今日では、かりにある時点での宇宙の状態が判りさえすれば宇宙が時間とともにどのように発展するかを、不確定性原理の設ける限界内で教えてくれる1組の法則を科学者は見つけ出した。ところが、原初的宇宙の状態を特定することは非常に難しい。そんな訳で、一つの可能性として、カオス的境界条件を与えてその後の発展を見ようととする試みが行われた。【Yoshiのつぶやき】カオスとは、例えば橋の上から川に浮かび流れる木の葉を見つめる木の葉の状態だ。静かに流れていたものが何らかの影響で突然くるくる回りだし流れるが次の瞬間元に戻り何事もなかったように静かに川を下る。
これは宇宙が空間的に無限であるか、あるいは無限に多くの宇宙があることを暗黙裡に想定している。カオス的境界条件のもとではビッグバン直後に空間のある特定の領域が任意の与えられた配置を取る確率は他のどんな配置を取る確率とも同じである。量子力学と重力を結び付けた完全に整合的な理論はまだないが、このような統一理論が備えているべき特徴のいくつかはかなり確実に判っている。【Yoshiのつぶやき】こんな中で、大変興味あるファインマンの提案を紹介する。もちろん出典はホーキングだ。
粒子は古典理論の場合のような単一の経歴をもっているのではない。粒子は単一の経歴の代わりに時空の中であらゆる可能な経路をたどる。これらの経歴の一つ一つには1対の数が結びついていて、1つは波の大きさを表し、もう一つは波の周期における位置を表す。粒子がある点を通過する確率はその点を通過するあらゆる可能な経歴に結びついている波を加えることで得られる。しかし実際にこの総和を実行しようとすると深刻な技術上の困難にぶつかる。それを回避する唯一の方法は「虚時間」を空間における粒子の挙動を考慮することである。
古典的な一般相対的理論では、多数の異なる湾曲した時空が存在可能であり、それぞれが宇宙の異なる初期状態に対応する。わが宇宙の初期状態が判れば宇宙の全歴史を知ることになる。同じように重力の量子論では宇宙には多数の異なる量子状態が存在し得る。
実時間に基づく古典的重力論では宇宙には2通りの振舞い方があるに過ぎない。無限の時間にわたって存在してきたか、さもなければ過去のある有限な時刻に、特異点から始まったかのどちらかである。これに対し重力の量子論では第三の可能性が開かれている。この場合には、時間の方向が空間の方向と同じ性質を持つようなユークリッド的時空を用いているので時空は大きさが有限でありながら、境界あるいは線を形つくる特異点を持たないでいることが可能である。
時間と空間とは一緒になって大きさは有限ではあるがどんな境界も縁ももたないひとつの面を持っているかもしれないと(ホーキングが)考えたのは1981年のことであった。宇宙はビッグバンの1点として出発する。宇宙は、上の図で下(虚時間の増大)へ進むにつれて膨張し、大きくなる。やがて最大値に達し、虚時間が進むにつれて減少し、ビッグクランチの1点に収縮する。
宇宙は、最初の銀河を、次いで星を、そして最後に人間を生じさせた。初期宇宙における一様な密度からの小さなずれの大きさの問題である。不確定原理からは、初期宇宙が完全に一様でなかったことが必然的に導かれる。粒子の位置と速度にはいくらかの不確定さ、すなわちゆらぎがあった筈だからである。宇宙は事実、まさしく、不確定性原理の許す、最小限の非一様性から出発したに違いないと判る。宇宙はその後インフレーション・モデルと同じように急速な膨張の1時期を経過する。初期の非一様性はこの期間中に増幅されわれわれの周りに見られる諸構造の起源を説明するに十分な大きさになるだろう。物質密度が場所によって異なるような膨張宇宙では、重力が密度の高い領域の膨張を遅くし、収縮をはじめさせる。
【Yoshiのつぬやき】「ホーキング、宇宙を語る」は、1989年に出版されている。先週のヒッグス氏のノーベル賞受賞ではないが、20年を経ている。もうすぐこの章を終え、「ホーキング、宇宙と人間を語る」(2011年)に移るのでご期待乞う。
(2013-10-14Yoshi )