すチャンスがないまま不自然な状態に置かれれば、やはり、竹は正常に戻りにくくなあります。

事故などによる大量出血で死ぬ場合を除いて、人の死は、おおむね病気と言う段階を経て訪れます。病気は、一つの原因で起こるものではなく、

準備状態、すなわち、不摂生などによる疲労の蓄積、睡眠不足、栄養のバランスを欠くとき、

誘因、すなわち、生体の防衛機能が手薄になる睡眠中であるとか、高温や乾燥など、環境が生体によって好ましくないこと

そこに、細菌感染等の原因があるとき

に発病すると考えられます。

生体が死ぬということは、その生体のいくつかの細胞や組織が、生きるために不可欠な仕事をとり行うことを反映する結果なのです。新しい細胞と取り替えることのできない神経細胞は、100年間は生き続けられると言われています。したがって、体の細胞たちの運営がうまくいけば、「人間は百年生きられる」ということになります。


神経

人間の寿命はどんどん延びています。この子は120歳まで生きます。

ナショナルジオグラフィックの表紙です。2013年5月