「にっかり青江単騎出陣」
大千穐楽 2022秋-香川公演
10.12(水)レクザムホール(香川県県民ホール) 大ホール

 

この「にっかり青江単騎出陣」という二年にわたる全国巡業は、見守らせて頂いたというには眩しすぎて。風が吹く度にふと面影を想い出し、刻まれた心の形が浮き彫りになるような。時が経つことに鮮やかになってゆくなぁと、愛おしく想う気持ちが日に日に濃くなってゆくのを感じています。正に、結んで開いたら閉じて、この手がきっと覚えている…。まだ綴っていなかった千穐楽公演のこと。取り留めもなく長くなりますが(笑)



高松の街を歩けば、にっかりさん色の服を纏った人たちとすれ違う。全国から集まっているのでは、と思うのは大袈裟ではない気がする。嬉しい世界。
黄昏色に空が染まる頃、1時間以上前にも関わらず劇場へ向かう波。自分自身が緊張しすぎて皆さんのお顔を見る余裕はなかったけれど、一人一人の想いを抱えて迎える、大千穐楽公演。

想いが劇場中に溢れて、どうなってしまうのだろうと思っていたけれど。座席に座って深呼吸したらなんだか落ち着いて。あぁ、荒木さんなら大丈夫だと思って。
ご自身も劇中、明るくなった客席を見て自然と一歩後ずさっていたような...。きっと全国から千里の道も越えて集まった想いがあの劇場にみっしりと詰まっていたと思うのだけれど。故郷で出迎えられた時のような、温かくて慈しむ想いに溢れていて。そして、荒木さんの積み重ねてきたものを想ったら不思議と大丈夫なのだと。貴重な体験をさせて頂いたなぁと今、改めて思います。

開演の随分前から、多くの皆さんが座席に座っていて。この単騎公演ならではの静寂。昂る気持ちも増幅して、影アナから幕開きまでがいつもより長く感じて。遂に迎える「終わり」の「何度目かの始まり」を待つ、贅沢なる刹那の余韻をたっぷりと楽しませて頂いた気がします。

瑠璃色の照明で彩られた舞台。遠くで鳴る雨音。雫が反射しているかの様に、凛と光り輝く一本の刀。あちら側もこちら側も、見守っていてくれた幽霊さんがふわりと姿を消し、ゆらゆらとたなびく世界から魂が降り立つ。
透明なにっかり青江。

「これは何度目かの始まり」
喜びとも悲しみともなんとも言葉にできない沢山の想いを抱えた表情。今までの公演では、その地に降り立つのは別々の個体であると自分は感じてきたのだけれど、ここ香川だけは異なっていて。繰り返す侘しさや切なさをも愛おしいと思うような。今まで見守ってきた公演でずっと不思議に感じてきた、祝祭のうたでほろりと見せる「寂しさ」のように、言葉に出来ない瑞々しくて愛おしい気持ちと通ずるような…。そんな事を思いました。

「幽霊じゃぁないことは確かだろうね」と、明確化されない存在が現代に降り立って、息を吸って記憶や匂いを話し始める。各地、その土地の食べ物や任務の記憶だったと思うのだけれど。香川公演だけは、単騎出陣で訪れた数々の土地についても振り返ってくれていて。物語と現実、過去と現在と未来。色んなものがゆらゆらしていて、余白があって、全国から見守っている皆んなの気持ちも包んでくれているようで、嬉しかった…。
余談ですが、21年版パンフで「ご当地スイーツを巡ってください」という課題を頂いたんですと残してくださっていて。直接影響しているかは分からないのですけれど、それをもってしてあの炭水化物多めの数々だったのかと思うと可愛らしすぎて…(笑) 設定と本と演者と土地、全国巡業の醍醐味の一つがあの短い中に詰まっていて有り難いことだなぁと思います。

儚くも地に足がついた「微笑」。それはいつも誰かに向けていて、そして時を慈しむようでもあり。この公演ではより沢山の笑顔を見せてくれた気がします。
「どうして僕たちは歴史を守っているんだろうね」舞台端に座り、長く一緒に過ごしてきた後座を愛おしむように撫でる。張り扇を見つけて嬉しそうに笑い、手の中で鳴らした感触を喜ぶ。さぁ演ろうとばかりに前のめりに釈代に両手をついて。21年春公演では歌っていた講談冒頭が、ハミングに変わって葵咲本紀の世界が溢れ出す。

あの一呼吸。ハミングがあるから和らぐ。にっかりさんの目で見てきた物語が優しく語られてゆくのが好きで。家康公と物吉くんが語り合ったかつての仲間の話し。どんな事を話していて、どんな思いで聞いたのだろう。ふふっと笑みが溢れる姿に嬉しくなってしまう。
「殿に幸運を運ぶのじゃ」長年共にした三河武士の人々が死に向かってゆく。せめても未来の幸運を作るためだと叱咤激励して。返り血に塗れた物吉くんの笑顔。かつては歌われなかったにっかりさんの歌。カラカラと廻るかざぐるま。

そんな気持ちを抱えて。向き合わなくてはいけないと、自ら言い出せる強さ。太く厚みのある男らしさ。にっかりさんにとっての「君に馴染む」ということ。
全てが込められたような旅立ちの時。
当初存在した審神者の声が無くなった事で、私たちが公演ごとに思うにっかりさんへの気持ちの幅を持たせて貰えたように思います。大丈夫だと背中を押してあげられる時、行かないでと口から出てしまいそうな時…この大千穐楽の日はひたすらに幸せを祈って送り出しました。強くなるという彼を信じて。きっとそれは本丸の皆も同じ気持ちなんじゃないかと思ったり。

剣舞。この日のにっかりさんは天井を見上げることはなく、真っ直ぐに正面を向いていて。今、この劇場こそが「本丸」なんだと。胸がいっぱいでした。あんなにも美しく力強く舞いながら、微笑んでいて。つつーっと美しく切っ先が描く軌跡。円環・菊花・時流…にっかりさんだからこその輪舞。心の輪郭が波紋を描くように。天から降りた雄大な心を大切に収めて持って行くよと。微笑んで旅立つ。高鳴る鼓動。荒木さんが研鑽してきたものがここにきて完成するのか!と本当に本当に熱い気持ちになりました。

一礼をして駆けてゆく姿を送り出すように熱く鳴り響く拍手は、シーンの切り替えと共にピタっと止み、そして温かい手拍子に変わる。もぅ、観客全員の気持ちが一体になったみたいな手拍子。声を上げられないからこその想いが、一拍目から溢れてて凄かった。いつもはにっかりさんが「遊んでくれるかな」というのを待つのですけれど、どうにも待ちきれなくて。
最終日、台詞を変えてくれたんですよね。私たちの手拍子を聞いてから「よし、この早さで行こうか」と。平日の香川公演、3階席までみっしりと埋まった2000人の、そして配信で見守っている数多の「旅人のうた」。思い出すと泣いてしまう。その時も目から水がとめどなく溢れて、でも笑わなくちゃって手拍子をして。

瑠璃色に彩られた空。響く歌声。
21年秋の南相馬で驚くほどに変わったと感じた歌へのアプローチ。22年春では上手く歌うのではなく演劇の、ミュージカルの歌として「心を歌う」ようになったのでは、なんて思っていて。その変化を一番感じたのはこの曲だったなぁと。静寂の中で腕に抱く子に、繋いだ手が大きくなり巣立っていく姿に…にっかりさんの心が震えると歌声も溢れて朗々と共鳴する。公演前のアップに時間をかけるお話しをSNSでされていたけれど、この歌心を聴かせてくださる為に入念な準備をしてくださっているのではなんて思ったりして、胸がじんじんします。

「仲の良い三人兄弟に見えていたんだ」
村正さんや皆と見守っていたあの時。当初、私たちの方を見て教えてくれていた時もあったけれど。少し表情が見えないくらいの、懐かしむような声がにっかりさんらしくて。大倶利伽羅の優しさを嬉しそうに語る姿。共に過ごしたあの時をどれだけ愛おしく思っているのかが伝わってくる。

大切なものが増えていくごとに、生まれるこの気持ちをなんというのか。愛しむ感情と同時に失うことの残酷さが伴う。刀剣男士だから救えるもの、刀剣男士だから救えないもの。自らに何かが欠けているのではないかと。強ければ。
「てんてんてのひら」ゆらゆらと波打つような照明にぽつんとひとり立って、儚げに微笑んでいる。

「交わりは軽薄な人と結ぶことなかれ」あの時の言葉は、大切な人と結ぶ約束の重さや生真面目さの裏返しのようにも取れるけれど。きっとそのような交わりをしてみたかった。夏虫のように焦がれるままに、愛する者たちを護りたい。そんな男らしさがあるのではないかと。青々とした春の柳のままに、季節が巡っても枯枝になることなく豊かに風にそよぐ柳のように。しなやかな心で。
「折ったり折られたりしよう」は、きっと刀のにっかりさんとしては唯一の交わりだったのじゃないかと思っていて。公演ごとに異なっていた、あのお芝居を思い出して胸が詰まってしまう。

「まいったな」
ハハッと笑ってこぼした言葉は、旅立ちを真っ直ぐな瞳で送り出してくれたのではないかと思う石切丸さんを想像させる。笑うことは出来なかったけれど、信じて送り出してくれた仲間たちの期待に沿いたいのに。張り付いたような笑顔ではなく、寂しげに笑っていた。「心から笑う」という事がどれだけのことなのかと改めてハッとする。きっと私が思っているより、もっとともっと豊かで優しい刀剣男士なんだと。深まる、とはこういう事なんだと。

幽霊さんに伝えた、成したい事、なりたい事。心の柔らかい部分を見せてくれたから、じんわりとしっかりと伝わってくる。
「笑いたい、心から」と言ってほぐれる四肢。

長く旅を共にした幽霊さんが、愛おしそうに嬉しそうに、目に見えぬニッカリ青江を撫でる。真実を受けいれる事が出来る、芯のある刀だから。
「ええ」「もちろんです」
この声が大好きで。この声に、偽りがない赦しがあるからこそ、誰にも言えなかった望みを口に出来た気がしていて。斬ってしまったことを「後悔」の記憶とするのではなく、弱さを受け入れて「それを覆えすだけのことを成せばいい」。誰かを笑顔にする。刀剣男士だからではなく、自身が成したいから。

大切に刀身を持ち上げる。
自分の心を大切に受け入れる。
そして、そばに居て見守ってきてくれた存在に伝える心からの感謝。

届く手紙たちに、おいおいと泣いてしまって。映し出された後姿を見たら、なんだかこの47都道府県を巡ってきた色んなことが思い出されてしまって。絶対に声を上げて周りの方々に迷惑はかけてはならないと、ハンカチで顔を覆って。戻ってきた勇姿を見届けたくて息を整えようとするのですけれど、あまりに嬉しそうに「そろそろ帰って、その手伝いをしようかな」って言うから。

「刀剣乱舞」本当に本当に誇らしかった。
ここから涙が止まらなくて、正直視界はぼやぼやだったのですけれど。配信を観たら一つ一つの歌詞が溢れんばかりに胸に突き刺さって。強く強く鍛えし鋼。匂い立つ妖花。

闇を切り裂いて進む心強さ。解き放たれる火花のような魂が誇り高く立っていて。


万雷の拍手。見渡して伝えてくれた言葉は、一言一言が優しくて嬉しくて。「祝祭の歌を」という様子はやっぱり少し寂しそうに見えて。
静寂の中、ふぅと息を吐いて歌う。
あなめでたや。
響き渡る声が、どれだけ心を幸せで満たしてくれるのか。届く、響く、描かれる。これまでとこれから。万感の思いがとめどなく溢れて。あんなにも嬉しそうで。
想いは言葉で、言葉は歌で。
愛おしく繋がる、あなたとの歌合せ。

頂いたものを少しでも返したくて。ありがとうを伝えたくて、オールスタンディングでのカーテンコール。いつもより一回だけ多くご挨拶に来てくださって、伝えてくれた言葉がどれだけ響いたか。少し気恥ずかしそうに手を振って。これが終わりではないと、この本丸に帰ってきてくれたにっかり青江が笑っている。

「おかえり。」


大千穐楽、ひとつひとつ丁寧に、届けてくれた言葉たち。雨が降って、大地を巡って、美しい透明の水が湧き出るように。今までの軌跡を上書きするのではなくて、全てを内包して積み重ねて濾過して透明にして。ひたむきに、ただ真っ直ぐに。この公演で生きるにっかり青江の溢れる想いを届けてくれたから。

函館で願いを込めた絵馬。
想いが増えてゆく手書きのチノパンツ。
全国から届けてくださったaoe_journey。
劇場の扉を開けると、毎公演新鮮に広がる幽玄の世界。あの世界観を見事に表現しつつも、劇場ごとに位置も空間も異なる舞台美術。青森と桑名、面白かったなぁ。照明も其々に顔を変えて、観る席によっても鮮やかにも温かくも変わって。下関、神戸、箕面、とっても綺麗だったなぁ。映像演出と音響効果も毎回すごくワクワクして。桑名での音のしない(心で鳴る)納刀、熱かったなぁ…。音響も本当に素晴らしくて。こんなにも環境によって変わるのかと驚き、その度に観客に寄り添ってくださって感謝しかありません。青森、下関、山梨、千葉…凄かったなぁ。ヘアメイク、お衣装もいつも美しくて。最終日に衣装を直す仕草が減ったのは最後まで調整してくださったのかしらと思ったり。あぁ、楽曲も振付も最高で。劇場で迎えてくださるスタッフさんもいつも丁寧で、真摯に向き合ってくださって。こんな1ファンに覚えられていると嫌だろうなぁと、ご挨拶も出来なかったけれど。いつもいつも有り難いと思っておりました。あとは土地土地で75分を共にした名も知らぬお客様方。函館、都南、鹿児島、結城、沖縄、山形、徳島、香川…上げ始めたらキリがないのですけれど、本当に全部、全部の公演が思い出深くて尊いなぁと思います。
最高の友人たちも出来ました、ひひ。

演劇を届けに。荒木さんのその言葉に、その演劇を土地を空気を観てみたくて、初めて訪れる土地がありました。本当に日本は広くて、でも行く先々で温かい方々がいて、美しい景色があって。特に丸亀では迎えてくださる皆さんの大きな気持ちに触れたり、長野では歌合でのにっかりさんを思い出したり。ひとりひとり積み重なる想いがあるのだろうなぁと思うと、なんて尊い単騎公演だったのかとありがたく思います。それもこれも荒木さんが歩き出してくださったから。

39歳の節目となるこの公演を可能な限り見届けたかった。47都道府県65公演中、32都道府県40公演。ひとつとして同じ公演は無く、美しく豊かに輝いています。

そして、まだ終わらないよと伝えてくださったから。泣きそうに愛おしいこの気持ちを大切にして、この先の一歩一歩を精一杯応援して参ります。
これまでも、これからも。
ありがとうございます。

(10/25)
大切な事を書き忘れていたので追記。
伊藤さんの本がまたいつの日か観れますように。最高の物語をありがとうございました。

 


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 原作べっこ先生

脚本・演出 伊藤さん

 演出助手 山﨑さん

振付・ステージング 福澤さん

振付補佐 皇希さん

作詞 浅井さん

美術 平山さん

殺陣 清水さん

衣装 小原さん

制作協力 高橋さん

丸亀市観光協会さん

●でじたろうさんの素敵なお写真



(23.3.20更新)

●遂にアーカイブ配信開始です😭✨


●23.8.2 📀Blu-ray/DVD発売

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