私は「井戸」的異世界とリンクしてる「羊男」や「牛河」は異形の者として認識してるんだけど

(突撃隊もある意味、異形にカテゴライズされるんだよね、現代日本では)

今回リンクしてそうなヒトは、異形ではなかったなぁ。と思ったんだけど。

アウトサイダーな印が、見つからなかったっていうか。


デビュー二作目からリアルタイムに読んでいるハルキストとしては、面白かった。

1Q84でも、その片鱗はあったのだけれど、

描く人間はどことなく以前の作品の面影を移しているけれども。

今までと方向性が確実に変わってきているなと思う。

絵の具の色って全部混ぜると真っ黒になるけど

光の色は全部混ぜると白くなっちゃう。

絵の具を使うのをやめて、光を使って、みたいな方向性の違いを感じた。


これまでの主人公が対峙する「システム」の認識は

今までは強大でとらえどころのないブラックボックスであった。

(それも一枚板でできた真っ黒でツルツルの箱のようなそれ)


今回の「システム」は多くの部品から成り立つレゴブロックのお城のようなもので構成され、

なおかつその一つ一つの部品は人間で、主人公と同じように

個性と家族と性癖と傷を持ち、さらに背後にそれぞれが家族や宗教的組織や大会社など

異なる「象徴としてのシステム」を背負っている。

そのことを主人公は許容せずとも、受容することに成功している。


主人公の持っている何がしかの欠損、喪失感というところを乗り越えた上で

周囲と心の接触をしていく、

自分と相手が関わっていく上で突き放していた相手の気持ちを

拾い上げてそれを尊重するような前向きな感情が感じられるのは1Q84以降。

井戸に降りなくても、未来が変えられる。

そういう村上春樹の作品を支持する側の人間であることを嬉しく思う。