静かで、月のきれいな夜だった。

この頃は、もう、桜も散り、夜の冷え込みもなくなっていた。

小高い丘に何軒か家が、並んで建っている。

きれいな洋風の家。

月明かりが家の屋根や壁を明るく照らしていて、

ひと際、白い壁の2階建ての家が見える。

その家の2階の中央に窓があり、白いカーテンが揺れている。

部屋の奥の方で、女の子がベットに寝ている。

窓の外側に、ベランダのように小さく軒が張り出していて、

植木鉢が何個か置いてあった。

軒も白い。その上を、何かが歩いてきた。

それが、窓の前で止まった。

「コツコツ」

窓をたたく音がする。

「コツコツ」

時折、猫の鳴き声もする。

女の子は、窓を見た。

月明かりに照らされて、身体が輝いている。

猫だ。真っ白な猫。

女の子は、きっと遊びに来てくれたんだと思い、

ベットから降りて、窓を少し開けた。

見ると、白い猫がこちらを見て微笑んでいる?!。

「あなたは、だぁれ?」

女の子は、尋ねた。

「あなたは、だぁれ?」

猫も尋ねた。

「私は、由香です。」

女の子は猫が話すことに驚きもせず、答えた。

「猫ちゃんは、どこから来たの?」不思議そうに言った。

「私は、隣町に住んでいます。由香ちゃん、これから、一緒に遊びませんか?」

由香は、とてもうれしく思ったが、ママに言われたことを思い出していた。

「ママがね、夜は遊んじゃいけないって。遊ぶと怒られるの。」

と、困った顔で言った。白い猫は、

「大丈夫。だったら、静かに遊びましょう・・・。

そうだ、ママには、見つからないように屋根の上で。」

目が月明かりで光って見えた。猫の目は、赤かった。

「大丈夫かなぁ。」と小さく答えた。

不安そうに猫を見つめる。

「大丈夫だよ、大丈夫。行こう、行こう。」うなずいて言った。

少し考えていた様子だったが、やがて、窓を大きく開いた。

それほど広くはない突き出た軒の部分には、植木鉢がいくつか置いてあるが、

隣の屋根まで、通路のようになっている。隣の家は平屋で、少し隙間があるものの、

端と屋根は、繋がっている。軒の幅は狭いが、子供の通れるくらいはあった。

白い猫は、隣の屋根へ向かって歩き出した。尻尾が長い。

由香は、恐る恐る窓から軒へ四つんばいになって、乗っかった。

ゆっくりと這い出す。

途中、植木鉢の前で止まると、白い猫も止まった。

振り返っては、こちらを見て、尻尾を振っている。

由香が植木鉢を跨ぐと、また、猫は歩き出す。

白い猫が端に着いた。

そのまま、軽くジャンプして隣の屋根へ乗った。

しばらくして、由香も端に着くと、立ち上がって下を見た。

同じように、飛ぼうとしたが勇気が出ない。

不安そうに猫を見た。

「おまじないをしてあげるから、飛んでごらん」

白い猫は、向きを変えると由香に言った。

「怖いよ。・・・落ちない?」

「大丈夫。ほら、目をつぶって飛んで。」

白い猫は、尻尾の先をクルクルと回し始めた。

由香は、一度、しゃがみ込んでから、目をつぶり、跳ねた。

ふわりという感じで、ゆっくりと隣の屋根に降りた。

「うわぁ」

由香は不思議な感覚に驚いて、声を上げていた。