雨を降らせそうな雲が空を覆っている
吹く風は涼しげに適度な湿り気を含み肌を潤し気持ちがいい
新たにしたオイル、フィルター、タイヤそれらの具合を確かめようとしてバイクを出す
目指すあてはない
丁寧にクラッチを繋ぐ、軽いタッチでギアの噛み合う音が周囲に響く
オイルをGenuine oilから汎用品に変えたせいか特有の匂いはしない…あの香りは独特で好きだった…
タイヤは未だ溝のエッジが立っているのでアスファルトの路面をシッカリと掴んでいる
こうなると高速走行も試したくなり身近のICにバイクを滑り込ませる
ほんの10分足らずの走りで次のICで降りる
カウル装着の有効性を見極めるにはこれだけで充分に事足りた
高速道路を出ると田園風景が広がり、田んぼの上を通り過ぎ、流れくる風が日差しに照らされて火照った体を冷ましてくれるので気持ちがいい
道路の流れに応じた各ギアでエンジンの回転を2000rpmにキープして、そこから流れに合わせアクセルを捻りギアをUPして、ガソリンをシリンダーに送り込む、その都度、もたつき、ぎこちなくダバダバと車体を押しやる様から生じる振動が身体を震わせ、その音は歯切れ良く、心地良く全身に沁み渡る…
それを繰り返し、楽しんで走っていると、いつの間にか予定していた場所よりも遠くに来てしまった…
妻に帰りの時間を伝えてあっただけに、慌てて引き返すことに…
帰りの道すがら…
自転車に母親が子供を前籠に座らせ、その前を父親が自転車で走る姿を見かけた
その場所は以前に住んでいた地に近かったせいか昔の自分と重なり自然と昔の記憶が蘇ってきた
それは苦い思い出…
いま思えば自分の情けなさを痛感させられる出来事だった…
ある年の6月、その日は暑かった…
紳士服店に夏用のスーツを新調して、出来上がったと連絡を貰ったのだが、いろんな事情が重なり直ぐには行けない状況だった
しかしながら、そのスーツは今にでも必要な事態は変わりなく、致し方なく、その引き取りを身重の妻に頼んだのだった…
その店は駅から遠く本来ならば車で行ってもいいくらいの場所にあった
その時は自分の事が精一杯で気配りに欠けていた、妻にひと言「遠いからタクシーを使って」とか「無理なら行かなくてもいいから」と何故言えなかったのか、あの暑さの中、遠い距離を荷物を抱え歩いたのかと、想像すると今でも胸が辛く苦しくなる
その時の妻は小言の一つも言わず、行ってくれていた姿が深く心に残っている
これがあったから全てではないが、私から妻への文句は今は一言も無い
もちろん約束もシッカリと厳守…
それでは、また…