ここまでのまとめヒトが関与したところ
杉:100年/土壌/365日/光・水・CO2(大気)・肥料(自然まかせ)/生産性5(g/ m2/日)
米:1年/土壌/180日/光・水・CO2(大気)・肥料(窒素・リン)/生産性(8g/m2/日)
クロレラ: 1日/水中/365日/光・水・CO2(純物)・肥料(窒素・リン・他必要なもの)/生産性25(g/m2/日)
視点を変えて、木と草と微細藻の比較を、微細藻の特徴という視点から考えて見よう。
その際、留意すべきは、生産性、他との競合、特異点ではなかろうか。
[生産性]
微細藻の生産性が高いことは前にも触れた。
上の図は木の光合成の場である。(植物が取った巧みなエネルギー戦略小野高明 より)
木の葉の受光面の下層の細胞の細胞膜の内側に葉緑素があり、ここで光合成が行われる。登場者は、光・水・CO2で、光は葉の受光面から、水は葉脈を通って根から供給され、栄養塩も水と一緒に根から、
CO2は大気中からやってくる。
ところで、微細藻の場合、元々単細胞であり、上の図の細胞が培地(栄養塩の入った水)に浮遊しているようなもので、CO2だって人が大気中のCO2が大気中から自然に溶け込むより高濃度で溶け込んでおり、細胞と培地を遮るものと言ったら細胞膜だけ、細胞の容積に対する表面積だって、ご本体が直径10μmとすればこの世にこれほど効率の良い反応器は絶対にないというのがYoshiの見解である。微細藻は超高性能マイクロリアクターである。
最近注目していることに微細藻の窒素固定がある。植物の組成は、タンパク質、脂質、含水炭素と灰分から成るが、タンパク質のみが窒素を含んでいるのはご承知の通り。微細藻の場合、閉鎖領域である培地に窒素が供給されなければならないが、例えば太平洋の真ん中で窒素を供給するのは容易なことではない。先に海洋の窒素循環の話をしたが、藍藻は空気中の窒素を固定し、それ以外の微細藻は、進化の過程で窒素固定能力を放棄し、他の機能に特化する戦略を選び、窒素は自然の栄養に依存すると書いたが、このことは、それだけ生息できる場を狭めていることを意味する。そんな中で、藍藻スピルリナが何億年もの生き残ってきたことがこの事実の証明であると思う。
[他との競合]
チェックポイント:生息環境:寿命/生息場所/年間生息日数/栄養の取り方
生息場所:微細藻は池の中に生息する。従って、陸上植物の土壌を必要としない。別の言い方をすれば、日照のある広場があれば、そこに土手を作りシートを張って防水をすれば良い訳で、ハワイの様な
溶岩地帯でも構わないし、疲弊して使用できなくなった農地が利用できる。
[特異点]
微細藻は多様であり、淡水・海水を問わない。
多様性はその品質に及び、タンパク質の多いもの、脂質の多いもの、含水炭素の多いもの、特定のミネラルの多いものなど、用途によって微細藻を変えれば良い。ただ、いずれにしても必要な材料を池に入れる必要があるのは当然のことである。
[その他]
微細藻は水中に生息する微細な植物粒子である。製品化に当たり、これを水から収穫する段になると容易ではない。水中に浮遊して生息するということは、その比重が水とほぼ同じということだ。
収穫 沈降分離、加圧浮上などあるが、粒子が微細であるだけ、水と分離するのは容易ではない。実際、これまで示した各種微細藻生産設備の現場で、大変な努力がなされている。中で、一つユニークな方法は、(他人?に)収穫をお願いすることである。自然界で微細藻は、動物プランクトンや二枚貝、イワシなどの餌である。目的製品をこれらの動物にすれば何ということはない。養殖の餌のワムシの生産、ハマグリの生産などがそれである。これらの動物は微細藻よりはるかに大きいから、人が手で収穫できる。
乾燥 微細藻はその90%が水であるから、収穫した微細藻を乾燥し、製品を粉末で出荷することになるとまた大変である。エネルギー収支が合わない。詳しくは別の機会に議論しよう。
評価の結論は次回に回そう。
現時点での評価
ここまでの議論とYoshiの偏見を交え、現時点での、木と草と藻との評価をしよう。
その1:どれが一番かの議論ではなく、其々の特徴を活かし、どれをどう使うかということだろう。
その2:木はあまり人手がかからず、長期間炭酸ガスが固定できる特徴がある。山間部などを利用し伐採した後には必ず植樹し、可能な限り手入れして木を増やすことだ。
その3:草は、草食動物の飼料、ヒトのための食糧として活用すべし。
その4:植物で炭酸ガス固定を行う実質的手段は微細藻をおいて他に無い。木・草と競合しないこと、
生産性が高いことが理由だ。微細藻製品の付加価値の高い方から進める現在の手法は正しい。微細藻の来るべき利用の姿は、第一がタンパク質材料だ、機能性食品も大切だが、短期の話しだ。中短期(10年以内)は、特殊含窒素機能材だ。その先にタンパク質材料がある。バイオジーゼルはニュージランドの戦略が正しい。日本でも微細藻の農業利用を考えよう。
(2012-6-20 Yoshi)