舞台「モノノ怪~化猫~」
2023年2月4日(土)~2月15日(水) 

上野・飛行船シアター

 

日々ご無事の上演おめでとうございます🌸

舞台「モノノ怪~化猫~」この不思議な世界にひたひたと浸って、楽しませていただいております。自分の中にある理をどのように文字にしたらよいか....うんうんと悩んでおりましたが、2/10、あぁなんて素敵な演劇体験なんだろうとしみじみ心に降りてきて、筆を取る次第です。(って書いているうちに2/11と2/12の公演も浴びて幸せいっぱい)

大変長くなるであろうことと、ネタバレしかございませんので、まだご覧になっていない方はそっとお閉じいただきますようお願いいたします。
もしもご一読いただけるようであれば、こんな風に考える人もいるのだなぁぐらいにお読みいただけますと幸いです。

 

 

モノノ怪の“形”を為すのは人の因果と縁
「真(まこと)」とは事の有り様
「理(ことわり)」とは心の有り様

ーー皆々様の真(まこと)と理(ことわり)

  お聞かせ願いたく候。

荒木さん演じる「薬売り」さんが発するこの言葉。
これがなかなかに深くて、観劇のたびに新たな発見があります。繰り返し観ることで、人という生き物の「業」や「欲」について様々な視点で考え、想う。また素敵な物語と出会えたなぁと感謝をしております。

そも、私は荒木さんの出演が発表されるまでこの「モノノ怪」という作品を見たことがなかったのです。ご本人は元々ご覧になっていてお好きだったと仰っていた、2006年放送のアニメーション「怪~ayakashi~JAPANESE CLASSIC HORROR」の一篇『化猫』。
見始めたら数回繰り返してしまい、まず感じたのは「人」を救う話ではなく人が生み出してしまった「モノノ怪」を救うお話しなのかな、と。斬る、のは縛られてしまった哀しい心を呪縛から解き放つため。

また、なんとも美しくて独特な美術設定が物語の世界観を幾重にも際立たせていて、そこにキャラクター演じる声優キャストの方々の素晴らしいお芝居。人という恐ろしい生き物を知るごとに肌が粟立ち、人と怪どちらの気持ちに想いを寄せるのか境界線が滲む。「怪談」という芸術作品なのだなぁと。(まぁそんな浅はかな感想は、舞台を見て反省するのですが)

まだご覧になったことがない方は是非☺️
📺アニメーション「怪~ayakashi~JAPANESE CLASSIC HORROR -化猫-」

https://fod.fujitv.co.jp/title/5219/5219110009/


そのように素晴らしい作品だったものですから、飛行船シアターという「270度プロジェクションマッピング」の劇場で観られるの?没入感はさぞかしだろうとワクワクして初日を迎えました。

初日観劇後、正直に申し上げますと、お芝居は素晴らしかったのです。が、あまりに自分の妄想が育ちすぎてしまったが故にその...そうではないことに戸惑ってしまって。無限お札がババババっと劇場天井を埋め尽くす。視界いっぱいに整然と並ぶ天秤がチリンチリンと傾き始め化猫が忍び寄るゾワゾワ。劇場内を眩いばかりに舞う紙吹雪。「春のかたみ」と異界の狭間に消えてゆく薬売りさん。...そんな自分が勝手に育て上げたプロジェクションマッピングの妄想は存在しなかった。


でも、違ったのです。

この舞台「モノノ怪~化猫~」の楽しみ方は。それをハッとさせられたのはゲネプロの囲み取材記事でした。

📖エンタステージさんの素敵な記事

 

お芝居で表現されるその一つ一つの先に何が見えるのか。どう受け取って心に色を付けるのか。観客である私たちが選んで楽しんでいい。この「無限の想像力」を生み出すことができる「演劇」というエンターテインメントを楽しみつくせるのは自分次第なのだ、と。
与えられる視覚的没入感に甘んじるのではなく、その先にあるものを「想像する」、ソトからナカを観ることで「考える」ということ。それが私の理となるのかなぁ、なんて。荒木さんを応援していると色んな学びと潤いがあります。

前置きが長くなりましたが、物語に沿って感じたことを綴ります。

 

📝2/13~千穐楽に観た景色はこちら
 

客席から見た景色(2/4〜2/12)


プロセニアムアーチでありつつも、上方に伸びた白掘りとも言える白一色の劇場。面白い造りですよねぇ。上演を待つステージ上には大がかりな舞台装置はほぼなく、横広の衝立に作品ロゴがプロジェクションマッピングで描かれている。

出囃子とともに自然に湧き上がる、弥平さんを迎えるお客様の拍手。
私はこの瞬間がとても好きで、ニコニコしてしまいます。口上はほぼ生声で二階席まで響き渡り、「演劇を観にきたのだ!」と気持ちが切り替わる。

ひぐらしの鳴き声。
暗闇に一筋の光が差して薬売り姿の男が歩いてくる。

何時何処から現れたのか。劇場後方から客席通路を歩いてくるのですけれど、ここを通ると分かっていても気配を全く感じさせない。無色透明の存在。

荒木さん演じるこの「薬売り」さんは、人と怪、どちらかに加担することはなく交わることもなく、でも裁きをする訳でもない不思議な存在ですよね。なぜ退魔の剣を持っているのか、なぜ人の世のモノノ怪を斬るのか。人の世ではない何かを知っているのか、何一つわからない。でも『薬売りは食べない、寝ない』と原作アニメの中村監督がおっしゃったそうで、人ではあるけれど、どこか人ではないようなその何とも言えないキャラクター。

 

その、どうにも捉え難いキャラクターが見事に劇場内に実在していたんです。
これは、あとからジワジワ凄さがやってきて、何度も観劇した今でもおおおっと思います。真と理が見えにくい本当に難しいこのキャラクターを見事にお芝居で表現して具現化することのすごさ...。

瞬きや呼吸は、しているのだかいないのだか分からないほど希薄で。白肌に隈取りのお顔、歌舞伎者のようなお衣装、天色の瞳、色素の薄い髪、何処をとってもあの時代には違和感しかない設定なのに、違和感なく当たり前のようにあの世界に馴染んでいる。
足音もしないで暗闇から現れて、ステージに上がって初めて下駄の音がする。


あぁ現れた、のだなと。

何故、坂井家に現れたのだかは分からないのだけれど、家紋たなびく長屋門の前で薬売りさんが振り返ると、白景色の雪山に交差する男女の姿が浮かび上がっては闇にのまれ、またひぐらしの声がよみがえる。「中にはモノノ怪が居る」そのことを察しているのかいないのか…見えない表情に余白がある。

そして夏と冬、昼と夜、現世と異界、外見と内面、あべこべな坂井のお屋敷に飲み込まれていった薬売りさんを私たちはソトから眺めることになるのです。

孫娘の嫁入りに大忙しのお屋敷内。
舞台版では坂井家の人々について掘り下げられる初耳要素が描かれていて、嬉しいですよね。
真央ちゃんこんなに可愛らしい子だったのー!とか。あの坂井家の中で可憐に朗らかに育った真央ちゃんを見ていると、どれだけ水江さまが愛して守ってきたかと胸が詰まる。自らが得られなかった幸せを託して。まさかとは思いつつも、お義父さんが娘に近づくことすら心配そうに眺める。先ほどまで情事を重ねられた肌が生理的に近づくことすら拒否しているように、遠くから。

ちなみに伊行が居る座敷の襖絵に描かれているのは、松と鶴、髑髏と三途の川らしきものですよね(間違えていたらごめんなさい)。勝山と笹岡の登場シーンでは、原作通り獅子と猿が描かれていて、犬猿の仲なのだろうなぁと単純に理解できるので、そう考えると鶴は伊行の象徴なのかななんて考えたり(高い髷や赤鼻然り)。友人が教えてくれたのですが、鶴は「長寿」のほかにも「夫婦愛で一生添い遂げる」動物の象徴だそうで...すごい風刺ですよね。鶴も髑髏も沢山描かれていて、どれだけ闇に葬ってきたのかと。

原作のインタビューを拝見したところ、主役の薬売りさん以外はポンチ絵に近いイメージでキャラデを創られたそうです。「ポンチ絵」ってなんぞや?なのですが、日本の明治時代に描かれた浮世絵の一種で、滑稽・諷刺的な絵を指すそう。舞台上も、後々出てくる隠し扉には春画を彷彿とさせる女性や蛸が描かれていたり、表座敷で描かれていた海の絵とは対照的に座敷牢には手書きの海が描かれていたり。まるで落書きかなと思うくらいの「滑稽」さが、最後に薬売りさんが伊行にむけて伝える「伊行が守ってきたもの」と相まって唸ってしまうのです。

📖WEBアニメスタイルさん記事

原作 中村監督とキャラデ・総作監 橋本さんのものすごく面白いインタビューです。


めちゃくちゃ脱線してしまった...戻ります。
真央ちゃんが怪死してしまった時に、風のように颯爽と現れる薬売りさん、とーーーーっても格好良いですよね!!そしてこの時の「第一声」があまりに薬売りさんで、初日に観た時はのけぞってしまいました。荒木さんのお役では聞いたことのない声だったので(私は新参者なので間違えていたらごめんなさい)、櫻井さんの声帯も持っていたのですね..と。でも全部が全部寄せるわけではなく、ここぞという時の寄せとお芝居を優先するバランスが絶妙で。このオープニング前の短い登場でもあごに手を置き、これでもか!という表情と声で印象付けるお芝居にうわーーっとなりました。(本日2/12、その様子に原作ファンと思われる方が前のめりに小さく拍手されていてニコニコしてしまいました)。


ちなみに私の好きな台詞は、
「塩も、ご存じないか」
「おっと、気づいていやがったか…」
「小田島さまの頼みとあっちゃぁ」
あぁ可愛いくて格好いい😇✨

 (+本編最後の台詞が格別に好きです)

原作の設定集をちらっと見たら「怪~ayakashi~」の薬売りさんは結構豊かな表情をしているのですよね。驚いたり叫んだりしている設定絵がある。そしてなんでも知ってたり強そうに見えてそうじゃない。
「人」なんですよね。

飄々と肩の力が抜けたような風体でありながら、あの独特の間がある言いっぷり。人ではなさそうで人であるところに薬売りさん味を感じてしまう。
ちなみに原作cvを務めてらっしゃる櫻井さんが「セリフの間や言いっぷりはカット割りや台本からインスピレーションを得ているのですが、“このようになる”というセリフも“この、ように、なる”と分けられて書かれていて、それがある種の指示になっていました」と仰っていたことが残っていて、興味深いな~と思います。

 

 

📖十五周年記念祭レポート

櫻井さんのお話しはこちら

 (新作楽しみ!黒の薬売りさん、舞台でも観たいですね)

 

あぁまだオープニングの話しでした(笑)
オープニング後の暗転。暗闇で鳴る音はなんなのだろうと考えているのですが、もしや「モノノ怪の領分」が広がっている音なのかななんて妄想しています。
対して、厨では加世ちゃんの明るさにほっこりしちゃいますよね~。見知らぬ武家屋敷にすすすーっと入って馴染めるように、加世ちゃんに柔らかめの反応を返している薬売りさんにもニヤニヤしてしまう。ちょっと厳しそうなさとさんには、丁重な態度なのがまた。「こしょこしょこしょ」とか、目を合わせて飛び上がるのとか、アニメとお芝居が上手く混ざり合って上質なコミカルになる。加世ちゃんの可愛さも相まってニコニコしちゃいます。

座敷でお縄になっている薬売りさんも可愛いのですよね~。勝手に薬箱を探る男たちを仕方がないとばかりに薄っすら呆れながら説明し、退魔の剣に触られると雰囲気が一変する。あのシーンの余裕っぷりは公演を重ねるごとに格好良くなって、薬売り〜!!ってなります。
そして坂井家の人たちが自分本位な意見を言い合いだすと、そこから探れるものを全て引き出そうとばかりにあの大きな耳で聞いている。この時の表情変化は、ライティングも相まって急に人間ではないものになったかのように見えるのですよね。冷んやりとした空気、瞳孔、是非収録いただきたいです。

「探る」ためにわざと捕まったのかなとか、薬売りさんは重力を操れるのかなとか、退魔の剣がカタカタと鳴っていることからモノノ怪はやはりソコ居るのだろうなぁとか...大変情報量の多いシーンだと思います。(あ!お衣裳も素晴らしいので是非ご覧ください。目が忙しいけれど...)


灯りを持っていく加世ちゃんが居ることで、時間経過も分かりますよね。先ほどまで障子を立てるぐらい眩しかった太陽は落ち、夜がやってくる。対して外を行く弥平は、西日が差す中を汗をかきかきお医者へ急いでいるので、結界のナカとソトで異なる時が刻まれているのが分かる。
ちなみにあの弥平さんの台詞はたぶん録音なのですけれど、そう考えると冒頭の水江さまと笹岡の台詞も録音なのではなんて思えてきて、ちゃんと感染予防対策されているのだなぁなんて感心してしまいます(勘違いかもしれませんが)。

シーンは戻って、化猫の鳴き声が聞こえ始める頃。
誰よりも先にその気配に気付いて上手から下手に、下手から天井に薬売りさんの目線が移ってゆく。そして左右に後ろから振られる音響で、まるで自分がモノノ怪と結界の狭間に居るように感じるぞわぞわ。薬売りさんの目線の先に居るものを耳で肌で、感じることが出来るのは舞台版の醍醐味だなぁとありがたく思います。坂井家の人々と一緒に渦中に居るのではなく、この「狭間にいる」というのが絶妙で、客観的に観つつも片足はその世界に浸っているような感覚が面白いなぁと思ってしまうのです。(ちなみにスピーカーはステージ両端の投影部分の後ろにメインとウーハーが常設されているようで、プラスして後方に2台持ち込んでらっしゃるのかな?それであの異空間を生み出してくださっている音響さんにも拍手でございます)。


そう!真央ちゃんの魂がそろりそろりと歩いて怨念に取り込まれていくのを見送る薬売りさんの目線。真央ちゃんの歩みよりも目線が少し早い気がしているんですよね。先読みをしているような…。
思い返すとどのシーンでもその様に見えてきて、もしかしたら薬売りさんは見えているようで見えていないのでは。形を成したモノノ怪以外は、気配を感じることは出来ても全てが見えるわけではないのかも、なんて思っています。そして見送った後、ほんの微かに息を吐く。何を思っているのかなぁ。

化猫の鳴き声に怯える一同。

伊國が「酒を持ってこい」とさとに言う。言えばなんでも聞くと知っている命令。なのですけれど、さとへの甘えのようにも聞こえちゃうんですよね。伊國を伊藤さんが演じてくださった事で、ヒールではあるもののなんだか色気があって、人格がしっとりするというか。誰かに好きと告げることも知らずに歪み続けているのかなぁなんて考えたり。深みがあって面白いです。

伊國から自分が指名されなかったことにニコニコしちゃう加世ちゃんも可愛いんですが、これは好都合と小田島さまをお供に「用心棒が居るのはありがたいねぇ」なんて本心なんだか嫌味なんだか分からない言葉を言って厨へ行く薬売りさんも大好きです(笑)

残された坂井家の皆様のわちゃわちゃには、笹岡と勝山の台詞にもヒントがあるのですが、弥平を背負ってくる伊顕と伊國のやり取りからも兄弟の関係値が見え隠れしていますよね。おそらくは、伊顕は弥平の命がこと切れていることを理解できていなくて(知的障害を伴っている人物設定だと思われるので…)。ただただ愛する水江さまの為にお医者を呼びたい伊顕。そんな弟に「俺が治してやる」と弥平を連れてこさせる伊國。死体を叩いたり踏んだり。人も猫も死者をも敬うことが出来ない非道さを持った伊國が、「化け猫...ね。」と伊行に言う。眉を顰めてしまうシーンだけれど、お芝居として最高だなぁと思って観ています。

そうそう回想シーンで真央ちゃんが抱く猫、伊國の右手をひっかいても左手はひっかかないんです。血塗られてきた右手は、他人に擦り付けて拭いても拭いても簡単には取れなかったのではないかなんて思ってしまうのです。

塩探しのシーンも秀逸ですよね〜。小田島さまが薬売りに説明する形式で坂井家の様子が見えてくる。財政難の坂井家を支えているのは実質水江さまであること。様々な欲望が交錯していること。
にしても伊顕役 高山さんのお芝居がとにかくお上手で、水江さまを見たいと思っていてもつい伊顕を見てしまう。大人の体をした子供。ここの仕草はアドリブで都度異なっていたのですが、例えば虫を見つけて嬉しくて水江さまに見せたら怒られてしゅんとして。ある回ではその虫をいじいじしていたと思ったら、見つからないように一瞬で口にパクっと入れちゃったんですよ。仰天しました。水江さまのことが好きで、好きなのに期待に応えられない自分と増えていく借財。手詰まり感が半端ないという…。


塩探し、果敢にも暗闇に一人で入っていく加世ちゃんが、さすがに不安そうにそこに居てくださいねとお願いするところ「行くもんか。大丈夫だ!」と伝える小田島さま格好いいですよねぇ。声も良い。あの歪んだ坂井家の中で一人だけ、人のために動ける人。だからこそ「小田島さまの頼みとあっちゃぁ」になる気がします。

小田島さまは色んなシーンで薬売りさんの補助的お芝居をしてくださっていて、影の功労者だなぁと思ってありがたく見ています。静と動というか…小田島さまが大袈裟に動いてくださることで、薬売りさんらしさが際立ち、表現が広がるというか…。薬売りさんが見てる景色と人が見てる景色は違うのだろうなぁとか。あと、あのまんまるの目と下まつ毛、最高ですよね😂ほんっと小田島さまだー!ってなります。


天秤のシーンも、三人のやり取りにほっこりしてしまいますよね。薬売りさんの小田島さまへの態度がどんどん雑になっていって、途中全然振り返らないところとか…(笑)自分の手にも乗るのかも!と手を出してみて相手にされない小田島さまも可愛い。

ちなみに天秤を並べ終わった後、小田島さまの話しを横耳で聞きながら、薬売りさんは下手から上手をつーーっと眺めるのですよね。あの原作での天秤がずらりと並んだ座敷を彷彿とさせる、目線で伝えるお芝居。最高だなーって思って観ています。

猫が居ない理由。

後ろめたさを抱えた人物は下手に集まって居て、全員の表情変化が見えやすいですよね〜。さとが話し始めるとバツが悪そうに笹岡が後ろを向く。その元凶である伊國は少しも悪びれていなくて。その後の伊行がまた、いかにも常識人のようなことを言ったりして、その伊行を見て心底嫌そうな顔をしている伊國...後で出てくるさとの叫びを思い出してしまう。

舞台上に居るキャラクターが多く色んなところで各々の心理表現が進行していて、どこを観るかで新たな気づきがあるところが面白い作品なのですが、物語の核を担う箇所は目線をしゅっと纏めてくれていて流石だなぁと思ってしまいます。


刻がやってくると、鈴の音が上手から下手に移り鳴り響く。小田島さまが子の上刻か下刻と言っていて、原作ではちょっと前に鐘が八つ鳴っているのですよね(たしか)。「丑三つ時」がやって来るうすら寒い感覚。
そして鈴の音が鳴っている方向に向かって薬売りさんもステージ上を移動していくのですが、まるで天秤がチリン…チリン…と傾いて化猫が近づいてくる様を見ている様で。あぁ膨らみ!と思います。
そして、下手端で空を睨む薬売りさんがあまりに薬売りさんで。2/10公演だったかと思いますが、本当にびっくりしました。そのシルエットと、微動だにせず目だけが気配を探って動いていて。アニメからボンッと立体化したみたいだった。


水江さまが真央ちゃんのもとに駆け寄ると、下手後方から聞こえていた鈴の音が不意に消えるんですよね。前方に居たはずの化猫の存在が居なくなって驚く薬売りさん。再び鈴が鳴るとそれは会場全体に響き渡って、どこから来るか分からない緊迫感が目線だけで伝わってくる。台詞なしなのに表情差分で伝わるものが多くて、申し訳ないと思いつつ薬売りさんを凝視してしまうんです(笑)

 

客席通路に現れた珠生さん。

ゆらりゆらりとしていて良いですよね〜!冒頭、真っ白な景色に艶やかに咲いていた珠生さんが、物語の進行とともに真っ黒になって。坂井家の人々を連れ去りに来る。

二十五年前の美談のように語られる嘘の世界。

「伊行若」の大平さんは短い出番だけれど、あの若と老、嘘と真の世界でのキャラクターの違いを絶妙に演じてらして印象深いです。実は嘘の中にも真があるのかもしれないと戸惑うぐらい。ああいう多面性というか妄想癖が伊行にはあったのだろうと思わせる深みが素敵だなぁと思います。

 

そして岡田さんの珠生!珠生ですよ。

可愛くて美しくて強くて大好きです。

雪の色を 奪いて咲ける 梅の花。

そんな句がぴったりな、誰しもが惹かれてしまう美しさが珠生さんにはあったのではないかと思っていて。そして芯が強い。腱を斬られて動けない自らの境遇を恨むよりも誰かを生かす強さがある。だから気丈にも声を上げなかったんじゃないか…なんて思っています。連れ去られた直後、閉じ位込められた世界を仰ぐ表情、堪らなく好きです。

そんなウソのお話しを語る伊行を見る伊國の表情も凄いんですよ〜。もーホントに凄い。
伊行は本当にそう思い込む(自ら記憶を改竄する)悪癖があるのかななんて思っていて。そんな美談を作り上げた父親をジッと見ている伊國。自らが原因で命を落としてしまった珠生を思っているのか、はたまた母親や自らももしかしてその悪癖の犠牲になったことがあるのではないか…なんて。知っていてそこに順応せざるおえず狂ってしまっているのではないかなんて妄想が捗るくらい、深みのある表情をしてらっしゃいます。


その後の薬売りさんの「見得」。

素敵ですよねぇ!!演劇って感じが嬉しくて。足の運びと所作、独特な喋り方がマッチして、素敵な演出だなぁと思います。

解明したと思いきや怒り心頭の化猫。

人とモノノ怪の理が違うのではなく、語られた理が勝手に作り出されたウソであること。人のどうしようもない部分が、さとや伊行の愚行からも見て取れて苦しくなりますよね、反面教師というか…。自分が不幸ならば誰かも不幸じゃないと平等じゃない、と他人の幸せを願えないサト。家族を犠牲にしてでも助かるのは自分だと、生への執念が見える伊行。そんな中で、唯一の他人の気持ちを思うことができる小田島さまの叫びを聞いて、ボロボロの薬売りさんが立ち上がる。

小田島さまの

頼みと あっちゃぁ

仕方あるまい!


かっこいーーー!!
剣は抜けないのだけれど、かっこいい!

大好きなシーンです。

そしてここからの過去シーンは、女性陣の名演に泣かされてしまうのですよね〜。素敵。
前々から非道な仕打ちを受けてきたのかもしれないさと。そのさとが水江さまに聞くんですよね、坂井家で生きることの意味。分かっていて「慣れましたか?」と。その時の水江さま、とっても小さく見えるのです。でも坂井家に嫁いできて起こる様々な事を全て呑み込んで、立ち上がった時は大きく見える。なのに訪れる最悪の出来事、義父が行っている悪行。「おめでとうございます」告げられた言葉は悪夢の様で、水江さまのどうしようもない絶望が伝わってきて、やるせなくて涙が出てしまう。


珠生さんの最期のシーンも辛くて辛くて目をそむけたくなるのだけれど。猫の幸せを願って、わずかな吐息、最期の言葉。お芝居が素晴らしくて。

観てるだけで悔しくて悔しくて、胸の中に溜まった喉がつかえるような熱。それを全て持って行ってくれるのが薬売りさん、なんですよねぇ。

ちょっと殺陣の話しに戻りますが、薬売りさんの殺陣、初日びっくりしたのは利き手じゃない左手で剣を振るっているのに全く違和感がないこと、なんですよね(え?ハイパーさんって左利きだった?って原作見直したら確かにずっと左手で持っていました...おぉぉ)。それから、護札から客席までの距離がとっても近い…。ダンサーさんや布との「剣を持った者同士の殺陣ではない」などなど、かなりチャレンジャーなシチュエーション。それが…日々進化しているんです。特に2/11ソワレで確変したように自分は感じていて、あまりに格好良くて本当に本当に惚れ惚れしてしまいました。
剣を振り下ろす前の間、立ち姿、気魄、映像で見ているハイパーさんが降りてきたかのようで。黄金色を纏っているかのように見えて、心底びっくりしました。

モノノ怪を為したのは人ではあるが、

人の世にあるモノノ怪は斬らねばならぬ。


坂井家の人々がぐるぐると伊行の周りを渦のように取り巻いて形を成していく。人の欲望や怨念がモノノ怪を作り出すのだという暗示だと思っているのですが、それを一刀両断して解き放つ時の「この地 この縁に囚われるな 清め払うぞ 赦せ」。という言葉。あぁ😭

ラストシーン。花が綻ぶ様な珠生さんの笑顔。

薬売りさんは珠生さんではなく一緒についてゆく猫を見るようになった気がしていて。いや、もしかしたら猫も見えていないのかもしれない。けれど微かに微笑んで、発するその言葉が表情が今までにないもので、2/12マチネは号泣してしまいました。本当に本当に救われたんです。観ている自分の気持ちも浄化してくれたみたいな感覚。


誰も、誰かを縛ったり

命じたりは出来ないからな


そうですよね。
あぁ、良いお芝居だなぁと思います。

原作のインタビューでも「第六感で観てくれ」って言ったことがあると中村監督が仰っていて、それと同じくしてこの舞台も、嗅覚や聴覚、心を研ぎ澄ませて、千穐楽まで沢山の事を感じたいなと思います。
 

あ!どこかの記事で拝見したのですが「日本の怪談」は海外のホラーとは異なり、ただ怖いだけではない。最初は恐れていたモノノ怪を知るほどに、人にではなくモノノ怪に哀憐の情が湧くものなのだと。アニメでも舞台でも明確な答えを出してくれないのは、見た人それぞれが考えることだから。私が綴った言葉も理も人其々。

 

でも舞台上には役者さんたちが込めた真がある。

2/15まで公演があり、まだ立見席ならあるのかも?配信も円盤もございます。

ぜひご覧いただけましたら幸いでございます。

 

いつも心潤うお芝居をありがとうございます。千穐楽まで、一座の皆々様が幸せでありますように。美しい景色が見れますように。

荒木さんが笑顔溢れる日々を過ごせますように。応援しております🌸

 

解き、放つ―――!

 

公式さん情報

📖荒木さんインタビュー

📌舞台「モノノ怪~化猫~」公式サイト

🎥2/12(日)公演(マチソワ)配信 2/22まで購入・視聴可能です!

📀Blu-ray 2023年6月発売予定

https://officeendlessshop.stores.jp/items/63dd8120d19123294f777bfc#/storesjp


📌ご出演

薬売り:荒木宏文
珠生:岡田夢以
坂井伊行:大平峻也/大重わたる
加世:水原ゆき
坂井伊國:伊藤裕一
小田島:白又 敦
勝山:西 洋亮
笹岡:遠藤拓海
さと:伊藤わこ
坂井伊顕:高山猛久
坂井水江:新原ミナミ
弥平:中村哲人
坂井真央:波多野比奈
パフォーマー:川村理沙/肥田野好美/大橋美優/鈴木彩海(G-Rockets)

 

繋がり情報

📌羽尾さんデザインの舞台グッズも大変素敵です

 

📱カンパニーの皆さまの素敵な雰囲気が垣間見える一コマ

 

📌原作アニメエンディングテーマ

「春のかたみ」の歌詞

松任谷由実さん作詞・作曲のこの歌が本当に素晴らしいので、ぜひ一度ご覧ください。

私はやっぱり珠生さんを思い出してしまう。もしかしたらと思ってしまう。