
遼一さんがマスコミのターゲットにされてしまった.....
私は重たい気持ちを抱えたまま、編集部に着いた。
マドカ「おはようございます」
編集長「御崎、おはよう。廣瀬先生は大丈夫なのか。えらいことになってるぞ」
マドカ「........大丈夫じゃないです」
ぎゅっと拳を握りしめ、うつむいて答える。
編集長「そうだよな.....お前、今までに見た事がないくらい怒ってるな」
マドカ「はい。怒ってます」
編集長「あー気持ちはわかるが、これから仕事だからな。大丈夫か」
マドカ「はい。お仕事はしっかりやりますので大丈夫です」。ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません」
編集長「よし、いい覇気だ。まあ、さっさと終わらせて廣瀬先生の様子を伺って来いよ」
マドカ「はい!ありがとうございます」
席に着くと、パソコンの電源をつける。
(仕事と私情は別だもの。ちゃんとやってからじゃないと、それこそ遼一さんに怒られちゃう。よし、さっさと片付けちゃおう)
資料を広げ、私は仕事に取りかかった。
なんとか仕事を終らせて帰ろうとしていると、携帯電話のバイブ音が聞こえた。
遼一さんからかなと思って確認してみると、知らない番号からだった。
(仕事の電話かな.....?)
マドカ「はい、御崎です」
???「あの、御崎さんの携帯電話でよろしいですか?」
マドカ『はい、あの........?」
理香子「秀談社の黒神です」
マドカ「あ、理香子さん!どうなさったんですか?」
理香子『ちょっと、遼一のことで話があるのだけど.....少しお話しできないかしら』
マドカ「あっ、はい!もし大丈夫でしたら、今からはいかがですか?」
理香子『ありがとう。じゃあ待ち合わせ場所は.....』
(多分、理香子さんが話したい事っていうのは今回の遼一さんのことよね。どんな話だろう?)
______
待ち合わせ場所に着くと、すでに理香子さんは来ていた。
マドカ「すみません、お待たせしてしまって」
理香子「いえ、こちらこそ呼び出してごめんなさい」
頼んだコーヒーが運ばれて来てから、理香子さんは青ざめたような表情で話を切り出した。
理香子「今回のことなのだけれど....あなたには、ちゃんと話しておいた方がいいと思って」
マドカ「......どんなお話ですか」
理香子「次作の本の主題は『障がい者同士の恋』。遼一がその主旨を決めたきっかけは.....私の弟なの」
マドカ「え......」
理香子「三年前、弟が事故で失明したのよ。その時、遼一は弟を主人公にして話を書くって約束したらしいの」
(そうだったんだ.....)
少しショックだった。
遼一さんが『どうしても描きたいもの』の中心にいたのが、理香子さんの弟さんだったという事。
ヤキモチもあるけど、三年前の遼一さんに関わっていない事がさびしい。
その頃会ってないんだから、しかたないのはわかっているのだけど。
理香子「.......遼一がこの話を書くと決めたのは、あなたのことがきっかけだったんですって」
(え.....)
マドカ「うそ.....」
理香子「嘘じゃないわ」
理香子さんは困ったように笑って言う。
理香子「遼一はあなたに救われたんですって。だから、その喜びを伝えられるような話を書きたいと言っていたわ」
マドカ「私、遼一さんを救うとか.....そんな大それた事.....」
理香子「たとえばね、あなたがキレイなものだったり、感動したことだったり......そういうのを一番に報告しようとしてくれるのが彼にとってはたまらないくらい嬉しいことなんですって」
マドカ「そんなこと....だって、私が勝手に」
理香子「ふふっ。私もね、あなたみたいに可愛い女性になれたらいいなって思うわ。多分、遼一はあなたにこんなこと言わないでしょうから。私が言った事は秘密にしておいてもらえるかしら」
そう言って、理香子さんは頬笑んだ。
______
理香子さんと別れてから携帯を見ると、皐月さんからの着信があった。
(皐月さんから?もしかして遼一さんに何かあったのかな)
すぐ皐月さんにリダイヤルすると、3コールで皐月さんが出てくれる。
皐月 『マドカさん、すみません。ご連絡いただいてしまって』
マドカ「いえ.....もしかして、遼一さんに何かあったんですか?」
皐月 『いえ、遼一の居場所をお伝えしようと思いまして。今、六本木ホテルのペントハウスに匿っていますので』
マドカ「わざわざ知らせていただいてありがとうございます!わかりました。じゃあ、今から行きますね」
皐月 『.......マドカさん』
マドカ「はい?」
皐月 『遼一はあの通りの性格ですから、私達には弱みを見せません。ですので.......宜しくお願いします。アイツはあなたには本音を言うでしょうから』
(皐月さん.....)
マドカ「もし遼一さんにできることがあるなら.....出し惜しみなく、全部やりたいって思ってます」
皐月 『はい。頼りにしてますね』
マドカ「あ、あの.....とは言ってもそんな期待されると......」
皐月 『大丈夫です。あなたはあなたのままでいいんですよ、マドカさん』
マドカ「.......はい!」
皐月さんとの通話を切ると、私は六本木ホテルに急いだ。
_______
チャイムを鳴らすと、遼一さんが中に通してくれた。
大きく切り取られた窓の外には、美しい夜景が広がっている。
こんな状況に置かれてるにも関わらず、遼一さんは落ち着いている様子だった。
遼一 「お前、無理してないのか」
マドカ「え?」
遼一 「病み上がりでしょうが。この前倒れたのを忘れたのか?」
(あっ.....なんかこの騒動のせいで忘れてたかも)
マドカ「あの、元気なので、気にしないで下さい」
遼一 「いや、いくらなんでも気にするだろ」
マドカ「無理はしないので大丈夫です」
今朝の電話を思い出す。
遼一 『なぁ、マドカ。オレは何の為に書いてるんだろうな』
(あの言葉.....きっと、本音だった)
私は顔を上げて、遼一さんを見る。
彼は困ったように笑って、私に言う。
遼一 「........そんな心配そうな顔するなよ。自分が情けなくなるだろうが」
マドカ「そんなこと言われたって、この状況で心配しないわけないじゃないですか」
遼一 「まぁねえ。大丈夫だから、今日は帰りなさい」
マドカ「.........え?」
(こんな状況で『帰りなさい』?やっぱり、いつもの遼一さんじゃない気がする)
マドカ「遼一さんらしくないです」
遼一 「まぁ、そりゃそうだな。俺も俺らしくねーって思ってるさ」
マドカ「そんな人を置いて帰れません」
遼一 「.........俺、今日はそんなに元気がないから、一緒にいてもつまらないと思うぞ?」
マドカ「そんなのいいです。一緒にいたいだけですから」
私達はソファに並んで座る。
遼一さんはしばらく黙っていたけれど、やがて私の手を握り締めてからこう言った。
遼一 「日頃の行いが悪いと、こうなるんだなぁ」
マドカ「.....また、そんなこと言って」
遼一さんは一瞬ためらってから、私を見て頬笑む。
遼一 「悪い。お前も凹むよな。付き合ってるやつのあんな噂立てられたら」
マドカ「いえ....そういえば、そうですよね。そこは全然気になりませんでした」
遼一 「え、そんなもんか?」
マドカ「遼一さんって昔はサイテーでしたけど.....」
遼一 「ハッキリ言うねぇ」
マドカ「だって!私、会ったばかりの頃、遼一さんすっごく意地悪でしたよ」
遼一 「あー、そんなこともあったねぇ」
マドカ「でも、今はすごく優しいし、そんなことするわけないって思って」
遼一 「そうしないと、お前泣くだろ。俺だってお前のお守りは大変なのよ」
マドカ「え、そういう問題ですか」
遼一 「ははっ!まぁ、そういうことにしておけって」
遼一さんは私の肩にこつんと頭を載せる。
私は彼の指をやさしく撫でる。
マドカ「遼一さん、嫌じゃなかったら.....教えてください」
遼一 「なんだ?」
マドカ「遼一さんは、次の話にどんな想いを込めたいですか?」
遼一 「.......え?」
マドカ「誰かに何かを伝えたくて本を書くんでしょう?」
遼一さんは、急に真面目な表情になる。
遼一 「今はよく、わからない。書きたくても、今はうまく言葉が出てこないし.....正直、今は見たくないものも多いしねぇ」
私は手で遼一さんに目隠しをする。
マドカ「これでほら、何も見えません」
遼一さんが笑って、目隠ししていた私の手を取る。
遼一 「これじゃ、マドカまで見えなくなるだろ」
マドカ「あ、そうですね」
遼一 「.......バカだなぁ、マドカは」
遼一さんが私を抱きしめる。(スチル)
遼一 「あのな」
マドカ「.......はい」
遼一 「キッカケは、アイツのことだったけど.....きっと今も、突発的に起こった何かで、しんどい想いをしてるヤツがいるワケよ。オレはそういうヤツに向けて話を書きたい。たくさんの人間に向けてじゃなくてもいい。オレは.....本当に物語を必要としてるヤツに届けば、それでいい」
(遼一さん....)
遼一 「だからさ、お前がもし俺よりイイヤツ見つけたら、そっちに行ってもいいんだぜ?」
マドカ「.......え」
遼一 「ベストセラー作家じゃなくなれば、お前に苦労させるかもしれんしな」
(遼一さん....)
マドカ「遼一さんの......バカ」
遼一 「.......オイ、お前弱ってる人間に対してひどくないか」
マドカ「遼一さんほうがひどいです。私がそんな風に遼一さんの事を見てるとでも思ってるんですか」
遼一 「金の切れ目は縁の切れ目だぜ?特に色恋沙汰は」
マドカ「私は.....どんな状況になろうとも、遼一さんと一緒がいいです」
俯く私の顔をのぞきこむと、私の額をピンと指ではじく。
マドカ「イタッ!?」
遼一 「ははっ、間抜け面だな」
マドカ「さっ......」
遼一 「サイテー、か?」
(くっ.....先に言われちゃったし!なんかすごく悔しいし!)
遼一 「お前、本当に思考回路が単純だよな」
マドカ「シンプルって言って下さい」
遼一 「ハイハイ、シンプル、シンプル」
マドカ「二回言わなくていいですっ。間抜けに聞こえるじゃないですか!」
遼一 「ハハッ!........あー、もう」
遼一さんがごろんと私の膝の上に頭をのせる。
マドカ「........遼一さん?」
遼一 「あーあ、この状況で笑えるとはなー。お雨、マジですげーわ」
私の膝の上で無防備に寝転んでいる遼一さん。
(なんか、ものすごく可愛いんですけど....)
遼一 「なんかテンション戻って来た。あー、嫌だねぇ。こんなんでテンション上がるなんて」
マドカ「こんなんとか、言わないで下さい。こんなんとか」
遼一 「お前の単純菌がうつったんじゃねーのか....あー嫌だねぇ」←テレ顔
マドカ「照れてるんですか、遼一さん」
遼一さんは突然起きあがると、ニッと意地悪く笑って、私の体をソファに押し付ける。
マドカ「ちょっ.....遼一さん!?」
遼一 「お前、ずっと俺のそばにいろ」
(......え)
遼一さんの言葉に意味が一瞬わからず、私は目を見開く。
マドカ「あの.....」
遼一さんは、私の髪の毛を丁寧にかきあげる。
そうして、私にそっとやさしくキスをしてくれる。
唇から、遼一さんの気持ちが伝わって来て......彼が愛おしくて仕方なくなって。
私は彼をギュッと抱きしめた。
(7話へつづく)