イワシは何を食べているか?

1990年にカルフォルニア州ラフォヤに、スクリップス海洋研究所を訪ねた。その後も何度か訪れているが、いつも期待は、大きな縦型シリンダーの中を、ぐるぐる回りながら泳いでいるイワシの大群である。10尾に1尾ぐらいの割合で大きく鰓を開いているのは餌を食べているのだろう。生きた餌の確保は大変だろうと思っていた。その後5年が経って、志布志でシラス漁を生業としている知人から、最近シラスが減少して今後もこの仕事を続けられるか気がかりだと相談を持ちかけられた。それ以来イワシの生態を調べることは、大変気になるテーマとなってきた。

2003年に出た文献(ESTIMATION OF THE EFFECTS OF ENVIRONMENTAL VARIATIONS ON THE EGGS AND LAVAE OF THE NORTHERN ANCHOVY, REUBEN LASKER, National Marine Fisheries Service Southwest Fisheries Center La Jolla 2003)が面白い情報を与えてくれた。

ラスカー等は、アメリカ西海岸でカタクチイワシ(アンチョビ)が何を食べているか発見し、さらに、アンチョビの周年採卵、周年飼育に成功したと言うのである。

ラフォヤで泳いでいたイワシの話しもこれで納得がいく。この餌が実は渦鞭毛藻なのである。


Yoshiのブログ-ギムノ

大きさが50μmもある。文献のタイトルを見ていただきたい。アンチョビの卵と稚魚に対する環境影響とある。最終的には成魚のアンチョビに関心がある訳だが、卵が減れば、稚魚が減り、結果として成魚が減る理屈であるが、環境効果は卵・稚魚・成魚で全く違うことは、当たり前のことだが、中々気がつかない視点だと思う。卵は、海に漂うだけ、成魚はどこへでも泳いで行って餌がとれるが、途中の稚魚に何ができるかは一番大切なことかもしれない。アメリカの学者は、食物連鎖の中で、微細藻は日周鉛直移動(昼夜で垂直移動すること)に着目し微細藻・稚魚の鉛直方向の分布を測定している。

稚魚の数の多少が大切と言ったが、稚魚と成魚との大きな違いは、口の大きさである。稚魚は口に入るものしか食べられない。小さい時には、小さい微細藻しか食べられないから口に合ったサイズの餌を食べるが、口が大きくなっても小さいものだけ食べていると今度は効率が悪くなる。何個も食べなくてはいけない。

微細藻のサイズと数のデータを見つけた(海と地球環境)。湧昇域内外で1立方センチ当たり、何個微細藻が居るかとの データである。

湧昇域外

2μm/3,162/比体積3.8(2μmサイズの微細藻が3,162個居て体積3.8)

4μm/500/比体積4.8

8μm/100/比体積7.8

16μm/50/比体積31.0

32μm/5/比体積24.8

64μm/0.7/比体積27.8(合計100)

湧昇域内

2μm/50,119/比体積60.7

4μm/6,309/比体積61.1

8μm/3,162/比体積245.1

16μm/316/比体積195.9

32μm/63/比体積 312.5

64μm/40/比体積 1,587

128μm/7.8/比体積 2476(合計4,940)

湧昇域外では1立法センチの海水中に

2μmサイズの微細藻は3,162個いて比体積3.8である。

4μmサイズの微細藻は500個と少ないが比体積4.8で体積は大きい。

16μm/50/比体積31.0

32μm/5/比体積24.8

64μm/0.7/比体積27.8(合計100)

湧昇域内

2μmサイズの微細藻は50,119個も居る/比体積60.7

4μmサイズの微細藻は6,309個居るが比体積61.1ほぼ同じ

8μm/3,162/比体積245.1

16μm/316/比体積195.9

32μm/63/比体積 312.5

64μm/40/比体積 1,587

128μm/7.8/比体積 2476(合計4,940)結構大きい微細藻も居る。

微細藻の総量は湧昇域外の50倍もある。

湧昇域内で話しをすれば2μmサイズの微細藻は50,119個もあり、容積も変らない。

稚魚の餌と考えれば、数が重要である。渦鞭毛藻など、ピコプランクトンの重要性を示唆するものだと思う。

海中の微小生物の生き残り戦略

ここまで来て気付いた。海中の微小生物の生き残り戦略は次の様だったようだ。;

1. 沈まない工夫をしよう。

卵:イワシの卵は小さくて海面に浮く。気がつけば大きな魚も小さな魚も大きさは同じ

浮き袋:ホンダワラ、アオコは浮き袋を持ち海面に出てくる。

動く作戦:渦鞭毛藻は鞭毛を持ち光の方向へ動く。

復活作戦:ある種微細藻は沈んでも死なず、海底で休眠し、湧昇流に乗り復活する

2. 食べられない工夫をしよう。:

毒を持つもの:赤潮の原因である渦鞭毛藻や、アオコは有毒で食べられない。生き残る。

3. 光合成効率を最大にするもの。;

小さいことは断然有利:比表面積が大きく、栄養塩を沢山摂取する。∴生産量 大。

窒素固定する微細藻:窒素肥料がなくても平気。自分で作る。

本論のイワシ稚魚の餌の話に戻ると、上の写真の渦鞭毛藻はギムノジウム・プレンデンス

であるが、7mmぐらいのイワシ稚魚は、20μmぐらいの微細藻は小さすぎて食べにくく、60-80μmぐらいが食べごろらしい、さらに大きくなると、ワムシを食べる。



Yoshiのブログ-ワムシ

ワムシの大きさは150μm程度であるが、実験室で育てても、いつまでも微細藻だけで育てても生長は遅く、渦鞭毛藻からワムシ、さらにアルテミアと大きな餌に変えていく必要がある。

先に述べた食物連鎖における渦鞭毛藻の位置づけであるが、結論として、TPOによりどの微細藻も重要である。渦鞭毛藻については、赤潮原因になるなど、悪い点のみ強調されてきた嫌いがあるが、食物連鎖の一次生産者として大変重要なものであるとの理解に変ってきている。

(2012-1-1 Yoshi)