面接の結果2つの会社を掛け持ちするパートタイマ―介護職員になり、朝から14時までははぴねすコーポ、16時から19時までは介護施設なぞでの仕事が始まることになった。

 

 面接2日後の朝8時にはぴねすコーポに出社。

 これから伺う方の個人ファイルを5分程見て、詳細は現地に行ったら聞いてとの事。どうやらはぴねすコーポ本館と2号館があり、私が配属されたのは2号館らしい。口頭でここを出たら右に曲がって、そのあと左に曲がると見えてくるからと言われた通りに向かってみた。

 場所は近くて徒歩で約5分程度。慣れない雪道を踏みしめていくと古いアパートが見えてきた。昭和の時代のアパートだ。レトロな趣があり少しわくわくした。

 

 入口で挨拶をすると一室から女性が出てきた。その女性は和田さん(仮名)と名乗り、「待ってたよ。よろしくね!」と明るい笑顔で出迎えてくれてほっとしたのを覚えている。

 挨拶もそこそこにこれから担当する女性についての話を聞くと「簡単だから。ポータブルトイレでおしっこさせて紙パンツを交換するでしょ。その時一緒に着替えをして、ご飯は出来ているから食べさせればいいから。最初は一緒につくから大丈夫」と言われ、部屋まで案内してくれた。

 和田さんはノックもせずガチャっとドアを開け、「きーちゃん(仮名)。ご飯だよ。着替えるからね」と、ベッドの上にいる小さなおばあちゃんに話掛けた。耳が遠いのか認知症だからかきちんとした挨拶はかえってこない。ニコニコとしてかわいらしいおばあちゃんだった。

 

 きーちゃんは御年92歳、要介護5で日常生活全般について支援が必要な方だ。それでもしっかりと支えれば数秒ながら立位保持が出来るし、袖通しでは狭い範囲ながら腕を動かしてくれる。 和田さん曰く、 要介護5ではあるが、完全な寝たきりではなく自分の意思で寝返りをしたり、腰を落とすように自らベッドから降りて床を這いまわる事が出来るらしい。

 

 和田さんはきーちゃんに声をかけると、さっと抱き起して「あれ、シーツまで濡れてるわ」と言い着替えを用意した。再度きーちゃんの体を抱き起して、きーちゃんの左手を介助バーに掴まらせてひょいっと立ち上がらせた。左手で体を支えて右手でズボンとリハパンを脱がせたと思ったら、「はいよ」と言いながら方向転換をして、ポータブルトイレに座らせる。座った腹圧でジョーっとおしっこが出る。

 きーちゃんがトイレに座っておしっこをしていると、和田さんが私に「用意した物を着せて」と言いったので、恐る恐る声を掛けながら濡れた物を脱がせた。どこまで動かしていいか分からない棒のような腕や足を触るのがとても怖かった。

 上衣の着替えが済んで、次は支えながら車椅子へ移乗する。「さっきやったみたいにやれば大丈夫だから」と和田さんの言葉を信じて抱えるように抱き上げて、リハパンとズボンをもたもたと引き上げてから車椅子に座らせた。

 

 次は食事介助である。大根と人参の煮物はすでに刻まれており、コロッケの衣を剥がしたマッシュポテトの様なものとお粥も用意されていた。大スプーンで一口ずつ運んであげる。ゴクンゴクンとしっかりと飲み込んでいる音がして少し安心した。

 食事を口に運びながら、ふと「おしっこでお尻から背中まで濡れてたけど、洗ったり温タオルで拭いたりしなくていいのかな?」と思った。自分だったらせめて拭きたいなと思った。

 今からでも拭いた方がいいのか聞こうと思っていたら、和田さんが「今日はデイサービスで9時に迎えが来るから急いでね。荷物はそのリュックに入ってるからそのまま持たせて」と言って部屋を出てしまった。

 内心「えーっ、あと15分もないじゃん。ご飯まだ半分しか食べてないよ!」と思いながら、慌てて食事を終わらせた。入れ歯を洗い、口回りだけでもとタオルで拭いていた所にデイサービスの迎えが来てしまい、「すみません、すみません」と繰り返し言いながら上着を着せてなんとか送り出す事が出来た。

 

 初めての介護はなにがなんだか分からなかった。あまりにも慌ただしくて、やり残したことも多くてきーちゃんの背中を見ながら数分間は放心状態だった。「わたし、これあと何件も出来るかな」と不安になった。

 でもそんな事は言ってられない。この日、きーちゃんのあと4件のサービスが残っている。