ヘドロって何だ?
宍道湖で起きたことだが、長期災害が最も重大だと思う。当然のことのように、宍道湖の75%がヘドロに覆われ、中海はつい最近(1953年前)まで、海底全面が赤貝で覆われていたところから赤貝が消えて平然としている。先に、微細藻はマイクロバイオリアクターであると書いたが、湖水はマクロバイオリアクターである。かって、光と空気中の炭酸ガスから10万トンもの赤貝を生産していた巨大高性能光合成反応器を我々は大変下手に稼働しているとしか吾輩には思えない。そうそう忘れてはいけない。光合成反応は炭酸ガスを還元して水を作る反応でもある。
登場人物(?)は CO2 , H2O , (CH2O), O2 でここに、肥料(N,P)と光が加わり、珪藻の場合には更にケイ素(Si)が加わる。
CO2 + H2O ⇒ (CH2O) + O2 (N,P,Si 光)
でも、CO2 も H2O も ふんだんにあるし、 (CH2O) や O2は生産される側だから、実際の登場人物はN,P,Si 光かも知れない。
宍道湖を例にとれば、簡単のために窒素(N)に着目して、
水中に賦存する全窒素量:183トン(湖水の水質汚染:日本の公害第10巻より計算)
流入する全窒素量:1,570トン/年(島根県HPより)
ヘドロとして賦存する全窒素:990トン(0.5m厚さのヘドロ中に25ppmが賦存すると仮定)
(東京大学海洋研究所 生元素動態分野 資料より抜粋)
ヘドロは植物プランクトンの死骸である。(SAI INF3,SAJ INF154, SAJ INF165)
a.(長良川河口堰の例では)河口堰上流に堆積しているヘドロ中に上流に生息していた付着珪藻の死骸も多い。(SAJ INF141)
b.宍道湖の岩の上の白いものを顕微鏡でしらべたら珪藻の死骸だった。(SAJ INF165)
c.富栄養化によってプランクトンが増え、プランクトンの死骸が底へ沈んで湖底に有機物がたくさん溜まる。それを分解するのにバクテリアがどんどん酸素を使う。ところが夏は水が上下に混じらないので水面からの酸素の補給が底まで届かず湖底が酸欠状態になる。(地球環境の中の琵琶湖,吉良竜夫)
繰り返しになるが、ヘドロは微細藻の死骸である。ここでもう一度役者にご登場いただこう。N,P,Si、光である。
Yoshiの推論
① 1928年から1964年の36年間に大量のヘドロが堆積した。この間の変化は、1955年に、し尿の河川放流が禁止されたとしても、大量のN・Pの放出だろう。
② 1973年の干ばつでは、宍道湖、中海に海水が流入し、淡水産の藍藻は消え、海産珪藻が増えた。
③ 上の計算が正しいとして、宍道湖に入るN(1,570トン/年)のうち、約2%が堆積し、990トンとなった計算である。[990トン= 36年x1,570x 0.018]
④ 湖で微細藻が生産される。世界各地のブルームのごとく、微細藻が食物連鎖の一次生産者として働き、湖水で全て消費されれば、万々歳である。過去何万年にわたって順調に推移してきた営みが破綻したのは、生産された微細藻が消費されなかったことによる。理由として考えられることは、魚介類の餌としてふさわしくなかったということである。
⑤ 魚介類の餌として相応しい微細藻は珪藻である。ハマグリの餌など、単一種の海産珪藻で全てを賄っている。従来自然界で、河川から、珪藻に相応しい比率で、供給された、N・P・Siにヒトユ由来の
N・Pのみが追加され、珪藻から藍藻に変り、魚が食べられず腐って湖底に沈んでヘドロになったと考えるのが自然である。
⑥ 以上のように推定し、各地で発表していたら、日本以外でも同じような報告がなされているのを見つけた。
a. その一つは中国東シナ海である。
長江の水質は全域で冨栄養化の原因であるN・Pが増加していた。魚の餌となる珪藻はなく、珪素成分は減少していた。流域の重慶や上海などの大都会からN・Pを含む生活排水が大量に流入する一方、砂に含まれる珪素はダムで堰き止められている。東シナ海でも一部でN・Pが多く珪藻酸の少ない海域あり魚が激減している。(2002-5-6日経)吾輩はエチゼングラゲの異常繁殖も同じ原因であると考えている。
b. もう一つは、ライン川とミシシッピー川である(Global Population and the Nitrogen Cycle by vaclay Smil,1997より抜粋)。
畑から逃げ出した化学肥料が、池、湖、海洋の冨栄養化をもたらしている。その結果、微細藻が育ち易くなり、その結果起きる腐敗分解が周囲から酸素を奪い魚と甲殻類を減少させる。この現象が、ライン川、ミシシッピ川に広がり、さらにニューヨーク、サンフランシスコ、バルト海、グレートバリアリーフに及んでいる。
話を宍道湖に戻そう。
湖水で起きることは、地球上で海で起きることの10倍の速度で進行すると言うが、既に世界の各地の海でヒト由来の汚染が広がっているのは驚きである。宍道湖での計算では、水中に賦存する窒素とヘドロとして賦存する窒素の合計量を超える窒素が毎年宍道湖に流入していることになる。
化学肥料の過多使用が原因であるが、これを湖水の微細藻に種の変遷から見ると、ダムの建設で砂(Si)の流入が減少したことがある。さらに、注意しべきは、近年水田への湛水が、田植え時期に限定されるため、田植え時期、水田に残存しているN・Pが一気に湖水に注入し汚染を拡大していることによる。湖水、水田を含めマクロバイリアクターの有効利用が期待される。
(2011-11-27 Yoshi)
