吾輩と太陽
吾輩は太陽の子だ、突き詰めれば世の中全て太陽の恵みではあるのだが、光合成は光が無いとどうしようも無いのだから、吾輩は太陽の申し子だ。
ちょっと太陽を見詰めて見よう。
天体としての太陽は、恒星仲間のありふれた天体で、その直径は地球の109倍もあるが、その平均密度は地球のおよそ4分の1で、大部分は圧縮された気体の状態である。(太陽エネルギー:押田勇雄より)この気体は主に水素からできている。そして高温のため、原子核も電子もバラバラになって非常な高速で飛び交っており、そこで核融合が行われる。4個の水素原子核が、1個のヘリウムになる反応である。その際出る莫大なエネルギーが太陽の実体である。
ステファンボルツマンの法則と言うのが有って、全ての物体は、絶対温度の4乗に比例するエネルギーを放射しており、その値は、3.80 x 1026Wである。太陽の表面からあらゆる方向に均一に放射される。
(太陽エネルギー,押田勇雄、日本放送出版協会より抜粋)
地球は、その立体角に相当するエネルギーを受け取ることになる。その値は、338W/m2である。全地球面積当たり、これだけの値だから、莫大である。ところで本当に莫大なのか。家庭のガスコンロでどのくらい熱が出るか、計算すると、100kW/m2だが、この値は、上の338W/m2の300倍である。
つまり、目玉焼きを作る段になると、太陽エネルギーで作る目玉焼きは300倍の時間がかかる理屈だ。
太陽光発電など、世間はやかましいが太陽エネルギーなどというエネルギー資源はなく、(もっとずーっと小さい)エネルギー環境があるだけである。[高橋秀俊(1978)の定義]
再生可能エネルギーで全てを賄うなど荒唐無稽としか言いようがない。
ところで、太陽エネルギー338W/m2にはもう一つ大事な続きがある。地球から出ていくエネルギーの話しである。地球は大気に包まれているので338W/m2が全て地表に届くわけではなく、大気を温めたり、大気からの反射で、地球外に出ていくものがある。地表まで届き地表で反射するものもある。回りくどい話はやめて結論を急ごう。実は、入ってくるエネルギーと出ていくエネルギーは同じ、つまり地球の出入はバランスしているのである。ちょっとややこしいが、地球に入ってくるエネルギーと地球から出ていくエネルギーに差があれば
長い年月で地球の温度はだんだん高くなったり、低くなったりする筈だ。つまり、太古から、地球の温度が多少の高低はあってもだいたい同じということは地球のエネルギー収支がバランスしていることの証明なのだ。
昨今話題の地球温暖化とはどういうことか? 答えは次の通りである。
地球に入るエネルギーはステフアン・ボルツマンの法則によって太陽の表面の絶対温度の4乗に比例し、地球から出るエネルギーは同じく、地球の表面温度の4乗に比例して、其々決まっているので、大気組成が変わらなければ一定温度(約15℃)を保っているが、大気中の炭酸ガス濃度が高くなると大気の保温効果で大気温度があがり、地表温度を上げて、地球からの放熱を増やさなければ一定温度が保てなくなる。このため例えば地表温度が1℃上がって16℃になってバランスすることになる。
日照
上の図は世界の日照分布である。太陽光を利用する上で重要なものであるが、年間の積算日射量で、単位はキロジュール・毎平方センチメートル・毎年(kJ/cm2/y)である。定義によれば、数値は、全天日射計を水平に設置して測定されたものである。海、陸の雲の有無など、天候条件の違いが反映されたもので、地域により大きな差がでているのはご覧の通りである。経度・緯度の差により、300から800まで大きく変化しており、光合成が場所により大きく変化していることが判る。同じ緯度(15°)でも、チャド(経度15°)では800と高く、タイ(経度105°)では550と低いのは、アジア地区は雨が多いためである。ちなみに、550kJ/cm2/yは換算すると、175W/m2である。
光の単位
光の単位は色々あって混乱するので、整理しよう。
●cal/cm2=ly(ラングレー) 1ly = 10 kcal/m2 = 0.042 MJ/m2
●1cal/cm2/d = 0.48W/m2
●アインシュタイン:アインシュタインは1モル(アボガドロ数)の光子が持つエネルギーと定義されている。ただし、光の光子あたりのエネルギーはその周波数によって変わるので、アインシュタインはエネルギーそのものを表す単位ではない。
光合成効率
陸上植物、微細藻、光合成細菌、色々な生物が光合成をするのだから、どれが一番効率が良いか、そもそもどこまで効率向上が期待できるかの議論も必要だ。
光合成の全反応
CO2+H2O +光エネルギー(114 kcal) → CH2O + O2
において、1molnの CO2の還元に8光量子が必要で、可視領域での1光量子の平均エネルギー含量を50 kcalとすると、可視光を用いた場合の光合成におけるエネルギー変換効率(Ee)は次の通り。
Ee = [(CH2O 1molの含有する化学エネルギー量)/( CO2 1molを固定するに必要なPAR量)]
= 114/(50X100) = 0.285
そこで、地表での全短波放射の含む光合成有効放射(PAR)の割合を50%,植物群落によるPAR吸収率の最大値を90%とし、固定CH2Oの内で暗呼吸による損失を21%, 光呼吸による損失を29%とすると、純生産に対するEeは
Ee =100x0.5x0.90x0.285x(1-0.21-0.29) = 6.4%
となる。(村田吉男、東京農業大学)
考えても見て欲しい吸収した光を使って懸命にデンプンを作るが、光の利用率は高々6%である。一年がかりで貯めたバイオマスを気の遠くなるような時間をかけて石油を作る。太陽光で発電するのは一瞬の話しだ。石油は蓄電池、バイオマスは発電機。電力会社で、発電機と蓄電池を比較するなどナンセンスをいつも話したものだ。
(2012-4-18 Yoshi)