学生時代のタモリさん

 

 こんなタイトルをつけたが、私はタモリさんの友人ではない。だいたいタモリさんと私ではけっこうな年齢差がある。実際のところを言えば、学生だったタモリさんを一度だけ見かけたことがあるということなのだ。しかし、その一回が非常に印象的なものだった。

 今でもあるのかどうか知らないが、夏休みの恒例行事として『大学対抗バンド合戦』というものがあった。大学のアマチュアバンドが演奏旅行で全国をまわり、それぞれの街の市民ホールや文化会館でコンサートをやるのである。通常、一回のイベントでは、ジャズやハワイアンのようにジャンルの異なる三つの大学バンドが出演する。

 その夏、私が住んでいた地方都市でも、この大学対抗バンド合戦が開催された。七月の終わり、夏休みにはいって最初の日曜日だったと思う。私は高校一年生だった。ギターの友人でもあった同級生のK君と一緒に行ってみようということになった。場所は市民会館ホールである。

 出演したのは三つのグループだったが、二つの大学バンドのことはまったく覚えていない。一つのバンドだけが異常なほど目立っていたからだろう。その特異なバンドというのが早稲田大学モダンジャズ研究会のものだった。田舎なので普段ジャズを聴く機会は少なかったが、演奏は聞き慣れない耳にも素晴らしかった。しかし、それより素晴らしかったのは司会である。ともかく面白いのである。

 その司会者は、刈り上げ頭に黒縁眼鏡というガリ勉系の風貌であったが、笑顔になると顔がグニャリと曲がったのではないかと思うほど表情が変わる。口を開くといろんな音程で声を出す。演奏の前に曲紹介をするのだが、トークのセンスが抜群、英語で曲名やプレーヤー名を言うときにもひねりを入れ、時々は聴衆の煙を巻くような哲学用語が混じる。

 私もK君も大笑い。「笑いすぎて椅子から転げ落ちる」という表現があるが、実際に私は一時的な呼吸困難のために椅子から落ちそうになった。他の観客も同じで、みんなゲラゲラ笑っている。それは、今まで聴いたこともない、通常のテレビやラジオではけっして接することができないようなトークだった。

 特にユニークだったのが、メンバー紹介。バンドが曲を演奏している間、それぞれ自分のパートを終えたばかりのメンバーの学部や学年、プロフィールなどを紹介するのだが、楽器の音色、その人の風貌、その日の服装などをうまく織り交ぜるので、可笑しくて可笑しくて笑うに笑った。