捨てる、思い切る、で人生が楽になる(斎藤茂太)新講社

 

斎藤茂太は既に物故しているが、著名な作家で精神科医。歌人・斎藤茂吉の長男、作家・北杜夫の兄である。

私は、斎藤茂太に限らず、保坂隆とか高橋幸枝など精神科医が書いた本が好きである。精神科医というのは、人生の苦悩に悩む人を救うのが仕事であるから、その仕事を通じて人生全般の生き方といったものに優れているからである。

 

この著書もその一つである。私の心に響いた言葉を以下に掲げる。

 

・強欲は迷いの元。よいのは少欲知足。簡単に言えば、欲張りになるな、という意味だろう。欲少なく生きていれば、迷わなくてすむ。

 

・過去への悔恨や未練は、現状への不満の裏返しである場合が少なくない。今が楽しくないという不満がある限り、昔の嫌なことはずっとつきまとってくる。昔のことより現状をどうするか、それが幸福を招く近道である。今にまあまあ満足といった心境になれば、捨てたい過去を捨てたということのように思う。

 

・80パーセント主義であることが大切だ。自分の要求することに相手がまあまあ応えてくれたら、それで十分と思ってみよう。それ以上は望まない。これが人付き合いのコツとなる。

 

・部下の手柄になりそうな仕事には、その仕上げ段階でしゃしゃり出て、自分が大きく関与した仕事であるかのようなポジション取りをする、そういう行動パターンがよくある。人の上に立つ者は、まず自分を捨てた方がよい。

 

・人生設計を考える時は、過度な甘い期待は捨ててかかるほうがよい。結婚生活という現実の日々を考えた時には、お互いに相手への適度な期待を抱く程度にしておこう。そうやっておいて、少しずつレベルアップしていけばいいではないか。それが結婚生活の楽しみ方のように思う。

 

・自分らしい生き方を探すためにも、捨てる力が役に立つ。自分にできないことを捨てる。諦めるしかないものを捨てる。自分には似合わないものを捨てる。無理をしていたことを捨てる。自分らしく生きるのが人にとっては、もっとも心安らぐことではないか。地に足がついた、穏やかな人生の中にこそ自分らしさが生かされるように思う。

 

・思いつくまま辛いこと、悩ましいこと、頭にきたことを書き連ねるだけでも、随分心が整理できる。

 

・自分のことは自分でやる、人には甘えない、その心意気が老いてなお若々しくしていられる秘訣だ。自分でできることは自分でやる、この気持ちは死ぬまで捨ててはならない。

 

・軽い鬱状態の時は、散歩程度の軽いものでよいから体を動かすことで頭を空っぽにし、よけいなことを考えないことだ。

 

・得ることの幸せよりも、もう身についてしまった不要なものを捨てることで実現する幸せのほうが大きいように思う。何かを捨てることによって、思わぬものが入ってくることも人生にはよくある。そこからまた、新しい人生が動き出すのではないか。