けれども、どのような生命体も原始的な元素からだけでは進化できません。原始的な元素から構成される安定な化合物は,無色の結晶である水素化リチウムと水素分子しかありません。しかし、そのどちらも繁殖もしなければ恋に陥ることもありません。私たちを含むすべての生命体は、実際には炭素から作られた生命体であるという事実に変わりなく、そのことから、6つの陽子を含む炭素をはじめ、私たちの体の中にあるさらに重い原素がどのように作られたのかという問題が持ち上がります。
まず最初のステップは、年を取った恒星がヘリウムを中心に溜めはじめることです。ヘリウムは、2つの水素が衝突して互いに結びついたときに生まれます。この現象は恒星の内部で起こり、私たちを温めるエネルギーの源となります。次は、ヘリウム原子同士が衝突し、陽子数4のべリリウムを作り出します。べリリウムができると、原理的には3つ目のヘリウムと衝突して炭素が作られるように思えますが、そうはなりません。なぜなら、作られたべリリウムの同位体はすぐ破壊してしまい、2つのヘリウムに戻ってしまうからです。
恒星が水素を使い果たす頃に、状況は変化します。水素が無くなってくると、恒星の中心温度がおよそ1億度となるまで、中心部が収縮していきます。そのような状況下では、原子核は互いに衝突しやすくなり、いくつかのべリリウムは、自分自身が崩壊する前にヘリウム原子核と衝突するようになります。そして、ベリリウムはヘリウムと融合し、炭素の安定な同位体が作られます。
炭素を作るこの過程は三重アルファ過程と呼ばれます。この過程に関わるヘリウム同位体の別名をアルファ粒子と呼ぶことと、この過程には3つのアルファ粒子が必要なことからそう呼ばれています。1952年にホイルは、ヘリウムとベリリウムの持つエネルギーの合計が、ほぼ正確に炭素同位体のある量子状態のエネルギーに等しくなっているはずであると予言しています。
星の内部において3つのヘリウム原子核が衝突すると、炭素ができますが、もし原子核物理の法則に特別の性質が無ければ、それは非常に起こりにくい過程になります。ヘリウムとヘリウムが衝突してベリリウムができ、炭素ができる。ベリリウムとベリリウムが衝突し、ヘリウムがはじき出されて炭素ができる。下の図は3重アルファ過程であるが、この過程はなぜか起こりやすく、この状態を三重アルファ過程と呼ばれ、高い反応性は、「共鳴」と呼ばれますが、原因は炭素の反応性とされています。これも幸運の一つです。
たとえば、原子核に働くもう一つの力である弱い相互作用がさらにずっと弱いものであったならば、宇宙初期におけるすべての水素はヘリウムに変わってしまい、その結果、普通の恒星は存在しなかったことでしょう。逆により強かった場合、超新星爆発は恒星の外層を十分に吹き飛ばせず、惑星が生命を育むのに必要な重い元素を星間空間に撒き散らすことができなくなってしまいます。もし、陽子が現在知られている値より0.2%重ければ、陽子は中性子へと崩壊してしまい、原子の安定性を損ねてしまいます。
原子のスケールでは、電気力が太陽系での重力のように振る舞います。つまり、原子の中の電子が原子核から離れてしまうか、原子核へ落ち込んでしまうでしょう。どちらの場合も、私たちが知っているような原子は存在できません。
アインシュタインはあるとき、彼の弟子であるエルンスト・シュトラウスに次のように尋ねました。「神が宇宙を創造されたとき、選択の余地はあったのだろうか?」と。16世紀、ケプラーは、神は完全なる数学的理論原理に基づいて宇宙を作ったと確信していました。ニュートンは,天で成立する法律が地球でも成り立っていることを示し、これらの法則を記述する方程式を作り上げました。ニュートンの後、特にアインシュタインの後、物理学の目的は、ケプラーが心に描いたような単純な数学的原理を発見し、それを用いて、私たちの自然界で観測しているすべての物質や力の詳細を説明できる、統一された「万物の理論」を生み出すことにありました。19世紀から20世紀初頭にかけて、マックスウエルとアインシュタインは、電気と磁場と光の理論を統一させました。1970年代、原子核における強い相互作用と弱い相互作用および電磁力のそれぞれの理論からなる素粒子の標準模型が作られました。ひも理論やM理論は、残された力である重力を取り込む試みとして提唱されました。
そして物理学の目的には、これらの力を説明する個々の理論を探求するだけでなく、夫々の力の強さや素粒子の質量、電荷といった基本的な定数を説明できる理論を追い求めることも加わりました。アインシュタインの望みは「合理的かつ完璧に決められた定数だけの存在を許す、厳しく決定された法則が必然的に存在できるように自然界はできている。」といってのけることでしたが、究極の理論は私たちの存在を許すような微調整を必要としないものでしょう。M理論が究極の理論かもしれません。
(2014-11-27 Yoshi)
