……どうにも眠れない。


 昼間、笹塚と変な話をしていたからだろうか。
 いつまで待っても襲ってこない眠気に苛立ちつつ、久弥はじっと天井の木目を眺めていた。


 ──それにしても、この後味の悪さは何だ。


 子供の頃に流行った怪談話とさほど差はないと云うのに、昼間のことが何故これ程気にかかるのだろう。
 眠ったが最後、戻り橋のある辺りから、何かひんやりとしたものが己に向かって流れてくる気がして、目を閉じるのが厭なのだ。


 やはり今夜は研究室に泊まればよかった。
 そこまで思って久弥は、闇の中ひっそりと微笑った。


 莫迦〃〃しい──たかが言い伝えが一つ二つあるだけじゃないか。


 いい年をして、そんなことに惑わされている自分が可笑しかった。

 笹塚などに話したら、また揶揄われてしまうだろう。


 大体あれは、この集落でも信じているのは年寄りくらいのものなのだ。
 心の中で呟いていたら、ほんの少し気分が軽くなった。

 そうだ、明日は初子を見舞ってやろう。
 やんわりと笑んで、久弥は瞼を閉じた。


 ──しかしその晩、久弥は血も凍るほどの悪夢で飛び起きた。
 ──そしてそれがどんな内容だったのかは、全く覚えていなかった。





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